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掌編、短編小説広場

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此処に集いし「物語」はジャンルの無い「掌編小説」と「短編小説」。広場の主は「いち」時々「黄色いくまと白いくま」。チケットは不要。全席自由席です。あなたに寄り添う物語をお届けしたい… もっと読む
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2021年2月の記事一覧

掌編「いちさんの生態・ノスタルジー」

 皆さんこんにちは。黄色いくまと白いくまです。今日は自撮り写真の角度を変えて貼り付けてみました。どうですか、志高そうに見えませんか。さあ、おふざけはこの位にして、執筆に夢中のいちさんが新聞読むために一旦パソコンから離れた隙に、三度僕らの出番とばかりやって参りました。実は先日まで、あんまり寒いので冬眠しようと思い布団に潜っていたのですが、横になっても全然眠たくないんです。目を瞑っても眠れません。それで不図気が付きました。僕ら熊は熊でもぬいぐるみだなって。冬眠の必要なかったんです

掌編「桃の香に君想う」

 わたくしは、できることならあの子の傍へ居りたかった。  あの子がこの家へ生まれたのは、わたくしが迎え入れられて三年の後、まだ梅の蕾が固く結ばれた寒い日であった。続けておなごが誕生した事、家族は思い様々の様子であったが、わたくしは心から幸せと思うておった。姉妹もまたわたくしの事を大事に思うてくれた。代わる代わる私の前に可愛らしい膝揃えては、愛らしい口で歌など添えて、また時にはあられ菓子を分けてくれた、ほんに優しい御子等であった。時が経つにつれ、上の子の関心は余所へ向いて行く

短編「新しい時代」

 近頃話題の宅配サービスを利用しようと思い立ち、私は近所の取り扱い店へ荷物を抱えて訪れた。店頭にはこの会社特有のサービスなだけあって、その新サービスを宣伝するのぼり旗が幾本も誇らしげにはためいていた。自動ドアを抜けると、早速出迎えの係員がこちらに気が付いた様子で視線を向ける。抑揚の無い様な或る様な「いらっしゃいませ」を受けて、私はカウンターへ荷物を載せた。 「この荷物を届けて欲しいんですが」 「畏まりました。どちらへお届けになりたいか、もうお決まりですか」 「はい。七歳の自分

短編「小窓劇場」

 食事の度に上の歯の隙間に物が挟まって不可無いので、とうとう歯医者へ行く事にした。最初の予約をするまでは唯々億劫であったが、日取りが決まると少し安堵し、いざ通い始めると問答無用と半ば散歩の気分で外へ出掛けられるのが、案外に心地好いと感じるようになった。歯医者迄は歩いて十分もかからない。  診察室へ呼ばれた私は、手当たり次第に歯科助手へ挨拶しながら診療椅子へ身を預ける。病院何てもの自体が久し振りで挙動不審な私を、にこやかに、と云ってマスク越しだけれども、こんな四十のおじさんをに

「食の風景・美味しいは楽しい」―掌編―

 では僭越ながら、私に千五百文字だけお付き合い頂きたく存じます。  私には六つ上の兄がおります。下には十七離れた妹がおりまして、間の者を足しますと、全部で八人兄弟となります。これに両親を合わせますと全部で十人の大所帯でございます。ところが歳の離れた兄弟故、上の方と一番下は、一つ屋根の下で一緒に住む事はありませんでした。  さて皆様は、この世で一番好きな食べ物は何ですかと聞かれて、はっきり答える事が出来ますでしょうか。私はこの度お題を頂きましてから、美味しくて楽しくて一番好

「食の風景・苺」ー掌編ー

 お母さんと買い物へ行くのが好き。スーパーまでの、歩いて十五分位の道のりが、いつもと同じ街並みなのに、お母さんと並んで歩くと楽しい気分になる。もう春から小学四年生になるし、手を繋いで歩いたりはしないけど、でも、一緒に学校の話とかアニメの話をしながら歩くのが、家の中で会話するのよりも、ちょっとだけ特別な気持ちになる。まだ冷たい風の所為かな。それとも燥いだ靴音の所為かな。それともお母さんの隣に居るからかな。  スーパーに入ってすぐ目の前の売り場に、真っ赤な苺が沢山並んでいた。去