教育の中に「意識(気づき)」の要素を入れるとどうなるか
教育とは
教育とは、Wikipediaによれば
「教育という語は多義的に使用されており、以下のような意味がありうる。 教え育てること。 知識、技術などを教え授けること。 人を導いて善良な人間とすること。 人間に内在する素質、能力を発展させ、これを助長する作用。 人間を望ましい姿に変化させ、価値を実現させる活動。 」
とあります。
私は教育、福祉、医療などの様々な分野で心理臨床家として働いてきました。
その中でも、教育相談やスクールカウンセラー、思春期・青年期の引きこもりの相談支援など、教育分野に最も携わってきました。
そして、二児の父親で、長男が発達障害なので自分の子育てについても学習や教育というものについて公私ともに携わっています。
教育の中には、瞑想を取り入れる学校も海外では取り上げられ、その学習効果や情緒の良好な発育なども注目を集めています。
「意識」の研究と教育は、これからの時代、とても重要であると言われています。
しかし、日本の教育現場では、あまり「意識」についての教育や実践の場があるようには見受けられません。
※
ところで、教育や学習の分野の中で、重要な概念としてピグマリオン効果とゴーレム効果というものがあります。
ピグマリオン効果
ピグマリオン効果とは:
「ピグマリオン効果とは、教育心理学における心理的行動の1つで、教師の期待によって学習者の成績が向上することである。別名、教師期待効果、ローゼンタール効果などとも呼ばれている。なお批判者は心理学用語でのバイアスである実験者効果の一種とする。」
これは、教育分野に携わっていればどこかで聞いたことのある効果だともいます。
この効果の有効性として、ローゼンタールの有名な実験があります。
・ローゼンタールのラットの実験
ラットのゲージを二つ並べ、一方には、「特別な訓練を受けた利口なラット」と表示し、もう一方には、「うすのろで愚かなラット」と表示した。 その日の午後、ローゼンタールは学生たちにこの二種類のラットをそれぞれ迷路に入れて、ゴールにたどり着くまでにかかった時間を記録するよう指示した。彼が学生たちに告げなかったのは、これらのラットはいずれも特別なラットではなく、普通の実験用ラットだったことだ。
だが、奇妙なことがおきた。利口で素早いと学生たちが「信じたラットの方が、成績が良かったのだ。「利口な」ラットは「愚かな」対照群とは何落ち害もないはずなのに、成績は大幅に良かった。
当初は誰もこの実験結果を信じなかった。「この実験結果を発表するのには苦労した」と数十年後に彼は回想する。そこに神秘的な力は働いておらず、完全に合理的な説明が出来ることを、彼自身、最初は受け入れることが出来なかった。ようやくローゼンタールが理解したのは、学生たちが「利口な」ラット、つまり、大いに期待するラットを、より暖かく優しく扱ったことだ。この扱いがラットの行動を変えて、成績を向上させたのである。
このことから、ローゼンタールは、人間の教育にもこの実験結果を応用します。そして、「教師の肯定的な期待に応えて、生徒は伸びる」という結果が導き出されました。
この研究は、50年経った今でも心理学的研究における重要な知見であり続けています。2005年に出された批判的なレビューでさえ、「教師の期待が―少なくとも時々は―生徒に影響を与えることを示している」、としています。
つまり高い期待は強力なツールになり得、経営者がそのツールを使うと従業員のパパフォーマンスは上がり、将校が使うと兵士はさらに激しく戦う。看護師が使うと、患者は回復が早まる、ということです。
この効果はプラセボ効果と関連があります。
(※ プラセボ効果:有効成分が含まれていないくすりを、本物のくすりとして患者さんに使用してもらったときに、ある程度の割合で治ってしまうことがあります。 これはくすりを飲んだという安心感が、体にひそむ自然治癒力を引き出しているとも言われています。)
ピグマリオン効果と反対のゴーレム効果
ゴーレム効果とは:
「心理学用語で、ピグマリオン効果の対義語である。 「ある人物に対して周囲の期待が低い場合、その人物は周囲の期待通りにパフォーマンスが低下してしまう」という心理学効果。」
誰かについてマイナスの期待を抱いている時、わたしたちはその人をあまりみようとしません。その人とは距離を置くだろうし、笑いかけることもない。
ゴーレム効果については、倫理的に問題があるのであまり研究はされていません。しかし、数少ない事実は衝撃です。1939年アメリカのジョンソンによる研究では、20人の孤児を二つのグループに分け、一方のグループには、きみたちは上手にはっきり話すことができる、と語り、もう一方のグループには、君たちは将来どもるようになる、と語った。
現在「モンスター研究」と呼ばれる悪名高いこの研究は、数人の孤児に生涯続く発音障害を残しました。
ゴーレム効果はノセボ効果と関連があります。
(※ノセボ効果:ノセボ効果 偽物を本物と信じて使うことで副作用が出る効果。 これらの効果は薬を飲む人の心理状態に左右され、医師や薬を全面的に信頼して飲めば、薬の効果にプラセボ効果が加味され、最高の効果が期待できます。 逆に薬やそれを処方した医師に不安・疑問・不信感などを抱いたままくすりを飲んでもよく効きません。)
実際の教育現場や家庭の実情
実際の教育現場では、ピグマリオン効果、プラセボ効果などの概念は50年以上前の知識であり、大学レベルで学ぶことです。
そして、教員試験や臨床心理士、公認心理師などの受験において必須の知識でもあります。
つまり、専門家であれば誰もが一度は聞いたことがあり、かつ専門家でなくても多くの人が聞いたことがある有名な効果です。
しかし実際その効果を知りながら、私たちは教育現場や家庭で、それをどれだけ十分に活かして応用できているでしょうか!?
清廉潔白な方なら自信をもって、「自分の子育てや教育では偏見なく子どもに肯定的な関心を寄せ、携わっている」と答えることが出来るかもしれません。
しかし、私が教育現場や学校現場で働いていると、正直この効果を心から認識し、維持して実践できている教員は殆ど見かけたことがありません。
また、私自身を振り変えると、家庭では発達障害の息子に対して「希望と可能性をもって期待し、優しく接する」というピグマリオン効果を意識して実践しようとしますが、気がつくと感情的になり、もとの木阿弥になっていることがよくあります。
妻も、発達障害の療育の仕事をしているので、ピグマリオン効果などな釈迦に説法で知らないわけがありませんが、仕事帰りや情緒的に不安定なとき、疲労した時など、理想的なパフォーマンスはできていません。
職場の研修等では、ピグマリオン効果の重要性を伝えつつも、実際の自分はどうかと問われると、必ずしも良き父であり、良き心理士であるかと言えばどうかな!?と考え込んでしまいます。
誰も勝てないゲーム
このように、理想の父、理想の職場の在り方、理想の自分と現状を比較すると、必ず負けます。
何故なら理想は理想で、必ず現状が負けるようにデザインされているからです。
そうなると無意識の罪悪感が募り、現状の自信を否認し抑圧することもあるかもしれません。また、否認した自己を無視し、出来ている自分だけを自分と思い込んでしまう表層的な人間が出来上がってしまうかもしれません。
こうなると、ストレスは知らない間に貯蓄され、心身がある時バブルがはじけるように決壊し、様々な病や症状として表現されるかもしれません。それでも自身とネガティブな自己とは関係ないものだと否認し続けると、表面的な症状を軽減することばかりに意識が向き、この状況が永遠と続くループにはまってしまいます。
また、実際の教育現場では、教員と児童・生徒の間での感情的な負の連鎖が出来上がってしまっているケースも少なくありません。
確かにピグマリオン効果は実際に存在する有効な手段なのですが、それを理知的に知り、応用するだけでは限界があり、現状は「絵に描いた餅」のような状況になってしまいます。
ピグマリオン効果だけでは、何故無理があるのか
ピグマリオン効果は、子どもや生徒の良い部分をピックアップし、肯定的に評価し、期待して教育するというシンプルなものです。そうすれば、その期待に子どもや生徒は添って成長します。
しかしながら、感覚的にも、実験的にも正しく機能することが分かりつつも、何故上手く運用出来ないのでしょうか!?
それは、「思考」のレベルで操作し、期待をかけようとするからです。
「今から30秒間、思考が出ないようにしてください」という指示が出て、いったい誰がどれ程その指示通りに実行できるでしょうか!?
思考や感情は、汗や涙のような生理現象と同じで、誰も完璧にコントロールなどできません。
ネガティブな思考や感情は、気がついたら生じているもので、完璧にコントロールすることなどは不可能なのです。
私たちは既に生まれ育った環境から培った「先入観」という認識フレームがあり、そのフレームを元に物事を判断し、状況を理解します。
認識フレームが、その対象を最初にネガティブに評価して捉えてしまうと、この影響はなかなか消えてくれません。
ネガティブな評価を無理くり抑圧して無かったことにしても、相手はその不自然さを本能的に察知しているものです。
つまり、認識者(教育者)の持つ認識フレーム(価値観、考え方、信念体系)の影響を無理くりポジティブに変えようと新しい認識フレームで対抗しても、葛藤が生じてしまうだけなのです。
「認識フレーム」という問題の生じている同じレベルで、問題を解決しようとしても、構造的にそれは無理なことなのです。
それが教育現場や家庭で起きている悲劇の一因です。
解決策は常に、問題が起こっているよりも抽象度の高い次元から働きかけるのが鉄則です。
教育における必要な座標
ピグマリオン効果とは、
A:「生徒に対して肯定的な期待を設けると、生徒はそれに応じる」という認識フレームです。
そして、それを扱う親や教員が、B:「蛙の子は蛙だし、三つ子の魂100までという諺があるように、期待しても無理なものは無理な部分がある」という隠れたビリーフを持っていると、
AとBが拮抗し、葛藤が生じ、教室内や家庭内でも軋轢としてそれが表現されます。
しかし、実際の「私」とはAという考えや信念そのものでしょうか!?又はBという考えや価値観その者でしょうか!?
「私」とは、Aという考えや信念、Bという考えや価値観などを見ている観察者です。
AやBの考えに「気づいている」自己です。
そして、その「気づいている自己」とは、瞬間瞬間の気づきそのものです。
マインドフルネスや瞬間ヒーリングで体感できる、純粋な意識そのものです。(瞬間ヒーリング、純粋な気づきについては以下の参考記事に)
気づくことにはそれ自体に治療効果があります。
気づきという場から眺めると、私という自己は、教師や親という役割でもありません。児童や生徒も、子どもや生徒という役割ではありません。
親子も、教師も生徒も、「気づき」という生命現象の場の中で、お互いの役割のやり取りを行っていることに気がつきます。
その「気づき」という生命場の中で、私たちは、お互いに気づきを与えながら成長してく生命現象です。
「私」という存在が、考えや感情である、と同一視してしまうと、異なる考えや感情と喧嘩してしまいます。
そうではなく、「私」という存在は、考えや価値観を包摂し、見ている観察者だ、ということに気づき、その上でピグマリオン効果を発揮することです。
そうすることで、ピグマリオン効果のブリーフが無理なく慣習化し、生徒や子どもも、教師や親の矛盾に気づくことなく素直に指示を受け入れることが出来やすくなります。
教師や親は、子どもを見たときに、その子どもを鏡として、自分はどのような信念を持っていたのか、ということに気づくことが出来ます。
そうして、「気づき」という最も安全で安心場の中で、お互いが学び合う場が構築できます。
自由自在に観る
その中で、一定のポジティブかネガティブな価値観を採用し、発達していくことだけが、教育の本質であると考えてしまうと、必ず矛盾が生じ、破綻します。
何故なら、価値観や考え方はその場の無限の状況によって、いくらでも変化するからです。
例えば、学校で勉強をし偏差値の高い学校に行って、より経済的に安定した就職をするという認識フレームは、未だに多く見受けられます。
お金を稼ぐことの価値観は大切ですが、大金で健康は買えないし、世界の状況変化により紙幣の価値に意味が無くなる状況も想定されます。そうなると、お金を稼ぐことよりも健康や人間関係の構築技術がその状況によっては優先順位の上位になるかもしれません。
価値観がいつ激変してもおかしくない現代では、ある一つの認識フレームを高度経済成長期の名残の慣習として維持していくことは、限界があるように感じます。
自由自在に状況を見て、認識できる能力が大切です。そしてその為の前提として、私たちという存在そのものが「気づき」という広大無限の、至福や癒しの場であるという体感が必須です。
どのような状況下にあっても、その「気づき」を体感として維持していくことが古来の古武術や賢者、宗教では求められていた極地でした。
教育の前提として、子どもや親、教師、生徒という人間社会の創った役割を超えて、お互いに「気づき」を提供し合う仲間や同士としてともに意識(気づき)が進化・成長していくという視点があると、色んな現象が変わって行くと思います。
気づくことにはそれ自体に癒しの効果があるので、お互いに気づきを与え合う、その過程は楽しく充実したものになるのではないでしょうか。
※
私の場合で言えば、子育てや対人面で、ネガティブな慣習としての考えや感情は、未だに出てきます。
しかし、気づきの瞑想を習慣にしてからは、徐々に自分自身がそのネガティブな考えや感情ではない、ということに気づき、その考えや感情を俯瞰して眺めることが出来やすくなりました。
こうしたメタ認知を鍛えることで、より状況に適した考えや感情、認識を選ぶことが以前より容易になったこと。
また、ネガティブな考えや感情を自分自身と同一視し体感する癖が薄まって行く中で、自己否定感や罪悪感は少しづつですが減って行き、穏やかに過ごせるようになりました。
この練習は、筋肉トレーニングと同じで、1日筋トレをかなりの量行ったとして、翌日に筋肉粒々にならないように、何か月か行うことで、いつの間にか効果が出ているものです。
ちなみに練習方法としては、上記のリンク記事の「3点法」がまずはお勧めです。
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