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食の風景・たらこと高菜のスパゲッティ

 祖母と母は食器が大層好きな人たちだった。家の台所には、和洋様々の食器が大きな食器棚二つへ所狭しと並んでいる。特別高価な物は無い。けれど屹度全てに想いが詰まっている事と思う。外で一期一会の出会いと見惚れては、少しずつ、買い求めて来たらしいそれらの食器は、古い物も多いけれども品が良く、美しく、大切に使われてきたとよく分かる。その証拠に二人はお皿が一枚割れると、欠片を両の手の平へ拾い集めては一頻り悲しむような人たちであったから。その様子は傍目に、執着と云うより愛着に見えた。これが物を慈しむ心であると思った。自分は物を大切に扱うよう心掛けているけれど、万が一割れたら今日までありがとう、さようならと潔く別れる事にしている。目の前でがしゃんとなると流石に「あっ」と悲しみが過ぎる事は過ぎるけれど、直受け入れてしまう。この世の全てには終わりが或るものだから。それでも大事にした時間の密度は変わらないと思うから。

 前置きが長くなったけれど、今日も美味しい食事を紹介するのだ。

 今日はそう云う懐かしさの漂う、古い一枚の洋皿に、簡単たらこスパゲッティを盛り付けてみた。具材は偶々冷蔵庫にあった高菜の漬物と、それにブラックペッパーを添えて。スパゲッティには茹で上がりにオリーブ油と塩胡椒を振っている。茹で汁を少し残した鍋でそれらを合わせて、お皿に盛りつけてからたらこを載せる。鍋やフライパンでたらこを混ぜると、鍋に結構くっ付いてしまうから、勿体無い。お皿で混ぜ合わせながら食べるスタイルが、たらこスパゲッティには丁度良いと思う。鍋を洗うのも楽になる。家庭料理は気張らないのが一番。引き算の美学。食べてもらう人も作った人も、出来立てが食べられるように、工夫しながら楽をして、みんなで美味しいご飯が食べられたらと思う。

 食卓に並んだお皿がレトロで色好く結構だ。料理に合わせてこんな風に周りにも気を配れたら、食事の時間はより一層楽しくて、それは素敵な時間になるだろう。

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