繊維街とサイゼとディズニーな日
土曜日。午前9時。いつも賑やかな下北沢だが、まだお店はあまり開店しておらず、今にも雨が降り出しそうな黒く厚い雲も相まって、その静けさは、まるで海の中にいるみたいだと思った。夜ではない、けれども朝が来たわけでもないような不思議を感じながら、新宿行きの急行列車に揺られている。
舞台の衣装で必要な生地を買うため、同じ衣装班のチーフと日暮里の繊維街へきた。専門学校でやった舞台でも衣装を担当していたので何度か行ったことがあるが、裁縫やものづくりが趣味の私にとっては宝の山だ。あちこちに素敵な生地やレースやリボンやパーツが見えてくる。テンションが上がらざるをえない。専門学校のときは、買い物が終わっても私があっちこっちにチョロチョロと寄り道してしまうため、授業に遅刻しそうになり、最終的に一緒に来ていたクラスメイトに「行くよ!」と引きずられるようにして学校へ向かった。それはさながら、スーパーでお菓子を買って貰えなくて駄々をこねている子供と、何とか無理やり引っ張って帰ろうとしている母親のようだったと思う。いやぁ、申し訳なかった。つい我を忘れてしまった。今日はそうならないように、とは思いつつ、衣装について真剣に悩んでいるときでさえ、気に入ったものが目に入ると「あ!あれ可愛い!」と会話を遮ってしまう。ごめんなさい。話は聞いてます。ただ可愛い生地に身体が反応してしまっただけです…。
ひとまず買う生地の目処をつけ、他のメンバーへの報告と昼食を兼ねて駅前のサイゼリヤに入った。そこで私は気づいたのだが、ほうれん草のグラタンがメニューからなくなっていた。中には「いや気づくのおせーよ」っていう人もいるかもしれないが、全くサイゼリヤにこなかったという訳でもないのに、全く気づいていなかった。最近はずっとドリアやグラタンのページを見ていなかったんだなぁ。
高校の頃からよくサイゼリヤには行っていたが、その頃私はミラノ風ドリアしか頼んだことがなかった。たまに親ときた時だけ、贅沢してハンバーグを頼むくらいだ。一番安いし、それ以外を頼んで微妙だったら嫌だなぁ、なんて思っていた。しかしある時、放課後友人とサイゼリヤに行くと、いつもはミラノ風ドリア一択のはずが、なんだかドリアの気分ではなかったのだ。米の気分ではなかった。パッと見でほうれん草のグラタンが気になって食べてみたくなった。注文して、食べてみると、めちゃくちゃ美味しかった。クタクタのほうれん草と塩味のあるベーコン、それに加えてクリームソースのクリーミーさにどハマりした。堪能している私を見て、友人は面白がった。食事が終わってゲームセンターに寄り、プリクラを撮った時に、友人が私に「ほうれん草」とラクガキしていた。
ほうれん草のグラタンがなくなったことは寂しいし、あと一度くらい食べておきたかった。しかしおかけで懐かしいことを思い出せた。私は気に入ったものは飽きるまで食べて、他のものはなかなか選ばないが、少しでも気になったら、ほんの少し冒険するつもりで、いつもと違うことをしてみてもいいかもしれない。些細なことでも、自分にとっていいものかもしれないし、いい思い出に繋がるのかもしれない。
サイゼリヤに行ったあとはマクドナルドへ行った。こうやって改めて文章にすると、すごくお腹が減ってたみたいだが、実際は、サイゼリヤでは報告と情報の共有が終わらない内に、料理を平らげてしまったのだ。何も注文していない状態で長居するのは気が引けるということで、マックに移動し、食後のお茶をしながら報告を続けたが、途中で脱線しディズニーの話になった。
私もチーフもいわゆるDオタで、今開催中のディズニーハロウィンの仮装について、Xで流れてくる写真を見ながらたいそう盛り上がった。特にチーフは近々友人数名とディズニーへ行くらしい。羨ましい。それも相まって、似合いそうな仮装について会話が弾んだのだ。衣装の生地を買った後にでも、気になる生地を買って自分で何か作ってみようかとやる気満々だった。
繊維街に戻り衣装で使う生地を買った。残念ながら、目星をつけていた生地は私達が報告兼昼食を済ませている間に売れてしまっていたようだったので、同じくらいの色の同じような生地を三メートル購入した。チーフはなくなっていたことが悔しかったようでしばらく探していたが、無いものは仕方がないと納得した。
チーフとは衣装の生地を買うと直ぐに解散した。バイトの前だったらしく、それでも衣装ために一緒に来てくれたことに感謝だ。
私はというと、以前事務所の同期にヘッドドレスを作って欲しいと頼まれていたため、ついでに材料の買い物を済ませた。これから晩御飯を食べた後にでも取り掛かろうと思う。
まるで海みたいだ、なんて思っていたら今は霧雨が降っていた。髪も服も濡れてしまったので晩御飯はお風呂で温まった後にしようと思う。
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