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【物語】そらのたね #0 小さなアトリエ


小さな田舎の小さなアトリエは、10年目を迎えた今もひっそりと、まるで時が止まっているかのように、変かわらず静かにそこにある。
父が30年以上前に建てた古びた倉庫を改装し、廃材を集めて生まれたこのアトリエ兼店舗は、愛芽(めめ)が創作するジュエリーを制作し販売している。更に自身が描く絵や、お気に入りや頂いた雑貨も共に飾られ販売もしている。外観はジュエリーを販売しているとは思えないカオスなアトリエが愛芽にとって唯一のお城であり、大好きな場所。

暑かった夏が終わって肌寒さを感じ始めた頃、今年も年末にアトリエで開催する、新作ジュエリー展の創作にとりかかる。

これは愛芽が年に1、2回程開催する作品としての創作ジュエリーの場で、自然と毎年恒例となった展示会。よくあるお決まりの展示会ではなく、自分がやりやすい展示会を考えたところから生まれた展示会は、ギャラリーを借りて開催するのではなく、自身のアトリエをギャラリーにして約1ヶ月という長期開催するこの展示会は、お客様を急かすことなく静かな空間でゆっくり作品を観て触れて頂き、私は慌てる事なく、一人一人のお客様にゆっくり丁寧な接客をすることができる。

会場費はかからないし、お客様が来ない日や、時間は他の仕事をしながらお待ちできるので、より効率的。工具等は全て揃っているからサイズ直しやチェーンの変更等、臨機応変に細かな対応がその場ですぐにできる。何よりも誰にも気を遣わなくてよいから全く気楽だ。こんな展示会を開催している人は私の周りには居なかったし、きっと今もそんなに居ないと思う。だから不思議に思われているかもしれないけれど、それはある意味ジュエリーだから成立する展示会だった。

愛芽は独立当初から一点もの作品をメインに、いつまでも愛され、いつかアンティークと呼ばれるジュエリーを目指していて、機械的な量産や、流行、3Dプリンタでも創れる、いかにもなデザインのジュエリーを創りたいわけではなかったので、この展示会はとても心地よく、10年近くも続ける事が出来たのだ。
我が子同然の作品は、長く愛用頂けること、大切にしてくださるお客様の元へ一番に届いてほしいので、本当に気に入ってくださるお客様に出会う為には、押売りはせず物と人との一期一会を大事に接客していた。
次第に一年、半年間に感じ得たもの、技術的にも学んだり吸収したものを表現する、発表の場、アウトプットの場所にもなって、愛芽にとって次のステップに進むための重要な展示会にもなっていた。
>>meme-jewels gallery

今回の作品に込めたいものは既に浮かんでいて、それは宇宙、クロス(十字架)、種。そこに自身の作風にしている滴を種に見立て掛け合わせよう…
後はインスピレーションで宝石を選び、石に合わせて一つ一つデザインを描いて創作していく。

展示会のDMも毎回自身で創るのがお決まりで、独立前に2年程デザイン会社で働いていた経験がフルに活きて、絵も描く私はこのDMにテーマに添って描いた絵をレイアウトしたりしてデザインする。DMも私の表現の一部なのだ。
作品展のテーマは宇宙の種、そらのたねに決まった。頭の中で色々な候補がぐるぐる浮かんだけど、感覚的にこれだっとしっくり来たテーマ。

作品に込めた種は、この年種苗法の問題を耳にしてから、改めて種についての重要性を考えされられ、見えないところで実は大変な事が起きているのではないかと直感したからだ。
あくまで感覚が先に経つのだけど、ゲノム編集や遺伝子組み換えの種が大量に市場にてしまう事はとても恐ろしく、人間や動物達、はたまた自然の生態系も破壊してしまう恐れがある。既に遺伝子組み換えの食品は大量にあって、私はそうした種が今後更に生産される事には個人では危機感を抱いている。
子を持つ親というだけでなく、私自身、産まれてすぐにアトピーになり、痒みで苦しんだ記憶が今もある。小さいので強制的に搔きたくても搔けなかったからお陰で、痕も残らず小学生の時にはほぼ治っていた。
その頃から食事には気をつける生活だったから添加物大国の日本はこれに加えて、どんどんとアレルギーを引き起こす食物がいとも簡単に入ってくる。
遺伝子組換え食品が増えると共にアレルギーの子も確実に増えている。それが今度は種となって家庭菜園や農家に簡単に広まっていく仕組は私には恐ろしい。

それでも人それぞれに意見はあるので、あくまでも私の考えなのだけど、この事を全く知らない人が多いのも確かで、少しでも考えるきっかけをつくることは重要だと思ったのだ。

更に種は私達人間を始め、生物や地球、宇宙など全てに置換えられるとても壮大な言葉という事にも気づいた。

そして私が込めた十字架は、キリスト教のそれよりも、宇宙が好きな私が、たまたま読んだ"子持ち銀河のブラックホールで観測された十字架"という記事と写真にとてつもなくわくわくした。
種にリンクする宇宙に復活や自立、自律を意味する十字架が現れたなんて、わくわくしないわけがない。タイミングもまた絶妙で、何とも想像力を掻き立てられる。

そんな風にインスピレーションで浮かんでいた点と点が一つ一つリンクし、線となって繋がる現象が毎度毎度楽しい。
>>癒しの銀河

一先ずDMを完成させ、諸々の創作が落ち着いてきた頃、改めてテーマに込めた想いが伝わるよう、短い詩やメッセージをつくる。これも毎回している作業で、そこでようやくインスピレーションから生まれた自分の作品の想いを言葉にして整理してゆく。

だからいつも後づけになってしまうのだけど、感覚を言葉に変換する作業は私にとってとても苦手で時間がかかる。本を読むのも苦手な私なのだから、言葉変換は本当に時間がかかる。
先に作品が生まれ、その後に作品に込めたものを言語にして浮かび上がらせる作業の方が私にはとても楽なのだ。

そうして今回も詩が生まれた。
それがいつになく長い詩になった。

いつもと全く違う感情が芽生えていて、何故だかわからない感動がずんっと押し寄せてきて、書き終わった後も覚めることがない。
今までに味わった事のない不思議な感覚。


この詩が持つパワーが自身のジュエリー作品以上に強く大きいのを感じて、この詩を届けるのが私の使命だと感じた。理由は全くわからないけど、ただ感じた。それはそらのたねという詩が光の種となって、一番最初に私の心に撒かれた瞬間だった。

ただただ温かくも優しく力強いエネルギーが心の中からふわふわ湧いてきて、この詩を届けよう!と純粋に思っている私がいた。
チキンな愛芽にはまず不安や恐れはついてくるのだが、今回それを全く感じない。
「さあどうやって届けよう…」
まだ展示会も始まってないのに、もうそんな事を考えていた。

まさかどうしてジュエリーでも絵でもなくて、詩を届けたいなんて思っているのか。


小さな田舎の小さなアトリエで、
静かにひっそりと
そらのたねという物語が始まった。

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つづく

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小さな田舎の小さなアトリエでひっそりジュエリーを創作している愛芽。新作展をきっかけにそらのたねという詩が生まれ、何故だか私はこの詩を沢山の人に届け、この詩の想いに繋がる活動を決意する。 それは永い永い物語の始まり…