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映画レビュー

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2019年10月の記事一覧

ジョニーは戦場へ行った

あらすじ:ジョーは今、野戦病院のベッドで静かに横たわっている。第一次大戦の中、彼はほとんどの器官を失う大怪我を負いここに運ばれてきたのだ。真の暗闇の中でジョーは想う。釣り好きだった父と過ごした日々や、出征前夜に恋人と交わした愛の営み……。やがてひとりの看護婦がジョーの胸に書き記した文字によって彼は外界との繋がりを持つのだが……。 視覚、嗅覚、聴覚、言葉、腕、足、全て失った青年による独白をどのように映像で表現しているのか鑑賞するまで想像できなかった。青年の家族や恋人との回想

大菩薩峠

あらすじ:理由もなく巡礼の老人をいきなり斬り捨てる非情な男、机竜之介。ある日、奉納試合で勝負を譲らず相手を殺害し、相手の妻だったお浜と夫婦になるが、その後も竜之介は手当たり次第に狂刃をふるい、血だらけの闇と狂気に飲み込まれていく・・・。 岡本喜八監督版『大菩薩峠』は、私の一番好きな時代劇映画。目障りな者を無慈悲に斬りまくる机竜之助を仲代達矢氏が演じている。いつものことながら、仲代達矢氏の役の入り込みように驚嘆する。巡礼の亡霊に惑わされて新選組を延々斬りまくるラストシーンは、

早春(DEEP END)

あらすじ:公衆浴場で働きはじめた少年マイクは、職場の先輩である年上の女性スーザンに惹かれていく。スーザンへの実らぬ思いを募らせたマイクの行動は次第にエスカレートして・・・。 去年、リバイバル上映された時に映画館で鑑賞したかったのだが、できなかった作品。15歳で童貞のマイクの初恋相手は、年上の男性経験豊富な赤毛の美しい女性スーザン。年上の女性に恋焦がれ、失恋するという作品は多く見かけるが、今作品の悲劇的な展開に強く心を揺さぶられた。マイクを演じたのは100人程のオーディション

おろち

あらすじ: 人の世をさまよい、人間の心の闇を見つめてきたおろちが家政婦として潜り込んだ門前家には、二人の美しい姉妹がいた。当家の女性は29歳を過ぎるころには突然、その美ぼうが崩れ、果ては化け物のように醜く死んでいくという。ある日、妹の理紗は死にゆく母親の口から、もう一つの門前家の秘密を打ち明けられる。 いやぁ・・・・良い意味で騙されました。ああいう終わり方になるとは思わず、ラストに向うにつれ驚きの連続だったので、観終わった後は爽快感さえ覚えました。又最近、成瀬巳喜男監督など

折り鶴お千

あらすじ:神田明神の境内近くで古美術鑑定と称して、いかがわしい商売をしている連中がいた。首領は熊沢と言い、若い娘・お千も彼らに食い物にされていた。熊沢に養われている少年・宗吉は、あまりの仕打ちに耐えかね、お千とともに熊沢一味から逃げ出そうとするが・・・。 溝口健二監督作品だけあって愛する男の為に身を堕とし、尽くす女を情緒豊かに作り上げている。私的に心に深く刻まれたシーンがある。それは、勉学に励む宗吉の為に金を稼がねばならず、体を売るお千。売春をした罪で警察に捕まり、連れて

28週後・・・

あらすじ:人間を凶暴化させる“RAGEウイルス”の猛威が収まり、復興計画が始まったイギリス。スペイン旅行中でウイルスの難を逃れたタミーとアンディの姉弟は、父親のドンと再会を果たす。しかし、感染を逃れたドンには子どもたちに言えない秘密があった。 この作品は、ホラー映画というジャンルを超えた社会派ドラマである。 ある家族に焦点を当て、姉弟の目から見た地獄絵図は目を覆う。 米軍を介して復興計画が始まるイギリスは、イラク戦争後に復興したイラクそのもの。ウィルスが蔓延した時に発令し

ジョーカー

あらすじ:孤独で心の優しいアーサーは、母の「どんなときも笑顔で人々を楽しませなさい」という言葉を心に刻みコメディアンを目指す。ピエロのメイクをして、大道芸を披露しながら母を助ける彼は、同じアパートの住人ソフィーに密かに思いを寄せていた。そして、笑いのある人生は素晴らしいと信じ、底辺からの脱出を試みる。(シネマトゥデイより抜粋) 今作品は様々な映画のエッセンスがホアキン・フェニックス演じるジョーカーに宿っている。 労働者の個人の尊厳が失われた資本主義の世界で働く工員であり、

「新聞記者は観たい映画ではなく、観るべき映画である」

あらすじ:東都新聞の記者・吉岡エリカのもとに、医療系大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届く。日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ち、強い思いを秘めて日本の新聞社で働く彼女は、真相を突き止めるべく調査に乗り出す。一方、内閣情報調査室の官僚・杉原は、現政権に不都合なニュースをコントロールする任務に葛藤していた。そんなある日、杉原は尊敬するかつての上司・神崎と久々に再会するが、神崎はその数日後に投身自殺をしてしまう。真実に迫ろうともがく吉岡と、政権の暗部に気づき選択を迫

極道の妻たち三代目姐 ※ネタばれあり

あらすじ:関西の広域暴力団・坂西組の三代目組長が急死した。舎弟頭の寺田が組長代行として急場を凌いでいたが、対抗して若頭補佐の赤松を推す幹部たちが台頭、激しい主権争いが始まった。坂西の妻・葉月は、三代目の遺志を継ぎ、一万五千人の組員をまとめられるのは赤松だと見込んで肩入れしたものの、その赤松はヒットマンに殺されてしまう。怒りに燃える葉月は、この大組織を自らの肩に負うことを決心するのだった 東映作品である『極道の妻たち』シリーズの最終章。岩下志摩の男勝りな姉御と違い、三田佳子が

青い棘

1927年にベルリンで実際に起きた10代の若者による殺人事件がベース。当時、愛に失望した若者が起こしたこの事件は、多量のアルコール摂取や、同性愛関係の果ての殺人としてセンセーショナルに報道され、世界中で注目を集めた 。 あらすじ:1927年、ドイツ・ベルリン。試験を間近に控えた寄宿学校の最上級生パウル・クランツとギュンター・シェラー。労働者階級出身で詩を愛する内向的なパウルに対し、上流階級育ちのギュンターは向こう見ずで高慢な自信家。対照的ながら、なぜか気が合う2人。彼らは週