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株式売却はサステナブル投資の答えではない

株式売却、いわゆるダイベストメントは、サステナブル投資と呼べるのか。その問いに対して、興味深い記事がありましたので、ご紹介したいと思います。


投資家が脱炭素を考えるとき

投資家が脱炭素を考えるとき、ダイベストメントは有効な選択肢のように思えます。投資家は石油会社やガス会社と関わりたくないので、株式を売却するか、そのような企業を保有しないと約束するファンドに投資します。

ダイベストメントを正当化する理由

脱炭素のために、投資家はなぜダイベストメントを選ぶのか。それには2つの理由があります。一つは、責任ある投資家として、社会の悪と見なされている石油・ガス会社に投資したくないという願望です。つまり、自分または自社の手を汚したくないということです。株式売却をしても状況は変わりませんが、全ての投資家が社会に変化を起こそうとしているわけではなく、売却は彼らの選択肢の一つであるという考えがそこにはあります。

もう一つの理由は、ダイベストメントにより企業の資本コストが上昇すると考えているからです。つまり、ダイベストメントが財務上の損害を引き起こすという考えです。残念ながら、これが真実であるという証拠はないようです。スタンフォード大学経営大学院の論文では、ESGを理由としたダイベストメントが資本コストに及ぼす影響は極めて小さく、米国において実際の投資判断に有意義な影響を与えることはできないことが示されています。ダイベストメントによって資本コストに少なくとも1%影響を与えるためには、少なくとも86%の投資家がクリーン銘柄のみを保有することを選択する必要があることが研究で分かっています。

株式売却とはどういうことなのか?

既に市場に流通している株式を売却するということは、サステナブル投資に関心のない可能性のある別の投資家に株式を譲渡することを意味します。株主総会で気候変動関連議案への投票が横ばいであったのは、脱炭素に積極的な投資家が、それに消極的または無関心な投資家に売却してしまったことが要因の一つと考えている人もいるようです。

機関投資家がよく言う説明

株式売却を行わない機関投資家がよく好んで言う台詞があります。彼らは自社がダイベストメントを行わない理由として、「ダイベストメントは企業と対話する機会を失います。だから、我々はダイベストメントではなく、エンゲージメントによって課題解決を目指しています」という説明をよくします。また、取締役の選任議案に反対しない理由として、「我々は投資先企業と数多くの対話機会を持っており、企業の行動変容には長い時間がかかるから、今反対票を投じる必要はない」という主張もよく聞かれます。彼らは自社のエンゲージメント方針については多くを語りたがりますが、本当に実体の伴ったエンゲージメントができているのか怪しい機関投資家も多く存在します。「スチュワードシップ」という言葉は、今では機関投資家の間で流行語のように使われるようになっています。スチュワードシップは幅広い概念を含んでおり、形式的なエンゲージメントしか行っていない会社も、変化をもたらそうと熱心にエンゲージメントを行っている会社も、同様に自社の取り組みをスチュワードシップと主張できるところに一つ問題が存在します。

個人投資家とアセットオーナーが抱える悩み

個人投資家とアセットオーナーが抱える悩みは、そのようなスチュワードシップを評価することが難しいことにあります。スチュワードシップ活動を担う機関投資家(主に資産運用会社)は、企業との対話を通じて本当に何かを達成しているのだろうか、あるいは、年次報告書でCO2排出量をどのように開示すべきかという簡単な質問をしているだけなのか、スチュワードシップ活動の実態が見えにくく、成果を評価しにくいという課題を持っています。

スチュワードシップ活動を測る有効な指標

資産運用会社がスチュワードシップを適切に行っているか、形式的な対応になっていないかを確認する有効な指標として、議決権行使の投票記録があります。それを見れば、当該資産運用会社が、排出削減について十分な目標設定を行っていない取締役会メンバーに反対票を投じているのか、また、役員報酬に反対票を投じているのかを確認することができます。

ただし、現時点では英国において機関投資家は各議案への投票記録を開示する義務はありません。

そこで英国金融行為規制機構は、投資家またはアセットオーナーが資産運用会社のスチュワードシップ活動を客観的かつ簡単に把握できるようにする仕組みを検討しています。

仮に資産運用会社による投票記録の開示が義務化されるようになれば、個人投資家やアセットオーナーはそれに基づいて資産運用会社に働きかけを行うことが可能となります。

参考文献

Share divestment isn’t the answer to greener investment | Financial Times (ft.com)

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