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そんそんの教養文庫(今日の一冊)

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一日一冊、そんそん文庫から書籍をとりあげ、その中の印象的な言葉を紹介します。哲学、社会学、文学、物理学、美学・詩学、さまざまなジャンルの本をとりあげます。
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#アリストテレス

究極的な卓越性に即しての魂の活動としての「最高善」——アリストテレス『ニコマコス倫理学』を読む

古代ギリシアの哲学者アリストテレスの『ニコマコス倫理学』第一巻からの引用。『ニコマコス倫理学』は、アリストテレスの倫理学に関する著作群を、息子のニコマコスらが編纂しまとめた書物である。アリストテレスの弟子エウデモスが編纂した『エウデモス倫理学』と中身の一部が同じとなっている。『エウデモス倫理学』に関する過去記事も参照のこと。 まず第一巻にて、人間の性質としての「善(アガトン)」の追求と、その従属関係、そしてその最上位に来る「最高善(ト・アリストン)」について言及される冒頭の

「よく生きる」こととしての幸福、そしてそのために徳を身につける——アリストテレス『エウデモス倫理学』を読む

『エウデモス倫理学』(希: Ηθικά Εὔδημια、羅: Ethica Eudemia、英: Eudemian Ethics)とは、古代ギリシャの哲学者アリストテレスによって書かれたとされる、倫理哲学書の一つ。アリストテレスの弟子の1人であったロドスのエウデモスが編集したとされることからこの名が付いた。全8巻から成るが、第4〜6巻にかけては、『ニコマコス倫理学』の第5〜7巻と同じテキストとなっている。 『エウデモス倫理学』の冒頭は、「幸福はあらゆるもののなかで最も美しい

アリストテレスのイデア不要論——アリストテレス『形而上学』より

アリストテレスの『形而上学』より再び引用する。(前回の『形而上学』についての記事も参照のこと)。『形而上学』第七巻の第8章である。 アリストテレスは師のプラトンが唱えた「イデア」について、どのように考えていたかが分かる文章である。アリストテレスは、「イデア」といった抽象的な本質の世界が私たちの実在の世界とは別に存在するという考え方を批判している。「イデア不要論」である。 一般にプラトン以前の哲学者たちにおいては、現実の物質的世界が唯一の世界であり、そこでは観念的・形相的な

実体とは何であるか——アリストテレス『形而上学』を読む

『形而上学』(希:メタピュシカ, 英:Metaphysics)とは、古代ギリシアの哲学者アリストテレスの「第一哲学」に関する著作群を、後世の人間が編纂しまとめた書物。後世において形而上学の基礎となった。アリストテレス自身は本書で扱われているような「諸存在(万物)の根本的な原因・原理」を考察・探求する学問領域のことを、「第一哲学」と呼んでいた。 引用したのは第一巻第三章、アリストテレスの有名な「四原因説」についての説明の部分である。純粋に物事の真理を知ろうとする学問の一般的な

理想の国家体制を考えるときの「条件」への着目——アリストテレス『政治学』を読む

アリストテレス(前384年 - 前322年)は、古代ギリシアの哲学者。プラトンの弟子であり、ソクラテス、プラトンとともに、しばしば西洋最大の哲学者の一人とされる。知的探求つまり科学的な探求全般を指した当時の哲学を、倫理学、自然科学を始めとした学問として分類し、それらの体系を築いた業績から「万学の祖」とも呼ばれる。特に動物に関する体系的な研究は古代世界では東西に類を見ない。様々な著書を残し、イスラーム哲学や中世スコラ学、さらには近代哲学・論理学に多大な影響を与えた。また、マケド

最高善としての幸福(エウダイモニア)——アリストテレス『二コマコス倫理学』より

アリストテレス(前384年 - 前322年)は、古代ギリシアの哲学者である。プラトンの弟子であり、ソクラテス、プラトンとともに、しばしば西洋最大の哲学者の一人とされる。 アリストテレスによると、人間の営為にはすべて目的(善)があり、それらの目的の最上位には、それ自身が目的である「最高善」があるとした。人間にとって最高善とは、幸福(エウダイモニア)、それも卓越性(アレテー)における活動のもたらす満足のことである。幸福とは、たんに快楽を得ることだけではなく、政治を実践し、または

幸福の「ゆるやかさ」——快楽と最高善のかなたにある幸福観

哲学者の長谷川宏氏(1940 -)の書籍『幸福とは何か』より引用。長谷川宏氏は、1968年に東京大学文学部哲学科博士過程単位取得退学。自宅で学習塾を開くかたわら、原書でヘーゲルを読む会を主宰。著書に『日本精神史』(講談社)、『高校生のための哲学入門』(ちくま新書)、『生活を哲学する』(岩波書店)などがある。 本書では、古代ギリシャ・ローマの幸福観としてソクラテス、アリストテレス、エピクロス、セネカの考え方、また西洋近代の幸福論としてヒューム、アダム・スミス、カント、ベンサム

アリストテレスの「ミメシス」と「物語」の関係―ブルーナーの『意味の復権』を読む

心理学者ジェローム・ブルーナーの1990年の著書『Acts of Meaning(意味の行為)』の翻訳本である。邦訳ではタイトルが『意味の復権』に変わっている。 ジェローム・ブルーナー(Jerome S. Bruner, 1915 - 2016)は、アメリカ合衆国の心理学者。一般には教育心理学者として知られているが、認知心理学の生みの親の一人であり、また文化心理学の育ての親の一人でもある。ハーバード大学で動物心理学を学び、1941年に学位を取得。欲求や動機づけが知覚に影響を