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【短編小説】いつか思い出になるとか知らねえよ


夢のなかみたいな夕日と、世界がこれから終わりますと言われたら納得してしまいそうな雲が迫ってきている。空が近い。どこかで見た気がする景色を、ずっと思い出せずに帰路につく。

海辺に住んでいると、よくいいなあ、と言われる。絶対大人になっていい思い出になるよって。

そんなこと知らねえよ。悪態をつきながら、毎日船に乗っている。自転車を押して、たいして便のない時刻表を横目に歩く。

Iターンが流行っているらしく、最近中途半端に都会から来た人間を見るようになった。何が面白くてこんなへんぴな島に来たのか、心から理解できない。

そういう奴らが、たいてい私を羨ましそうに見る。切り取った世界しか見ていない、ビル群からやってきた人間。いま幸福なことに気がつけていないのは、どっちだってそうだろう。叫び出したくなる。

今しか生きていない自分に、そんな事言われても知らない。

誰かのノスタルジーに陵辱された私の毎日が、またどうでも良さそうに過ぎていく。


おわり





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