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同調圧力を克服したい人へ

ある実験の話をします。

6人の被験者が、下のような図を見せられて、左側にある線分の長さと同じ長さの線分を右の3つの選択肢から番号で答えるという、超簡単なものです。

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6人の被験者のうち、5人は仕込みで、本当の被験者は1人だけです。実験の様子を記録した下記の動画では、右から2番目の白いTシャツの男性です。

1問目、2問目はつつがなく進むのですが、3問目でこのTシャツの男性がどう答えるか注目してください(クリックで1問目の回答場面から再生)。

これは、Solomon AschのConformity Experimentという実験で、絶対に間違えようのない簡単な質問を、あるタイミングで被験者以外の全員がわざと間違えるように仕込み、被験者がそれに引きずられるかを見るものです。

間違えようのない質問を、周りが「間違えた」タイミングで同じように間違えるということは、それはすなわち同調圧力(Peer pressure)によって正しい判断が歪められたと考えます。

動画では、Tシャツの男性が困惑を表しながらも周りに引きずられて明らかに長さの違う線分の番号を答えています。(1:06)

同調圧力は、誰にでも作用する

よく、日本人は集団主義的で、日本社会は同調圧力が強いという言説があります。ある有名なエスニックジョークでは、沈没船から海に飛び込むのを戸惑う人に、どう言えばいいかという問いにこう言うとあります。

日本人には「みんな飛び込んでいますよ」と言う
アメリカ人には「飛び込めば英雄になれますよ」と言う

なんとなく納得してしまいますが、本当でしょうか

下記の、同じ実験をした動画では、英雄になりたいアメリカ人でも引きずられる人とそうでない人がいるようです。

同調圧力は、国民性に関わらず、集団の中の人間であれば大なり小なり感じるもので、集団と異なる判断をした自分の意見を、表明し、行動に移すのは、勇気がいります。アメリカ人でも、日本人でも、関西人でも同じことです。

では、同調圧力に打ち克って、正しい判断をするにはどうしたらいいのでしょうか。

自分にも、同調圧力がはたらくとメタで知ること(他山の石)

同調圧力の存在を知っているか知らないか。それだけでだいぶ違うはずです。冒頭の動画の実験を見て、被験者を笑うことは簡単ですが、これが自分にも起こりうることだと想像できるでしょうか。

この馬鹿馬鹿しいことが、状況によっては自分にも起こり得ると考える人だけが、同調圧力に対抗することができます。

さて、パイロットは、同調圧力に特に気をつけなければいけない職業の一つです。コクピットでの判断に責任を持てるのは、機長(Pilot in Command)だけですが、同時に機長は他人の協力のもとに飛行機を飛ばしていますね。

隣には副操縦士がいますし、客室乗務員もいます。また、地上でも色々な職種の方々が飛行機を時間通り、安全に運航するために最大限努力をしているわけです。

また、機内には当たり前ですが、乗客がいます。そもそもその便を運航する目的が、乗客をある地点に運ぶことだからです。彼らのために飛行機が飛ぶと考えれば、パイロットは乗客からも同調圧力を間接的に受けていると考えることができます。

これは、First Officer(FO:副操縦士)であっても同じこと。そもそも、FOは将来の機長であることに加え、毎回のオペレーションの指揮系統序列ではSecond in Commandといって、機長が何らかの原因でその職務の遂行が不可能になったとき、これを引き継ぐ法的な権限を持っています。

だからパイロットは、自分が「なんとなく」してしまった判断が、破滅をもたらす可能性を、常に意識するべきです。

正しい判断の阻害要因として、今自分は同調圧力に晒されているか、と自問するには、そもそも同調圧力とは何なのか、その怖さをよく知っている必要があります。

土壇場でそれができるかどうかは、どの大学を出たかより、はるかに重要なのです。

物語で理解する

わかっちゃいるけど、それでもハマっちゃうんだから仕方がないという向きもあるでしょう。

確かに、同調圧力から完全に自由になることは難しいかもしれません。でも、重要なのはここで間違えたら本当にやばいことになるかも、というときにどうなるかを知っておくことです。それには、シナリオや物語で考えることが有効です。

こんな例を考えてみましょう。

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