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センチメンタル・ジャーニー

【センチメンタル・ジャーニー】
A Sentimental Journey through France and Italy,by Mr.Yorick

スターン 1768

・・・私が旅に出ることにしたのは、ある男にあなたはフランスにおいでになったことがあるのですか、と冷笑されたからだ。フランス人について単に意見を述べただけなのに、直に経験していないというだけでこんなに辛辣な言い方をされたくはない。その日の晩から、私は衣類を鞄に詰め込み、船でカレーへと出発した。

主要登場人物
ヨリック氏 語り手、風雅な旅行者。
L夫人 同宿の旅行者。
R夫人 L夫人の友人。
B伯爵 シェイクスピアのマニア。
ラ・フルール 召使

スターンが転地療養の為二度赴いたフランス・イタリアでの体験を元にした作品。原題にも「France and Italy」とあるが、作品中ではイタリアまで到達していない。異国ならではの風物よりも、道中出会う人々や事件に対する主人公の多情多感な印象が連綿と語られている。
スターンはこの作品の目的は「人間と世の中を愛する術を伝える」ことだと述べている。「洗練された感受性を持ち、風雅で情感に満ちた」という意味で「センチメンタル」という言葉を流行させたのがこの作品である。

・・・旅行者にはありとあらゆる種類がある。無用の旅行者、単純な旅行者、物好きな旅行者、必要やむを得ない旅行者、などなど。かく言う私はその他の旅行者と全く異なってユニークな「風雅な旅行者」である。

召使ラ・フルールの手違いでL夫人に恋文を書く羽目になったり、スパイ容疑を晴らす際に自分の名前を「ハムレット」から引用したことでB伯爵が大変な有名人に会えたと思い込んだり、パーティーの場ではパリで最も洗練された機知の持ち主であると看做されたりした。

情感豊かな語りは、同時に感傷過剰が齎らす自己耽溺や軽薄さ、ユーモアをも表現するものとなる。

・・・宿に空き部屋が一つしかなく、フランス人の婦人とその女中との相部屋になるしか無い。十分に思案した後、私と夫人が大きなベッドを使い、女中は小部屋の簡易寝台。一晩中一言も話さない事を約束させられたが、眠れず婦人と話し始めた。心配した女中がやってきて見えないところで立っていた。私が婦人に向けて手を差し伸べると、触れたのは女中の・・・。(ここで唐突に、スターンは風雅な旅の物語を閉じている。)

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