![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/129542731/rectangle_large_type_2_0121c842721920e7ed4cc995e85c146c.jpeg?width=800)
うつしおみ 第46話 天空の扉
この蒼い世界に生まれた美しい魂には、
大切な何かが欠けていた。
魂も何かが欠けていると感じて、
世界の大河を泳ぎながらそれを探している。
それがないがために、
生きるのに不都合があるというわけではない。
ただ、探すのを忘れていると、
心の底で渇望が発火し魂を熱風で焦がすのだ。
世界の流れに茫漠と漂っていた魂は、
慌てて手足を不器用に動かし泳ぎはじめる。
それで何かが見つかるわけでもなく、
ただ透明な水を無用に泡立てる。
泳ぎ疲れた魂は白い泡の底に沈み、
光が揺らめく水面を見つめて途方に暮れる。
その欠けている何かは、
まるで魂には手の届かない天空の扉に隠されている。
魂がもうひとりの自分を心の底に見つけ抱きしめたとき、
それで魂は完全になった。
何も欠けていない美しい魂はそのとき、
天空の扉の向こうにいたのだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?