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そんそんの教養文庫(今日の一冊)

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一日一冊、そんそん文庫から書籍をとりあげ、その中の印象的な言葉を紹介します。哲学、社会学、文学、物理学、美学・詩学、さまざまなジャンルの本をとりあげます。
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#プラトン

アリストテレスのイデア不要論——アリストテレス『形而上学』より

アリストテレスの『形而上学』より再び引用する。(前回の『形而上学』についての記事も参照のこと)。『形而上学』第七巻の第8章である。 アリストテレスは師のプラトンが唱えた「イデア」について、どのように考えていたかが分かる文章である。アリストテレスは、「イデア」といった抽象的な本質の世界が私たちの実在の世界とは別に存在するという考え方を批判している。「イデア不要論」である。 一般にプラトン以前の哲学者たちにおいては、現実の物質的世界が唯一の世界であり、そこでは観念的・形相的な

理想の国家体制を考えるときの「条件」への着目——アリストテレス『政治学』を読む

アリストテレス(前384年 - 前322年)は、古代ギリシアの哲学者。プラトンの弟子であり、ソクラテス、プラトンとともに、しばしば西洋最大の哲学者の一人とされる。知的探求つまり科学的な探求全般を指した当時の哲学を、倫理学、自然科学を始めとした学問として分類し、それらの体系を築いた業績から「万学の祖」とも呼ばれる。特に動物に関する体系的な研究は古代世界では東西に類を見ない。様々な著書を残し、イスラーム哲学や中世スコラ学、さらには近代哲学・論理学に多大な影響を与えた。また、マケド

洞窟の外に出てイデアの光を見よ——プラトン『国家』を読む

師ソクラテスが国家の名において処刑された。それを契機として書かれたのが、プラトン(前427 - 前347)の著作の中の最高峰とされる『国家』である。岩波文庫で約900頁をなす大著である。師ソクラテスが説きつづけた「正義」と「徳」の実現には、人間の魂のあり方だけではなく、国家そのものを原理的に問わねばならないとプラトンは考えるにいたる。この課題の追求の末に提示されるのが、本書の中心テーゼをなす「哲人統治」の思想にほかならない。理想の国家を統治する哲人王による統治。王となるべき国

愛知者は死にどのように臨むべきか——プラトン『ソクラテスの弁明』を読む

ソクラテスの「無知の知」は有名な言葉であるが、少し誤解されているところもある。「無知の知」とは、「自分が何も知らないということを知っている」というよりは「自分が知らないことを知っているとは思っていない」ことである。「不知の自覚」という言葉でそれを区別する人もいる。ソクラテスの実際の言葉を引いてみよう。 そして、この不知の自覚のソクラテスの態度は、「死」に対しても向けられている。冒頭の引用がそれである。「愛知者」すなわち知を愛する者としての責務は「不知の自覚」の態度を徹底する

哲学者とは死ぬことを心がけている者である——プラトンの『パイドン』を読む

『パイドン』(パイドーン、古代ギリシャ語: Phaídōn、英: Phaedo)は、プラトンの中期対話篇。副題は「魂(の不死)について」。『ファイドン』とも。ソクラテスの死刑当日を舞台とした作品であり、イデア論が初めて(理論として明確な形で)登場する重要な哲学書である。師ソクラテス死刑の日に獄中で弟子達が集まり、死について議論を行う舞台設定で、ソクラテスが死をどのように考えていたか、そして魂の不滅について話し合っている。 ソクラテスは「人間にとって死ぬことは生きることよりも

プラトンが語ろうとした「魂(プシュケー)」の意味とは

西洋哲学研究者の中畑正志さんによるプラトン哲学の入門書である。プラトンは、古代ギリシアの哲学者であり、ソクラテスの弟子にして、アリストテレスの師に当たる。プラトンの思想は西洋哲学の主要な源流であり、哲学者ホワイトヘッドは「西洋哲学の歴史とはプラトンへの膨大な注釈である」と述べた。 プラトンがいかに偉大な哲学者であるかは、彼の著作が2000年以上前のものであるにもかかわらず、その多くが今まで残されているという事実からも分かる。これは極めて例外的なことである。彼の著作の最大の特

愛の本質とは「分娩出産」である——プラトン『饗宴』を読む

プラトン(プラトーン、紀元前427年 - 紀元前347年)は、古代ギリシアの哲学者である。ソクラテスの弟子にして、アリストテレスの師に当たる。『ソクラテスの弁明』や『国家』等の著作で知られる。現存する著作の大半は対話篇という形式を取っており、一部の例外を除けば、プラトンの師であるソクラテスを主要な語り手とする。 『饗宴』(きょうえん、ギリシャ語: シュンポシオン、ラテン語: シンポジウム)は、プラトンの中期対話篇の1つ。副題は「エロースについて」。紀元前400年頃のアテナイ