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私たちは見つめる とめどない悲しみを

昔 4つの季節はランダムに現れた。

例えば今日は金木犀の香りが漂う。きっと秋なんだろう。この後、どの季節が現れるか正確なことは誰にもわからない。

季節は人々の悲しみの総量によって決められる。

世界の悲しみの総量が半分を下回った時、徐々に気温は上昇し、空気は微かに色を帯び始める。風に追いついた空気が幾重にも重なり合った時、人々は春がやってくることを知る。街ゆく人の挨拶はそれぞれに感じられた空気の色。

「やあ こんにちは。今日は黄緑色のお天気だ。もうすぐ町中に杏の花が降ってくるだろう。」

「やあ こんにちは。今日は紫色のお天気だ。美しい夕焼けがピンク色に輝くだろう。」

「やあ、こんにちは。今日は桃色のお天気だ。そのうち黄色い牛たちの群れがこの街にやってくるだろう。」

花々は大きく背伸びを始める。もうすぐ一斉に踊り始めるだろう。

世界の悲しみの総量が半分を超えた時、徐々に気温は下降し、湖は深い群青色になる。

悲しみが一度に押し寄せてしまった時、秋は姿を見せない。厳しい冬の訪れだ。

小雨が降るたびに、丸い円を描きながら広がる水紋はもう現れない。水たちは頑なに心を閉ざし、カチカチと音を立てて凍り始める。

心のバランスを崩し始めた風たちは、方向性を失い、勢いよくぶつかるたびに、パリンパリンと割れていく。

月は黄色く輝く術を持たない。黒い月がはるか彼方に現れる。

人々は呟く

「透き通った冬が来てしまった。」

自分たちにはどうしようもないほどの悲しみを、とめどなく見つめる。


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