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そんそんの教養文庫(今日の一冊)

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一日一冊、そんそん文庫から書籍をとりあげ、その中の印象的な言葉を紹介します。哲学、社会学、文学、物理学、美学・詩学、さまざまなジャンルの本をとりあげます。
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#カント

定言命法における「同時に」の重要性——和辻哲郎とカント

和辻哲郎(わつじ てつろう、1889 - 1960)は、日本の哲学者・倫理学者・文化史家・日本思想史家。『古寺巡礼』『風土』などの著作で知られ、その倫理学の体系は和辻倫理学と呼ばれる。法政大学教授・京都帝国大学教授・東京帝国大学教授を歴任。『人間の学としての倫理学』(1934年)で新しい倫理学の体系を構築。『風土』(1935年)、『面とペルソナ』(1937年)も名高い。 1931年に和辻が発表した論考「人格と人類性」では、カントの人格論が扱われている。この考察において下敷き

統整的理念としてのカントの「世界共和国」——柄谷行人『世界史の構造』を読む

柄谷行人の『世界史の構造』(2010年)は、彼の「交換様式」の理論からみた世界史の成り立ち、国家の起源、そして来たるべき世界へのアソシーエショニズムの展望を述べたものである。カントとマルクスを論じた『トランスクリティーク』と、交換様式の理論から新しいアソシーショニズムについて述べた『ニュー・アソシエーショニスト宣言』をつなぐような位置付けの書籍となっている。それぞれ、過去記事があるので参照されたい(『トランスクリティーク』、『ニュー・アソシエーショニスト宣言』)。 引用した

「強い視差」からくる超越論的な反省——柄谷行人『トランスクリティーク:カントとマルクス』を読む

柄谷行人による2000年代の著書『トランスクリティーク——カントとマルクス』からの引用。本書で柄谷は、カントによってマルクスを読み,マルクスによってカントを読むという試みに挑戦する。そして、コミュニズムの倫理的根源としてカントの哲学があることを明らかにする。「トランスクリティーク」とは、絶えざる「移動」による視差の獲得とそこからなされる批評作業の実践のことである。そして、新しい運動としての「アソシーエション」についても語られている。 カントの哲学は超越論的(超越的とは区別さ

民主制と共和制はどう異なるか——カント『永遠平和のために』を読む

イマヌエル・カント(Immanuel Kant、1724 - 1804)は、プロイセン王国の哲学者であり、ケーニヒスベルク大学の哲学教授である。『純粋理性批判』、『実践理性批判』、『判断力批判』の三批判書を発表し、批判哲学を提唱して、認識論における、いわゆる「コペルニクス的転回」をもたらした。 『永遠平和のために』(Zum Ewigen Frieden)は、晩年のカントが1795年(70歳時)に著した政治哲学の著作である。副題は「一哲学的考察」(Ein philosophi

泣き続ける乳児と存在の不快さ——埴谷雄高『死霊』とカント哲学

埴谷雄高(はにや ゆたか、1909 - 1997)は、日本の政治・思想評論家、小説家である。共産党に入党し、1932年に逮捕・勾留された。カント、ドストエフスキーに影響され、意識と存在の追究が文学の基調となる。戦後、「近代文学」創刊に参加。作品に『死霊』、『虚空』などがある。本書『埴谷雄高——夢みるカント』は、埴谷の長編小説『死霊(しれい)』について、カント哲学を軸にして、哲学者の熊野純彦氏が読み解いたものである。 1932年から翌年にかけて未決囚として刑務所に入っている際

アウシュヴィッツの後で道徳はいかに可能か——アレントの考えた「共通感覚」

アウシュヴィッツのあとでまだどのようにして倫理が可能であるのか。このテーマに応えようとしたのが、ハンナ・アレントの『責任と判断』に収載されている「道徳哲学のいくつかの問題」という文章である。これは1965年にアレントが教授をつとめていたニュースクール・フォー・ソーシャルリサーチ校で開講された長い講義の記録である。冒頭に引用したのは、その連続講義の第四講において、カントの判断力と共通感覚についての説明をしている部分である。 第二次世界大戦とその戦後の世界で、道徳原則が二回崩壊

カントはなぜかくも難しいのか——中島義道氏の『カントの読み方』より

イマヌエル・カント(Immanuel Kant、1724 - 1804)は、プロイセン王国の哲学者であり、ケーニヒスベルク大学の哲学教授である。『純粋理性批判』、『実践理性批判』、『判断力批判』の三批判書を発表し、批判哲学を提唱して、認識論における、いわゆる「コペルニクス的転回」をもたらした。 カントは難解として知られる。それはカントの原書を読んだ人なら誰もが知っている。まさに「ちんぷんかんぷん」なのである。本書『カントの読み方』では、カント研究者の中島義道氏が、まずカント