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NITSブリーフィングを知っていますか

英語が話せるようになりたいというとき、よく聞くのが「仕事の英語より、雑談の英語の方が難しい」という言。確かにそうなんですよね。では、どうして雑談の方が難しいのでしょうか。

それは、話題の背景となる知識や経験、言い回しなどに不慣れで、話されている言葉が英語であっても自分の知っている英語ではないからだといえるでしょう。日本語でも、共通の話題がない人との会話は難しいですよね。

雑談は仲の良い友達を作って共通の話題を持つしかありません。つまり、究極的には英語圏で生活するしかないということですが、そのための橋頭堡として、まずは生活の基礎となる仕事や学業において自分の英語を一定以上にするという作戦が考えられます。

仕事における一定のレベル

仕事の英語ができる、とはどういうことでしょうか。それは、情報伝達のツールとして、英語を使うことができると言うことです。口頭による情報伝達で大事なのは、正確性と即時性です。つまり、相手の話を正確かつ迅速に理解し、自分の話を正確かつ迅速に発信することができれば、仕事をする上での英語が一定のレベルに達したと言えるでしょう。

そのために必要なフォーマットとして、NITSブリーフィングを紹介します。

NITSとは

NITSブリーフィングは、一般的に飛行機が緊急事態に陥った時の情報伝達フォーマットとして広く教育されています。歴史的にフライトクルーからキャビンクルーへ、自機の状況を正確かつ迅速に伝達するためと教えられてきましたが、現在はキャビンクルーからフライトクルーへの伝達にも使うことができるとされています。NITSとは

Nature of the situation:状況の概要
Intentions:クルーの今後の行動方針
Time:状況終了までのおおよその見積もり時間
Special Instruction/Imformation:その他の重要な付随事項

の頭文字をとったものです。

https://skybrary.aero/articles/nits-briefing


例えば、離陸したあとに飛行機のエンジンに火災が発生したとしましょう。この場合、パイロットはまず飛行機を安全な方向に向けて、その後、手順にしたがって状況に対処します。

さて、火が無事に消えたとしましょう。火を吹いたエンジンは原則として使えないので、この飛行機はエンジン1基で飛ぶこと(片肺)になります。片肺でも飛行機は安全に飛べますが、残りのエンジンに何らかの不具合が発生してしまうと後がないので、エンジン火災では最寄の空港にダイバートすることが多いのです。この場合は、離陸してすぐなのでおそらく出発空港に戻ることになるでしょう。

初期対応が終わったところで、オプションを検討し、出発地に戻ると決めたら、それが「Intention」になります。戻るための航路やアプローチのセッティングなど、安全に戻るための仕事がありますが、飛行機に積んでいる燃料には限りがあるので、燃料が尽きる前に仕事を終わらせ、どこかに降りなければいけません。それまで、どのくらいの時間がかかるのか、見積もります。これは、「Time」になります。

あとは付随情報として、飛行機に何人人が乗っているか(POB)、貨物に危険物が含まれていないか、メディカルコンディションなど、特別なケアが必要な乗客はいないか、救急車や消防車が必要かどうか、緊急脱出は必要か、滑走路上で止まるのか、滑走路から出てゲートまでいくのか、等、このフライトに限って特に注意が必要な付随情報があります。「Special Information」です。

上記の状況を、フライトクルーからキャビンクルーに情報伝達すると考えて、NITSに従って書き出してみます。

Nature of Situation

Right Engine fire after takeoff. Fire is extinguished. The engine is secure. The aircraft is safe to fly.

Intention

We will return to the departure airport

Time

in 30 minutes

Special Information

No evacuation is planned at this stage.
We will taxi to the gate.
Any questions?

こんな感じになります。客室にインターフォンで呼びかけ、「NITS Briefingだよ」と言うと、キャビンクルーは紙とペンを取り出して上記の伝達事項を書き出します。そして、書かれた内容を復唱し、フライトクルーと確認します。

NITSを使うことで、必要な情報が正確かつ迅速に伝わったことになります。

NITS:いつでもどこでも誰とでも

さて、ここからが面白いところで、「NITSを使うことで、必要な情報が正確かつ迅速に伝わる」のであれば、これは情報伝達を目的としたあらゆる言語的コミュニケーションに応用可能だと言うことです。

例えば、ATC(管制官)に状況を報告するときも、上記のNITSがほぼそのまま使えます。管制官は、POB、Dangerous Goods、Fuel Endurance、Fire Track Request、Planned stopping Pointなどを知りたがるでしょうから、Supplement Informationを適宜調節します。

あるいは、日常生活でも正確な情報伝達が必要な場合に応用可能です。

特に、言葉でしか内容を伝えることができない電話でのやり取りには威力を発揮します。例えば、車の修理のためにガレージに電話をかけるとしましょう。

Nature of Situation

I have a 1983 Toyota Levin.
Its engine occasionally runs roughly now.
The engine rpm drops during idling and sometimes stalls.
It started last week.

Intention

I want to fix it/ I want to get you to check it/I want a quote. 

Time

I can bring my car in tomorrow.

Special Information

It passed the roadworthy certificate last month.
It was serviced with another garage but they cannot locate the problem.
I use regular petrol

NITSに従って情報を書き出した後、それをみて電話をかければ、おそらく情報伝達がスムースにいくはずです。やっているうちにNITSが身についてくれば、書き出さなくても正確かつ迅速なコミュニケーションができるようになるでしょう。

そうすれば、仕事や日常生活における情報伝達が容易になりますから、それを橋頭堡にして、今度は情報伝達が目的でない会話、つまり雑談に挑戦してみるのもいいかもしれません。

NITS、ぜひ試してみてください。

編集後記

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