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渋谷先生のこと

渋谷先生。
私が小学校6年生の時の担任の先生。
先生は何歳だったのだろう。
おそらく定年間近で、髪はいわゆるバーコード。
いつも職員室で煙草を吸っていて、息も煙草臭かった。
しゃがれ声で、腰に手をあてて喋る。

私は6年生の時にはいじめからある程度立ち直って
最上級生らしく我が物顔で学校中を遊びまわっていた。
学校の横の崖で友達と暗くなるまで遊んだり、
今思い返すと野猿そのものといった風情だった。

ある時、きっかけは忘れたけれど
体育館のステージの下、
折り畳みの椅子をしまうスペースの奥に
空間があるのを見つけてしまった。
そして更に奥にはちょうどいい具合に体操用のマットレスもある。
「秘密基地にしよう!」となり
放課後には懐中電灯や漫画、お菓子などを持ち込んで
そこで友達と時間を過ごした。

誰かが体育館にやってきた時には声をひそめて様子を伺う。
大丈夫、覗ける隙間があるから。

基地を設営して数日後、
区の体育大会に隣の青木先生のクラスが出場することになり
連日、体育館での練習が始まった。

もちろん秘密基地は関係なく稼働中だ。
みんなが真面目に練習をしている一方で
私たちは身を潜めてコソコソと話に花を咲かせている。
誰かがなんだったかとてつもなく面白い発言をして、
ついみんなで声を立てて笑ってしまった。

「せんせー!なんかステージから声がするー!」

青木先生のクラスの男子が手を挙げて言っているのが隙間から見えた。
私たちは逃げようにも逃げられず、無様な姿で見つかってしまった。

でも、その後怒られることはなかったように思う。
渋谷先生が「子供なんだからいいじゃないか」と制してくれたらしい。
体育館の一件のみならず、他の野猿行為の諸々も。
ぜんぜん知らなかった。
怒られなかったことで私たちは逆に恐縮し、反省した。

いつも暖かく見守ってくれた渋谷先生、大好きだったな。


余談だが、
後日なぜか秘密基地仲間のうち
私ひとりだけ青木先生に呼び出されて、
放課後の誰もいない教室で
「君はこれを読みなさい」と
『野生のエルザ』という本を渡された。

いまだになぜ私だけなのか、
なぜ野生のエルザなのかはかわからないままだ。


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