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企画作家へ贈る、ソラジマの編集者が語るWebtoon企画書のポイント

最近、ソラジマのWebtoon制作に興味を持ってくださる方々も増え、いろんな意見を聞くことが多くなりました。とくにソラジマのWWRに登録している企画作家の皆様からは、「公募に参加はしているけれど、どういう企画書が採用されるのかわからない」というお声をたくさんいただいています。この声に応えるために、今回ソラジマの編集者2名にインタビューを行い、企画書の評価要素や編集者が考える企画についてたっぷり聞き取りました。

本記事では、『王道』の作品とは何か、なぜベンチマーク作品が必要なのか、そしてWebtoonクリエイターになるための具体的な方法まで、編集者の視点から公開します。この記事を読むことで、編集者と企画作家の間で生じる意見のずれを防ぎ、これから「企画作家になりたい!」と考えている方の力になること間違いなし! 企画書作成に役立つ情報が満載なので、Webtoonの企画・脚本に興味のある方は、ぜひ読んでみてくださいね!



・『王道』、そしてマーケットイン思考について


—今回はソラジマで大活躍中の編集者2名に『Webtoonの企画』について伺いたいと思います。よろしくお願いいたします!
早速質問です。作家さんから「もっと作家性を出せる作品を作りたい」、「Webtoonは同じような作品が多いのでは」という意見をよく聞きます。ソラジマの現在の企画公募というのはどちらかと言えば『作家性』よりも『王道』を重視している印象を受けるのですが、その理由は何ですか?

編集者C:編集者目線で言うと、まず企画書で求めているのは『面白そう』と『売れそう』の2つがあります。この2つの車輪がそろって初めて走り始めるイメージなんですよね。ロマンスファンタジーや復讐モノの公募が多いというのも、市場でしっかり売れ筋が立っていて、『売れそう』がすでに走り回っている状態だからです。

社内でよく使う例えとして、『サンドイッチが流行っているとき、より美味しいサンドイッチを作れば売れるんじゃない?』という考え方があります。「作家として好きなものを書きたい」「今まで世になかったものを作りたい」という気持ちはすごくわかります。しかし、それは『面白そう』の片方の車輪でしかありません。『売れそう』がないとまず世に出せませんし、もし出したとしても長く連載を続けられない可能性が高いです。関わるクリエイターの皆さんのためにも、編集者としてはなかなか手が出せない部分ではあります。

もちろん例外として『進撃の巨人』のように面白そうの車輪が大きすぎて走っていく作品もあります。そういう作家性のある作品を発掘するためにソラジマでも「企画アピールボックス」を運用しています。

編集者も『売れそう』の部分はしっかりおさえて企画のベースを考えているので、マーケットを意識している公募が多いのではないかと思います。

編集者S:『王道』について作家さんからよく質問されるのですが、個人的には『同じ快楽を得られる中にもスパイスがある作品』と考えています。

逆にありきたりな作品がなんなのかと言うと、この『王道』は、キャラの個性や展開のうまさもなく、『王道』を狙いすぎてフックのない作品だと考えています。例えば、小説の世界に転生してきた主人公が、小説の知識を活用して生き抜くというのが、それに当てはまると思います。

—なるほど。ありきたりな作品との違いはわかったのですが、そもそも王道の作品というのはどういったものなんでしょうか?

編集者S:自分が担当しているロマンスファンタジーでいうと、例えば下の地位から頑張って上の地位に這い上がるような、現状を変えていく主人公を『応援する』『憧れる』『勇気をもらう』ようになる過程を描いた作品が『王道』だと考えています。

ただ注意してほしいのが、王道のストーリーをそのまま作品にしてしまうと、ありきたりな作品になってしまうということです。そのため、展開やキャラクターなど、ほかの要素で差分をつける必要があります。

私はよくこれを『スパイスを加える』と表現しています。例えば、主人公が目標を達成するための基本的な展開をアレンジすることや、周囲のキャラクターとの関係性を変えて新たな展開を生み出すことですね。物語の中で這い上がる過程に、新鮮な味わいを加えることが大切だと考えています。

この「スパイスを加える」というのは、ログラインにまでは達しないけれども、読者が毎回楽しみにするような要素を、5話に1回程度ほど織り交ぜていく意味を含んでいます。

編集者C:少し補足すると、ベンチマーク作品と似すぎていて差分があまりない企画書を時々目にしますが、そこは注意が必要だと思います。例えば、単純にベンチマーク作品の『バラの能力』を『氷の能力』に変えるとか、ヘイト役を『妹』から『弟』に変えるだけだと、読者はベンチマーク作品を思い浮かべる可能性が高いし、既存作品より面白く魅力的な作品にはできないです。その要素を変えることで展開にどう影響して、どう変わっていくのかが本質なので。

—サンドイッチの例え、すごくわかりやすかったです。ただ、「お腹が空いている人をターゲットにしているなら、おにぎりでもよくない?」と新しい作品を出すこともできるのではと思いましたが、これはどうですか?

編集者C:おにぎりなら全然良いと思うのですが、サンドイッチが売れているところで「ラーメンを出しましょう」というのはかなりのチャレンジになります(笑)。大事なのはなぜサンドイッチが売れているのか、つまり市場を分析することです。

例えば「たぶんサンドイッチが売れているのは、要は挟んでいる具材が大事だから」や「肉と野菜を一緒に摂れるから」と分析し、『売れそう』のロジックさえ取れていれば「ならハンバーガーも売れるのでは?」と提案するのは全然ありだと考えています。編集者も「確かに」と納得しますよね。

—なるほど。ちなみに『売れそう』という基準はどう設定されていますか?

編集者C:基本は配信先プラットフォームのランキングですね。普段からランキングは敏感にチェックして、さらにマーケットの分析も行い、『売れそう』の感覚を身につけるようにしています。最近だと年間数百本くらい新作が出ているらしく、入れ替わりがとても激しい中、ずっと残り続けている作品は『売れている作品』として参考・分析しています。


・作品とマーケットの分析

ソラジマ企画書テンプレート(企画アピールボックス用)

—企画書テンプレートに指定されたベンチマーク作品の魅力ポイントを作家さんに書いてもらうことがありますが、それは作家さんの分析力を把握するためですか?

編集者C:そうですね。編集者によって企画書テンプレートに微妙な違いがあることもありますが、作家さんと編集者が作品の面白さや魅力的な要素、売れる可能性について同じ認識を持っていると制作がやりやすくなると思うので、作成していただいてます。

また、編集者がそこまでしっかり固めて伝えてしまうと、似たような企画がたくさん上がってくる懸念があるので、編集者が考えていることの詳細まではあえて書かないようにしています。

編集者S:企画書公募の段階では作家さんの分析力やログラインの抽出能力はそこまで重きを置いていないかもしれません。分析力はどちらかというと編集者により必要な部分だし、企画の初めの段階では編集者と作家さんが一緒に分析しながら進んでいくので。

ただ、オリジナリティだけを全面に押し出すだけの企画になっていないかを見極めるための一つの指標としては役立っていると思います。また、ログラインにどういう差分を加えて新しい作品にするかが企画の第一ステップだと考えるので、まったく評価していないわけではありません。

一部分のエピソードや特殊な設定、キャラクターの癖など、細かな要素を魅力ポイントとして記載するケースもたまにありますが、編集者が求める魅力ポイントは、作品全体(もし30話なら30話、100話なら100話)を通して共通している要素です。

魅力として捉えられるスパイスの要素も確かに存在します。しかし、この「魅力」は物語をより広げていくためのものであり、物語の本筋と独立して存在するものではないです。ログラインをより魅力的にするための要素ではないところをポイントとして挙げていると、まだ企画の全体像が見えていないのかなという印象を受けてしまいますね。

編集者C:たしかに。ベンチマーク作品を参考にしながら違う面白さを届ける作品を作るためには、良いところはしっかり抑えるのはもちろんで、ベンチマーク作品であっても展開として要らない、魅力ポイントとしてアピールできない要素は取り除く勇気も必要ですよね。

編集者S:そうそう。既存作品やマーケットを分析する方法って、プラス面・マイナス面の2つあると思っています。既存作品のよくない部分を改善するという方法、既存作品にはないけどもっと面白くなりそうな要素を付け加える方法などもあるので、普段からヒット作品だけではなく、いろんな作品に触れることが大事ですね。これは企画作家さんだけではなく、編集者にも当てはまることですが。

また、企画を形にしてみて、見返した後、「一番やりたいことってなんだったっけ?」と考え直してみるのもおすすめします。魅力を考えていううちに、これもやりたい!あれもやりたい!となりやすいので、改めて「やりたいこと」を考え直し、それをやるのに必要なさそうな要素は思い切ってカットしてみるのも一つの方法だと思います。

▼実際通った企画書、こちらから確認できます!


・企画書の評価要素:編集者の視点


—では、企画書の内容で『面白さ』はもちろんだと思いますが、そのほかで評価要素としてチェックしている部分はありますか?

編集者S:編集者それぞれ好みがあるので、これをやれば絶対通るとかは言えないですが、個人的にはキャラクターを重視しているので、「このキャラクターを見に行きたい」と思わせるWebtoonになりそうな企画、キャラクターの魅力がログラインにしっかり溶け込んでいる企画、その魅力を毎話楽しめる作品にしたい意図がしっかり表せている企画書には目が留まりますね。

そして、さっきの魅力ポイントの内容と重複しているかもしれませんが、企画書の内容が詰め過ぎではないかという点には注目しています。

よくあるのは、世界観の設定を細かく書き込んでいる、またはやりたいことがたくさんあっていろんな設定が盛りだくさんになっているパターンです。短い公募期間でそこまで考えていただき本当にありがたいなと思いますが、企画段階で何よりも大事なのは『ログライン』なので、まずはベンチマーク作品から抽出した面白さ、やりたいことの面白さが集約されたログラインにできているかを確認するんです。この作品でやりたいことを一言でまとめて表していて、そのログラインが魅力的であれば、世界観や細かい設定などは脚本段階でもじっくり考えられる部分なので、そこは評価対象ではないような気がします。

編集者C:キャラクターが生きているかどうかもチェックしていますし、Sさんと同じく、あらすじ内に書き込んだ分量でWebtoonというフォーマットとマッチしそうかどうかを確認しています。明らかに1話に納まらないほどシーンの数が多かったり、スカスカになりそうな分量で書いてあったり。そのボリューム感が調整できていないと「あまりWebtoon読んだことないのかな?」となりますね。

個人的には長くなる方をもっと警戒しているかも。長いというのは、その分、説明することが多いということなので、そこからの展開スピードに影響したり、退屈になって読者が離脱する可能性にも繋がったりするからです。

編集者S:企画書を読んだだけで、ふだんからWebtoonを読んでいるのかどうかわかるときってありますよね。Webtoonの特徴をすごく理解していて、書いた企画書を読むだけで「おお!」とテンション上がります。

編集者C:どういう企画書が魅力的かで言うと、「こういう展開もできそうだし、このエピソードも入れられそうだし」と、どんどんいろんな展開が頭の中に思い浮かぶログライン、キャラクターがある企画書ですかね。フックは強くて魅力的なのに、ストーリーの縦軸が弱くて20話くらいで完結してしまいそうな企画は本当にもったいないなと。

Webtoonは公開後の反応次第ではありますが、50話、100話までも連載できる可能性が大いにあります。しかし、中心となる縦軸が弱いといくら人気があっても連載を続けることは難しいのです。主人公とヒロインの2人がすぐ付き合っちゃいそう、すぐラスボスを倒せそうなど、主人公の目標が簡単に達成できてしまいそうだったり、もしくはそのほかのサブプロットが思い浮かばなかったりする企画は見送りにすることが多いです。


・Webtoonと横読み漫画の違い、
Webtoon理解を深めるトレーニング方法


—見送りの際のフィードバックでよく「この企画、横読み漫画なら合いそうです」というコメントを見かけるのですが、横読み漫画とWebtoonの企画の違いは何ですか?

編集者S:一番大きい違いは、Webtoonは読みやすさ、軽い読み味というのが大事ということですね。読者がいつ、どういう気持ちになりたくてWebtoonを読むのかを想像してみるとわかりやすいと思います。

電車やバスでの移動時間、お昼休みや寝る前の隙間時間に携帯でサクッと読めるのがWebtoonの特徴です。なので、あまりにも複雑な展開、シリアスな内容が続くと、短時間で楽しくなりたいと思ってWebtoonを読みはじめた読者は、離脱してしまう可能性が高いです。横読み漫画の面白さの一つでもある頭を使わせる伏線や裏設定は「Webtoonにはあまりマッチしていないのでは?」と思います。

これから変わっていくかもしれませんが、今のWebtoonはじっくり時間をかけてセリフの裏にある意味や伏線などを吟味しながら楽しむジャンルではないからです。

—そういう違いがあるんですね!
では、編集者の皆さんがWebtoonというジャンルに慣れるためにやるべきことやトレーニング方法などはありますか?

ソラジマ編集者おすすめ作品リスト

編集者C:売れている作品、売れていない作品に関わらず、手当たり次第にたくさん読むことが大切です。そうすることで、鉄板ポイントや地雷ポイントを探ってみたり、分析してみたりするというのはすごく役に立ちます。

最近、企画段階で「ここの引き、少し弱いかもな」と思った部分が連載時に数字として現れてくるのを見て、『引き』の重要性について改めて考えるようになりました。作家さんとの打ち合わせでも「この引きだと必ず後悔することになります」と伝えています。Webtoonをいっぱい読んで、次が気になる『強い引き』を見つけて、自分のものにしてほしいなと思います。
*引き:毎話ごとの最後に続きを読ませるために使う仕掛け。

編集者S:Cさんの意見と同じく、「たくさん読んでください!」と伝えたいです。

ソラジマで連載している作家さんと打ち合わせや会話をする中で、みなさん本当に想像以上にWebtoonを読んでいてびっくりすることがあります。活躍されている作家さんの中には、いろんな作品を読んで「この作品はこれをベンチマークにしたのかな」、「この作品はちゃんとオリジナリティがあるな」と分析して理解度を高めている方々が多い印象です。あまり面白くなかったからおすすめできないと伝えた作品までしっかり読んで、敗因を分析する方もいらっしゃいます。

たくさん読めば読むほど、Webtoonの文法というのが自然と自分のものとして身に付くし、読者が求めているものへの理解も深まると思います。まずは「とりあえず10作品読む!」ということを目標にしてみてください!

私を含めて編集者がよくやっていることは、Webtoonの書き起こしです。セリフとモノローグをすべて脚本のように書き起こしてみると、Webtoonの特徴・文法への理解がぐっと上がります。先ほど言っていた、1話あたりのボリューム感やモノローグとセリフの使い分け、引きの作り方などが自然とわかるようになりました。

私は書き起こしをしてみて、「会話がずっと続くと説明が冗長になる、だから会話と状況説明のところを見極めて方法を選らぶ必要があるな」ということに気づいたので、Webtoon制作の経験がないという方にもおすすめです!


・最後に

企画作家さんが編集者に聞きたいことを、代わりに聞いてきました!いかがだったでしょうか?皆さんの応募や作品制作に少しでも役に立てればと思います。

ソラジマはより面白く、より多くの方々に届く作品を一緒に作る企画作家さんを募集中です。企画作家として登録した方々には、編集部がおすすめする作品一覧や用語解説などのノウハウを惜しみなく共有しています!

ほぼ毎週ごとにある企画公募にはいくらでもチャレンジでき、採用・不採用関係なく、編集者からのフィードバックをもらえるシステムが整っているんですよ!

今回のインタビューでは、編集者からの「企画公募」を中心に質問しましたが、ソラジマでは作家性溢れるオリジナル企画も『企画アピールボックス』から募集しております!企画作家登録や企画アピールボックスに興味のある方は、ぜひこちらの記事からご確認ください。

▼皆さんの応募・素敵な企画、お待ちしております!