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古道具とコトバ #1 アンティーク・ビンテージ・骨董 の違い


僕は骨董商。
古いモノに関するプロだ。


古物を売買するうえで、当然まつわる言葉への理解は不可欠。


同じ読みの言葉でも「古い時代では」もしくは「(各ジャンルの)フリークの間では」現代とは異なる意味で用いられる、コトもある。


また、元来の言葉の意味を利用して販売業者がミスリードを誘うような言葉遣いをすることだって、ある。


古物に纏わるコトバのそれぞれの違い。
よく槍玉にあがるのがアンティークとビンテージそして骨董の違いではないだろうか。

1.アンティークとは?


1 古美術。骨董 (こっとう) 品。「―ショップ」「―ドール」
2 年代を経て品格があること。また、そのさま。「―な家具」
デジタル大辞典(小学館)



辞典ではこうだ。
元はフランス語(さらに遡るとラテン語)


しかし、"アンティーク"を題材にした書籍・ネット記事やアンティークショップの定義を語る場合などは以下のように語ることが多い。

"製造より100年が経過した手工芸品・工芸品・美術品"


これは1934年にアメリカで制定された通商関税法を元に考えられた通説、概念だ。


関税においての価値づけ→お金(額面)
つまり機能性よりも美術的価値の方が"取引金額"が勝るモノ=アンティークと定義されるのであろう。


しかし、この定義付けと呼称は日本国内の特定商取引法などとは紐づいていない。


このあたりの「海外の言葉を日本の物差し(文化・言葉・法律)で理解しよう」という試みが認識の歪みを生む。

2.アンティーク風とは?



少し脱線するがアンティーク風(調)と名打つ商品についてもお話ししよう。

結論から先に述べる。

みりん風調味料はみりんではない。
バター風味は大抵マーガリンだ。
アンティーク風もアンティークではない。



しかし、先も述べたようにアンティークという言葉と国内の特定商取引法は紐づいていない。

日本国内では昨日作ったモノをアンティークと語っても法的に問題はないことになっている。

"アンティーク雑貨屋"はこのメソッドでアンティークを謳うことが多い。


ここが日本におけるアンティークの定義をより複雑にする部分だ。

こちら"アンティークドール"という名称で販売されていたドール
作成されたのは1990年代
先に述べたアンティークの定義にはあてはまらないが、それでも商品名はアンティークドール


3.ビンテージとは

1 ブドウの収穫年のこと。
2 良質のブドウが収穫された年を表記した極上のぶどう酒。ビンテージワイン。
3 年代物の機械製品。また、その年式・型。「―カー」「―カメラ」
デジタル大辞典(小学館)



こちらもフランス語。
語源を遡るとラテン語の"葡萄を収穫する"という言葉からくる。

こちらはアンティークと異なり、通商関税法の明確な基準はない。

「アンティークっていうほどは古くないけど、古いモノ」程度の認識で構わないだろう。

また、辞典においては機械類に限られているが、現代の言葉の使われ方をみると、それもまた違うと思う。(ex ビンテージジーンズ)


いずれにせよ"中古"という表現とは異なり、古いが故のカッコ良さを表現する言葉としての使用が多い。

モノによってはそのものの発生が100年以内だから、"最古に近い古さ"を表現するために使われる場合もある。


※ビンテージギターなど…これらは遡ってもアンティークな年代に差し掛からない。

Fenderのギター、製造より30年もたっていないけどビンテージ品扱い


4.骨董とは

1 美術的な価値や希少価値のある古美術品や古道具類。骨董品。アンティーク。「書画骨董」
2 古いだけで実際の役には立たなくなったもの。「骨董的存在」
デジタル大辞典(小学館)


さらに難しい意味を持つ"骨董"

引用からわかる通り、アンティークと同義でもありつつ、ガラクタを指す言葉でもある。

最近のニュースで「●●軍が使用している戦車はまるで骨董品のような低機能のモノで…」とキャスターが話していた。
おそらく2番目の意味で使われていたのだろう。


そして難儀なことに日本語であるにもかかわらず日常生活において馴染みがない。おそらくアンティーク・ビンテージの方がわかりやすいであろう。


僕の仕事もそうだ。


「陰陽師ぐらいに“この世に現存しない仕事“だと思っていた」と言われたことがある。


それぐらいに骨董という言葉は浸透していない。



5.プロはどう使い分けているのか?


まがりなりとも僕はプロだ。

プロはこのように使い分ける

購入者がピンときそうな言葉をチョイスする

以上。

具体例を出してみよう。

明治期の仙台箪笥

たまに「この箪笥はアンティークですか、ビンテージですか、骨董ですか」という頭でっかちな質問をされることがある。

先に述べた通りだ。
"どう称しても正解"だ。
ビンテージ、と表現するのはおかしいかもしれないが、それだって間違いではない。

それゆえ、僕たち骨董商は「対面するお客様がピンときそうな言い方」をチョイスして発する。
若い方や女性にはアンティーク、厳格そうな旦那さまには骨董・・・と。

見せたい形に変幻自在、それが骨董商のイイトコロでありながら、明確な定義づけができないがゆえ消費者が正体を掴み切れない。

骨董商とそれにまつわる言葉は存在が似ている。
厳格であるように思われる傍ら、どこか適当。
【古道具とコトバ】ではそれを少しづつ紹介していきたい。


↓ビンテージ・骨董・アンティークを扱うお店【道具屋ホリデイズ】↓


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