【脚本】『英雄たちの革命』約10分《Funny but Satiricalなお話》
登場人物:
謎の鹿1(声は後出の豊臣秀吉)
謎の鹿2(声は後出の西郷隆盛)
謎の鹿3(声は後出の織田信長)
謎の鹿4(声は後出の坂本龍馬)
謎の鹿5(声は後出の徳川家康)
西郷隆盛(49)
坂本龍馬(31)
徳川家康(73)
豊臣秀吉(61)
織田信長(47)
女子アナ(24)
矢田陽介リポーター(32)
評論家(63)
望月官房長官(68)
沢口首相(65)
*スマホの方は、書式の関係で横にしてご覧ください。
*本作品は、方言や早口言葉的漢字の羅列など、音声を楽しむ部分もあります。ぜひ声に出して読んでみてください。
*「T」はテロップの略です。
本編:
◯奈良公園(朝)
鹿たちがのんびりと芝を食む。
5頭の男鹿が集まっている。
謎の鹿1「あああ、今日も芝か。うみゃーもんが食いてゃー! なあ、西郷
どん」
謎の鹿2「それは仕方がなか。おいたちは奈良公園の鹿なんやで」
謎の鹿3「人間どものせいだわ。あやつらがわしたちの姿を使った動く絵巻
物を作っとるからだ。のう、猿」
謎の鹿1「お館様のおっしゃるとおり。動く絵巻物にわれら
の姿が映し出されると、われらはあの世から引きずり戻される」
謎の鹿4「恐ろしい。写真というものも撮られたことがある。わしそっくり
の止まった絵や。それだけでわしの命は7年みぞうなった」
謎の鹿5「ということは、竜馬殿、おぬし、元々近江屋で死なんで済んだっ
てことか」
謎の鹿4「ふふふーん(と熱り立つ)」
謎の鹿2「そいにしてんないごて奈良公園の、それも鹿なんじゃ」
謎の鹿4「分からん。されど鹿ならまだマシだ。伊達殿などフンコロガシに
された」
4頭「(目を見開いて)なんと!」
◯奈良公園(夜)
月夜に寛ぐ2,000頭の鹿たち。
月光で鹿たちの目が金色に輝き、鹿たちの姿がテレビや映画に出てく
る様々な日本史上の人物に変わる。
胡座をかいて座る織田信長(47)、豊臣秀吉(61)、徳川家康
(73)、坂本龍馬(31)、西郷隆盛(49)。
T「織田信長、享年47」
信長「(夜空を仰ぎ)あああ、今宵の月はきれいよのー」
T「豊臣秀吉、享年61」
秀吉「(頭を下げて)御意!」
T「徳川家康、享年73」
家康「昔の上下関係はほかれって言っとるだらー」
秀吉「あ、そうじゃった!(額を一度叩く)」
T「坂本龍馬、享年31」
龍馬「(芝生に手枕で寝転んで)それにしても、もうええ加減動く写真作る
の止めて欲しいな。あの世で新しい生活きっちり送っちゅーんだ。妻子も
おるし。呼び戻さんずつ欲しい」
T「西郷隆盛、享年49」
西郷「(腕組みして)おいも同感や。ないよりもこん国んためにならん。過
去ん英雄ん話を何度も何度も。こん国ん創造性ん危機や。じゃっで日本は
一番貧しか先進国になってしもたとおいは思うちょい」
信長「わしもそう思うわ。みーんな横並びでなーんも新しいことしようとし
ーせん。テレビのチャンネル全部、おんなじ時間に天気予報もスポーツニ
ュースもしとる国は日本だけじゃ!」
秀吉「さすがお館様、海の向こうの事情にもお詳しい」
家康、秀吉をジロリを睨む。
秀吉「(焦って)それから、世間様の目を気にしすぎるのもいかん! 世間
様の目を気にして天下統一が成せるか!」
家康「(鼻で笑って)気にせなんだで統一しただけで終わっちゃったんだら
ー」
秀吉「(勇ましく立ち上がり)なんじゃと! 徳川のせいだろ。日本がこう
なったのは! 個性もありゃせん、意見も言わせん、面白くもありゃせ
ん。得意なのは現状維持……もう現状維持もできとらせん!」
西郷「(間に入って)まあまあ、もう昔んこっじゃ。未来んこっを考えもん
そ」
竜馬「(起き上がって)わしに考えがある(と悪戯っぽく笑う)」
4人「(竜馬を見て)考えとは?」
竜馬「(4人を交互に見て)動く写真を作っちゅー本拠地を叩くがよ」
4人「(目を剥いて絶句)……」
西郷「叩くって攻撃すっていうとな。死者が出っかも知れんぞ。交渉はせん
のか」
信長「死者はでーせん。竜馬殿に頼まれて調べといた。電磁波いうもんを使
う」
西郷、家康、秀吉「(信長を見て)電磁波?」
信長「さよう。動く絵巻物を作るために必要なからくりだけを壊すのじゃ。
人と人とを繋ぐ見えん網も破ることができる。ゆえに、すでに存在する絵
巻物を見ることも叶わんくなる」
西郷、家康、秀吉「(感心して)おおおー!」
竜馬「んで、攻撃のあと、犯行声明を出す」
秀吉「いかなる内容で?」
竜馬「(4人の顔を見回して)今後、われわれのような歴史の英雄を動く写
真に登場させることを原則禁じると。ただし、どいたち登場させたい場合
は、条件付きで許可する」
家康「(鼻で笑って)条件? 向こうが飲むような条件があるんか」
信長「(ニヤリと笑って)その慎重さ。家康殿らしいの。しかし、何もせに
ゃあ何も変わらん。まずはやってみよまー」
西郷、秀吉「賛成じゃ」
家康「(少し考えて)よかろう。ときは21世紀、根回しばかりもしとれん」
西郷「で、攻撃目標は?」
信長「敵は帝国放送にあり! 全国54放送局のうち、東京、名古屋、大阪の
3局で同時多発電磁波攻撃を決行する!」
4人「おー!(と拳を空に突き上げる)」
信長、立ち上がり、扇を手に『高砂』を歌いながら踊り始める。
信長「たーかーさごや〜♪」
◯帝国放送のスタジオ
急に全機器に不具合が生じて騒然。
◯とある家庭の居間
テレビ画面が真っ黒に。
◯走行中の電車
イヤフォンをつけてドラマを見る若者のスマフォ画面が真っ黒に。
◯民放テレビ局・放送画面
番組T「ニュース速報」
帝国放送東京放送局ビルの映像をバックに必死の形相で、女子アナ
(24)が伝える。
女子アナ「速報です。帝国放送東京放送局、名古屋放送局、大阪放送局が電
磁波攻撃に見舞われました。一部、インターネットにも通信障害が起きて
いる模様です。同時多発テロの可能性があるとのことです!」
帝国放送東京放送局の玄関を固める機動隊、突入する警官たちの映
像。
番組T「レポーター 矢田陽介」
矢田陽介(32)(声)「帝国放送東京放送局前からお伝えしています。局内
の全電子機器が故障した模様です。これほど大規模な電磁波攻撃は前例が
ありません!」
画面に犯行声明が映し出される。
女性アナ「(慌てて)犯行声明が出ました! 『歴史の英雄を無断で使用し
た動く絵巻物を一切禁じる。どうしても使用したい場合は、奈良公園の鹿
ではなく、人間としてザ・リッツ・カールトン京都に家族1同伴で滞在で
きるよう三途の川特級河川管理事務所と契約を交わせ。さもなくば再び攻
撃する。英雄たちより』」
評論家(63)「(唖然として)なんですか、この声明文は? 英雄たちっ
て……子供の悪戯でしょうか。本当の目的はなんなんでしょうか?」
◯首相官邸・記者会見場(夜)
(T)1週間後
詰め寄せる記者たちでごった返す。
望月官房長官(68)「我が国は、決してテロには屈しません。テロの実行犯
は逮捕されました。国民のみなさん、もう心配は要りません。事件の詳細
は、後日、警察庁の溝口長官から発表してもらいます」
◯総理大臣執務室(夜)
望月がほっとした表情で入室すると沢口首相(65)が言う。
沢口「望月君、ご苦労だったね」
望月「いえ、これが私の仕事ですから」
沢口「分かってるね。これは私と君、そして警察庁の溝口君だけの秘密だ。
もちろん雅仁天皇はご存知だが」
望月「それにしても雅仁様からお電話を頂いたときは驚きましたね」
沢口「(大きなため息をついて)まったく。雅仁様が三途の川特級河川管理
事務所に祈りを捧げてくださったそうだ」
望月「祈っただけで大丈夫なんですか?」
沢口「いや、そこは抜かりない。了承なら、供えた亀の甲羅を割るというこ
とになっていたらしい」
望月「それで亀の甲羅は割れたんですね」
沢口「(安堵の表情で)ああ、無事割れた」
◯ザ・リッツ・カールトン京都・スイートルーム
(T)7ヶ月後
家康「(ソファでブランデーグラスを傾けて)わずか7ヶ月でわしの絵巻物
を作り始めたか。ま、この待遇なら悪い気はせんが」
信長「(バスローブを着てソファーで寛ぎ)わしも出とるでな。絵巻物の中
でわしを演じとる役者はわしに似ていい男よのー」
家康「わしの役者は頭が大きくて不格好じゃ。もっとも本物のわしはもっと
頭がおっきいけどなー。秀吉殿の役者は面白い顔をしとるなー」
秀吉「(トイレから出てきて)なかなかの演技者でござるぞ。わしは気に入
っとる。されど、ザ・リッツ・カールトン京都はもっと気に入っとる」
家康、信長、秀吉「(全員グラスを高く上げ、豪快に)わっはっはっ
は……!」
【そらのつぶやき】
あの国営放送のような放送局が、自虐的に、ちょっと流してくれたらなと思って書きました(笑)
Copyright 2023 そら
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