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うつしおみ 第46話 天空の扉

この蒼い世界に生まれた美しい魂には、
大切な何かが欠けていた。

魂も何かが欠けていると感じて、
世界の大河を泳ぎながらそれを探している。

それがないがために、
生きるのに不都合があるというわけではない。

ただ、探すのを忘れていると、
心の底で渇望が発火し魂を熱風で焦がすのだ。

世界の流れに茫漠と漂っていた魂は、
慌てて手足を不器用に動かし泳ぎはじめる。

それで何かが見つかるわけでもなく、
ただ透明な水を無用に泡立てる。

泳ぎ疲れた魂は白い泡の底に沈み、
光が揺らめく水面を見つめて途方に暮れる。

その欠けている何かは、
まるで魂には手の届かない天空の扉に隠されている。

魂がもうひとりの自分を心の底に見つけ抱きしめたとき、
それで魂は完全になった。

何も欠けていない美しい魂はそのとき、
天空の扉の向こうにいたのだ。

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