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サステナブルファッションは存在しない

昨今、人々の環境問題や社会問題、SDGsなどへの関心の高まりを受けて、世界の大手衣料品メーカーは挙って自社製品がいかにサステナブルであるかということを宣伝しています。しかし、大手衣料品メーカーが製造する衣料品は本当にサステナブルなのだろうか。本日は最近流行の「サステナブルファッション」についてお話したいと思います。

ファストファッションがサステナブル投資の対象にならない理由

サステナブル投資を標榜する投資家にとって、ファストファッション製造・小売会社を投資先に選ぶことは控えめに言ってあまり良い判断とは言えません。その理由の一つは、環境負荷が高いことが挙げられます。ファストファッション業界が全世界の温室効果ガス(GHG)排出量に占める割合は1割にも上りますが、その削減に向けた行動は現状あまり取られていません。ファストファッションが普及したこの15年で衣料品の製造量は2倍に増加しましたが、その寿命は4割も落ちました。製造されるファストファッションの半分以上は、一年以内に廃棄されていると推定されており、その大部分は埋め立て、または、焼却されています。

また、ファストファッションの製造・小売会社は、自社のサプライチェーンで現代奴隷に関与していることも調査で明らかとなっています。具体的には、製造するその国や地域で生活するのに最低必要な賃金を下回る賃金で働く労働者が多く存在することが指摘されています。

なぜサステナブル投資の対象になっているのか?

ファストファッションは環境・社会に負の影響を与えています。それでは、なぜファストファッションを製造する世界の大手衣料品製造・小売会社の多くがサステナブル投資やESGファンド、ESG指数の対象に含まれているのでしょうか。理由の一つとして考えられるのは、株価指数(インデックス)の構成方法、または、ESG評価手法の問題があります。現在販売されている多くのESGファンドやインデックスでは、環境・社会に対して明らかに悪影響を及ぼしている石油やガス、防衛関連企業を排除する傾向にありますが、それ以外の企業については対象から外れることはほとんどありません。そのため、ESGファンドを提供する資産運用会社やESGインデックスを提供する格付け・評価機関には、ファッション関連企業に対するESG評価手法の見直しが期待されます。

オーガニックコットンや再生ポリエステルを衣料品に採用するなど、ファッション関連企業は石油・ガス関連企業と比べて、自社のサステナビリティ活動に関する宣伝やブランディングに長けています。しかし、ファッション業界の実態としては、新しく販売される衣料品に対して再利用される割合が1%以下であることや、ファッション業界全体が石油などの再生不可能な資源に対する依存度が高いことが指摘されています。衣料品の生地に使われる繊維の多くは合成繊維であり、染色過程では化学染料が使用され、コットンの生産には化学肥料が用いられています。

ファッション業界に求められること

ファッション業界に求められるのは、環境や社会への負の側面を可能な限り減らすことであり、それらを完全に取り除くことではありません。なぜなら、ビジネスの性質上、ファッション業界は衣料品を製造・販売して収益を上げており、その過程で一定の環境・社会負荷が発生するからです。環境・社会への負荷を完全に取り除くということは、ファッション関連企業の存在自体を否定することになります。

消費者にできることは何か?

ファッションに関して消費者ができる最も効果的なサステナビリティ活動は、消費を少なくすることです。昨今、多くのアパレル企業がサステナブルと名の付く衣料品を販売するようになりました。消費者はそのような商品を環境や社会に優しい衣料品であると錯覚してしまう可能性があります。しかし、そのどれもが環境や社会に一定の負荷を掛けていることを消費者は認識しておく必要があります。

投資家にできることは何か?

ファッション業界のサステナビリティを高める上で投資家ができることは、ファッション業界が抱える深刻なサステナビリティ課題に真剣に対応している企業を見極めること、また、投資先企業と建設的な対話を図り、環境・社会課題に適切に対処するよう促すことです。サステナブル投資を標榜する機関投資家が環境・社会課題に適切に対応していない企業に投資していた場合、彼等・彼女等には規制当局から説明責任を問われることとなります。そのため、機関投資家にとって、アパレル企業のESG評価や投資先企業との対話は今後益々重要性が増すと思われます。

参考文献

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