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誰が「物流」を殺すのか - ③どのように物流を設計すべきなのか?

さあ、月曜日だ。
月曜日はボクの得意分野の物流について書く日だ。
先週は「物流とロジスティクスの何が違うのか?」というテーマの記事を書いた。

今日は物流にどんなことが求められているのか書いていこうと思う。


物流は顧客満足を起点に考えるべし

物流は顧客満足を起点に考えるべきである。
そして、一般的に言われる「物流サービスを設計するときに必要な評価ポイント」は以下の8つ(8R)だ。

  1. 適切な時に(Right Time)

  2. 適切な場所に(Right Place)

  3. 適切な量を(Right  Quantity)

  4. 適切な商品を(Right  Material)

  5. 適切な方法で(Right Method)

  6. 適切な品質で(Right Quality)

  7. 適切な印象で(Right Impression)

  8. 適切な価格で(Right Price)

ボクの率直な感想を言わせていただくなら…
これ「なんのはなしですか?」だ。

顧客とはだれか?を定義しよう

こんな抽象的なことばかり言っているから物流は死んでいくのだ。
物流サービスを設計するには、まず「顧客とはだれか?」を正しく定義するところから始めなめればならない。それは、その人(その会社)の立ち位置によって変わる。

メーカー企業を例に取ると、商品自体はユーザー目線で開発するべきだが、物流という視点で見る場合、顧客はその商品を仕入れてくれる小売店(および卸業者)であって、エンドユーザーではない。なぜなら(メーカー直販およびSCMという形で商流全体をその企業がマネジメントする場合を除いて)エンドユーザーが直接メーカーにお金を払うことはなく、またメーカーが直接エンドユーザーに商品を届けることはないからだ。

つまり、物流サービスを設計するときに「顧客満足を起点に考える」のであれば、その小売店(および卸業者)の意向に沿うように自社の物流を設計すればよい。メーカーが顧客である小売店(および卸業者)の満足度を起点に考えるのは当然だ。彼らがその顧客であるエンドユーザーへの満足度を高めることができないことを知ってしまうと、彼らは自分たちのサービスレベルを担保してくれるメーカーから商品を仕入れるようになるはずなので、結果的に自社の商品は売れなくなってしまう。

8Rをどのように実現するのか

メーカーから見たときの「顧客(小売店や卸業者)」が最も満足する方法を見つけ出すことは簡単だ。その顧客に、どこの倉庫に、どんなタイミングで、どんな荷姿で、どんな方法で納品してほしいのか、聞けばすぐに教えてくれるだろう。その時点で先に記述した8Rの内、1. ~5. はクリアしたも同然だ。

しかし、6. 7. になると若干難しくなる。
それは、顧客に一定基準の品質(および高印象)を提供するためには、その物流に携わる人たちをトレーニングしなければならないからだ。そしてトレーニングにはメソッドが必要になり、トレーナーとなる人材が必要になる。もう少し付け加えるなら、「品質」に関しては顧客の意向を聴きながら必要なKPI(品質指標)とそれらの閾値を決めることができるが、「印象」はそうはいかない。印象はこちら側のモラルの問題であり、KPIで測ることはできない。

そして最も悩ましいのが、8. の「適切な価格」だ。
これは、1. ~7. までのすべて項目に関係する問題だ。なので、本来は1. ~7. と横並びにして考えるものではない。「適切な価格」はオペレーション全体にかかるコストと利益率をどのくらい見込むべきか(そこには、地域特性・相場感・同業他社との力関係などが関係する)によって決めるべきものなのだ。

往々にして、顧客はより安く、より良いサービスを求めるものだ。しかし、より良いサービスを提供するためにはコストをかけなければならないが、無尽蔵に物流にコストをかけるわけにはいかない。なので、この「適切な価格」 だけは顧客と寄り添うことが難しい場合が多く、時としてタフな交渉をしなければならなくなってしまう。

必要なのは予測・計算・発想

その時に必要なのが「予測」と「計算」と「発想」だ。
顧客側にも予算がある。そこには彼らの利益計算があり、その中で最善の物流を組み立てようとしているのだ。彼らにとってはそれ以上でも以下でもない。彼らの予算の範囲内でどこまで自分たちに寄り添った対応をしてくれるかが彼らの期待値なのだ。

例えば、1. の「適切な時に」は、顧客の倉庫(物流センター)と自社の工場との距離によって、求められているタイミングで納品できるかどうかが変わる。例えば、顧客の倉庫と自社の工場が離れた位置関係にあり、顧客が発注から1時間以内に納品せよというような(無茶な)リクエストがあったとする。コストを度外視して求められていることを実現しようとするなら、その顧客の倉庫の近くにストックセンターを置くのがソリューションになるだろう。しかし、そのためには倉庫を探して契約し、家賃を払い、マテハン機器(マテリアルハンドリングの略: 倉庫内の作業を効率化/省力化するための機械や設備を指す)を導入し、常駐するスタッフを置き、トレーニングし、一定数の在庫を持たなければならなくなる。

問題は「それにいくらかかるか?」だ。
そのソリューションを実現するのに必要なお金を払うのは、顧客か自分たちのいずれかしかない。例えばコンビニやAmazonは、彼らの顧客であるエンドユーザーの満足度がより高くなる形で商品を販売をするために、一定のコストを負担して物流サービスを構築している。その場合、メーカーは基本的に彼らが構築した仕組みに乗っかる形だ。小売店(および卸業者)と自分たちのコスト負担の線引きはケースバイケースだが、いずれにせよ、必要になるコストをメニュー化して社内で検討し、顧客に提示し、不要なものをそぎ落としていく作業が必要だ。

その時に「予測」と「計算」と「発想」が必要になる。

<<予測>>

予測しなければならないのは、そのサービスを実現するためにどんな工程が必要で、そこに投入しなければならない「人」「車両」「施設」「マテハン機器」がどのくらい必要になるかというところだ。ここを予測するためには、物流サービスを構築するためにどんな工程を進めていかなければならないかを十分に理解していて、それを言語化できる人材が必要になる。言うまでもないが、それは経験に基づいたものでなければならない。この「予測」を間違ってしまうと、そのあとの「計算」と「発想」に大きな影響が出る。

<<計算>>

次に、予測で洗い出した「人」「車両」「施設」「マテハン機器」にどのくらいお金がかかるかを計算しなければならない。「人」は365日休まず働かせるわけにいかないので、適切な休日を与える前提で、その交代要員も計算に入れなければならない。また実務に就く人たちをコントロールするための管理者が必要になる場合もある。車両やマテハン機器で言うと、一定のタイミングでメンテナンスをしなければならず、耐用年数を迎えた場合、もしくは致命的な故障が起きた場合は買い替えることも必要になる。施設の場合だと敷金や礼金を計算しなければならない場合もあり、当然水道光熱費や備品消耗品にもそれなりのコストがかかる。これらを計算するにもある程度の知識と経験が必要だ。

<<発想>>

当然と言えば当然だが、顧客が求めるものを完璧に実現しようとするとコスト高になる。なので「どこまでを実現するか」を顧客側とすり合わせなければならない。しかし、顧客側に一方的に引き下がってもらうのは得策ではない。なぜなら、小売店(および卸業者)は、彼らの顧客(つまりエンドユーザー)が最も喜ぶ方法で商品を販売しようとしているからだ。直接エンドユーザーと接することのないメーカーが、自分たちの都合で小売店のサービスレベルを引き下げてしまうことは、すなわち自分たちの商品の販売機会を失わせてしまうことを意味する。

そうなったときに重要になるのが「発想」だ。
「人」の面で言うと、作業員ひとりひとりの負荷を大きくしてしまうことは法令違反につながる可能性がある。それを最新のシステムやマテハン機器で補って効率化(省力化)を進めることができるか。また、機器に頼らなくても、トレーニングの方法を見直すことによってラーニングカーブを上げることができるか、作業員が辞めない環境を作ることによって、定着率を上げることによって採用コストを下げることができるか、なども検討できる部分だ。さらに「施設」や「車両」で言うなら(将来を見越した上での)適切なサイズ感の判断、および他の業務とシェアリングすることが可能か、など、こういったことは「ひらめき」のような発想力が必要となるが、当然それは経験に裏打ちされたものでなければならない。

(続きはまた来週)


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