軽率に好きになった未来のサッカー選手


#サッカーの忘れられないシーン

中学生の頃、友達と外で遊んでいたときに後方からボールが飛んできた。
足で蹴り返すと「うまいじゃん」と言われて、その瞬間私は軽率にその子を意識した。

同じ学年の、違うクラス。
小学校も違っていたから、初めて言葉を交わした瞬間だった。

軽率に気になるあの子となったわけだが、運動神経が開花し始めていた私にとって蹴り返すことなどもはや反射神経のレベルで、「なんて偉そうなやつ!」だと思ったことも記憶している。

でも、ときめきとこの反抗心はいわゆるツンデレであって、「うまいじゃん」と言われたあとの友達との鬼ごっこはめちゃくちゃ口角が上がっていたと思う。友達を笑顔で追いかけ回す自分をあまり想像はしたくないけれど。

そしてのちに知る、いやすぐに知ったんだろうけれど、彼は帰宅部だった。そして、外部のクラブチームに通うサッカー少年であることも知る。

私の学校のサッカー部は全国クラスではなかったけれど、毎日練習していたし、体力作りと称して練習試合の帰りは電車で移動する距離を走らされていた。決して生ぬるい部ではなかったが、その器にも収まらないのが彼の実力だったのか、ここではたどり着けない、目指すべき場所があったのか。

彼は中学校を卒業すると同時に、違う県の強豪校へ行ってしまった。

私が彼を好きだったことはあまりにもあっけなく、友達から直接彼にバラされたり、私も告白未遂のようなことをやらかして、卒業式はそれは気まずい感じでお別れをしてしまい、なんとも不完全燃焼のままこの恋は強制終了した。

それから約3年後、1月の全国高校サッカー選手権の生放送を私は歯を食いしばって見ていた。自分の住んでいるところの代表チームははて、どこの学校だったか。

いままで、「涙のロッカールーム」でしか知ることのなかった高校サッカーで、頑張れ!と心臓がバクバクするような試合をそこで見ていた。


そして、いまでも忘れられない瞬間、それが
彼が交代をする瞬間だった。


学校で一番うまいヤツ、ともてはやされていたヤツが他の選手と交代をした。
私もチームスポーツをやっていたから、交代が決して悪いことではないと頭ではわかっている。

でも、一番うまいヤツは交代はしない。
しかも後半の、劣勢の状況なら、怪我をしない限り交代はしない。

強豪校に行ったって、全国の舞台に行けるとは限らない。
それでも彼は全国の切符をつかみ、選手としてフィールドに立つ帰宅部の彼を「本当にすごい」と、不完全燃焼だったアノ気持ちもなんも気にならないほどに、ただただ自慢の同級生だった。

・・・

それから、彼は地元に帰ってきて、教習所の待合でふいに再会した。
同級生を前にすると、ついついツンとしてしまう習性で、私の第一声は
「交代させられてたじゃん」だった。まったく、可愛げがない。
「見てたの」「うん」

野球派?サッカー派?なんていうよくある質問。
これに「サッカー派」と答えてしまうたびに私は、声変わりに失敗したような声の「うまいじゃん」の声をふわりと思い出してしまうのだろう。

彼はいまでも、サッカーやフットサルを続けているんだろうか。
サッカーの文字だけで、軽率に彼を思い出してしまう。
そして君が好きなサッカーを、軽率に好きになって、いまも好きだ。



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