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うつしおみ

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真実を求めてこの世界を旅する魂の物語。
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2024年2月の記事一覧

うつしおみ 第49話 空の祈り

魂は澄み切った青空を眺めながら、 いつかあの高みを飛んでみたいと思った。 ただ、魂には飛ぶための翼もなく、 小さな足で小さく飛び跳ねるのが精一杯だ。 翼をつくってみたが、 地上を転げ回るだけで、魂を空へと運ぶことはなかった。 空に近づこうと高い山へと登ってもみたが、 空はその頂きの遥か頭上にあった。 魂はそこに手の届かないもどかしさに、 目を閉じて空に向けて祈りを込めた。 だが、その祈りとは裏腹に空と離れるよう、 暗闇に染まる心の底へと落ちていった。 ついに魂は深

うつしおみ 第48話 世界の願望

魂は白く煙る霧の中を歩きながら、 この先に起こることに思いを馳せる。 自分にとってより善い出来事を夢想し、 その願望を不確かな未来に届くよう念じる。 その願望を叶えるために、 魂は神々に祈りを捧げ、善行を積み、愛を育む。 その結果、世界が願望を叶えることもあれば、 期待外れになることもある。 世界はそんな魂の願望を知っているが、 魂は世界のその願望を知らないでいる。 だが、魂は世界であり、 つまり魂の願望は世界から事前に与えられているのだ。 その願望が美しく花開く

うつしおみ 第47話 魂の色彩

魂はこの極彩色の世界で好きな色を見つけ、 それを心ゆくまで楽しみ満たされていた。 そうして好きな色を見つけて味わえることが、 この世界の美しさの所以なのだと思った。 その景色は万華鏡のように移り変わっていくが、 魂はそんな移ろう儚さも愛していた。 世界で満ち足りている魂が、 他に求めるべきものがあるという思いに届くことはなかった。 美しい世界を生きて、 美しい自分の色になっていれば、それで十分幸せだったのだ。 だが、魂がすべての色を取り揃えて着飾っても、 何かの色が

うつしおみ 第46話 天空の扉

この蒼い世界に生まれた美しい魂には、 大切な何かが欠けていた。 魂も何かが欠けていると感じて、 世界の大河を泳ぎながらそれを探している。 それがないがために、 生きるのに不都合があるというわけではない。 ただ、探すのを忘れていると、 心の底で渇望が発火し魂を熱風で焦がすのだ。 世界の流れに茫漠と漂っていた魂は、 慌てて手足を不器用に動かし泳ぎはじめる。 それで何かが見つかるわけでもなく、 ただ透明な水を無用に泡立てる。 泳ぎ疲れた魂は白い泡の底に沈み、 光が揺らめ