【短編小説】三者面談
本当に、色んな親がいる。
三者面談をするたびに由貴はそう思う。
教師になって5年経つけど、人間の多様な姿をこんなに見ることができるタイミングってなかなか無いんじゃないかとしみじみ感じてしまう。
「このさきに崖があるのが分かっているのに、あなたは、それを止めないんですか」
由貴の目の前で、母親の姿をした生き物がまくしたてる。目は釣り上がっている。
鼻をふくらまして喋る母親の隣で、何を考えているのか分からない制服を着た人形が座っている。
由貴はただ、もう少し、生徒に自由に過ごしてほしいんですと吐いただけだった。それが逆鱗の指先に触れたらしく、母親はこちらが目を丸くしてしまうくらい感情的になった。
比喩自体が間違えてる。
その先は崖じゃない。ただの人生です。
そう言い返したい口をつぐんで、今日も由貴は、静かな湖畔を思い浮かべる。
おわり
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