【短編小説】マジョリティ
バスに乗っていてなんとなく窓を眺めていたら、普段は大きく光を放って主張する、ファミレスの看板が一部切れていた。
店名を見るぶんには特に困らない。
でも、不恰好だった。
店内にいるであろう店員に、びびび、と信号を送ろうとして、やっぱりやめた。
それよりも、切れている看板の方を修復した方が早そうだ。
そうしてわたしはバスの窓際から看板のほうに、だれにも見えないビームを送った。
するとさっきまで文字の足が暗かった看板は、全体を照らす。
一人で留守番している小学生みたいな寂しさはもうなくなって、堂々と夜空を照らす。
ほうらね、この方がやっぱりいいよね……。
なんだか疲れて眠くなってきた。
終点まで乗るんだし、寝てやろうかな。
そんな風に思って、続きの思考に行く前に意識が途絶えてしまった。
……っていう話はどうだろう。
現代に生まれて、ひそやかに会社員として生きている魔女がこの街にいるって、みんな知ったら驚くだろうなあ。
夢想にふけると、自分には本当に不思議な力があるような気になってくる。
そう考えながら、通り過ぎた看板をまた眺めた。
通路を挟んだ隣の席で、女の子があそこのした、いっこひかってない、と言っていた。
母親がおおらかに相槌をうっている。
少し笑うと、マスクの中、なまぬるい息がすこし充満した。
おわり
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