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かもめ

かもめ

チェーホフ 1896

「トレーブレフ」
(悲しげに)君は、自分の道を見付け、自分がどこに行こうとしているか知っている。でもぼくは相変わらず、混沌とした空想とイメージの中を駆け回っていて、それが何のために誰に必要なことかも分からない。僕は信じることが出来ないし、自分の天職が何かもわからない。

(第一幕)
25歳のトレーブレフは伯父の領地内の廃園で劇を上演するところ。トレーブレフは、因州的ではないまったくの新しい文学形式を表現するという夢を持っていた。主演は若く美しいニーナ。ニーナは女優に憧れているが、親がそれを許さない為、今日も黙って家を抜け出してきたのだ。
トレーブレフの劇には文学的長所があったが、彼の母で女優のアルカジーナは真剣には観ていない。彼女は恋と歓楽に生きたいと思っているので、母親であることを思い起こさせるのが面白く無く、また、トレーブレフの前衛的な芸術への態度も理解出来ず、馬鹿にしていたのである。アルカジーナの愛人で小説家のトリゴードンも、自分の目指す作家像とかけ離れているトレーブレフを嫌い、ニーナの演技にだけ見入っていた。
(第二幕)
ニーナは有名女優のアルカジーナに心酔、またトリゴードンにも纏わり付き、トレーブレフのことは冷たくあしらうようになっていく。ある日、トレーブレフは1羽のかもめを撃ち殺し、ニーナの足元にそれを置いた。そしてニーナの心変わりゆえに、自分も死んでかもめ同様ニーナの足元に横たわることになるだろう、という。しかしニーナは省みようともしない。
(第三幕)
トレーブレフはニーナに語った通り自殺を図る。自殺が未遂に終わると、トリゴードンに決闘を申し込む。ニーナとニーナに愛情を抱き始めたトリゴードンは、トレーブレフが自殺を図った原因を恋ゆえと考えていた。二人の愛情に気付いたアルカジーナは猛烈に嫉妬する。ニーナが家から逃げ出し、舞台に立つ為、トリゴードンとモスクワへ向かう。
(第四幕)
ニーナがトリゴードンの子供を産み、やがてその子が死ぬと、ニーナに飽きたトリゴードンは彼女を捨て、アルカジーナの元に戻った。その後、ニーナの女優としての演技は不評で、劇団で地方の舞台を回っていた。トレーブレフはしばらくの間、ニーナのあとを追っていたが、彼女は彼に会いたがらなかった。ニーナから時々手紙が届いたが「かもめ」と署名してある文面からは彼女の神経が限界に近いことが読み取れた。
屋敷でトレーブレフが浮かない顔をしている。新聞で叩かれ、形式にこだわり過ぎてきたことを反省していたのである。そこへ、ふらふらのニーナがやってくる。ニーナは幸せな少女時代を思い起こしていっときだけ泣くと、心が軽くなったといい、すぐに出掛けようとする。トレーブレフはニーナに留まるよう申し出るが、ニーナは断る。ニーナは女優として次の段階に進むつもりだった。苦しみを舐めたニーナは、芸術において、重要なのは名誉や栄光ではなく、忍耐なのだと悟っていたのである。ニーナは、今なお、トリゴードンを愛していた。
トレーブレフにはニーナのような強さは持てなかった。ニーナが永久に彼の人生から飛び去ったとき、彼は部屋にこもり、銃弾を頭に撃ち込んだのだった。

「ニーナ」
どうして、わたしの歩いた地面に口づけをした、なんてことを言うの?わたしなんか、殺されても仕方ないのよ。(テーブルにもたれかかる。)疲れた!休みたい・・・休めたらいいのに!(頭を上げる) わたしはカモメ・・・。そうじゃない、わたしは女優、そういうこと!


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