百三話 咀嚼

喫茶店『天使の扉』でお嬢様の隣に座っている私…。
お嬢様は、もういやらしいところは触らないと言った…。
それでも、私の手を握り執拗に撫で回しているのであった…。
指を絡めて、離さないお嬢様…。
恋人つなぎをしようとするお嬢様を、頑なに拒絶する。
そうこうしているうちに、お嬢様に翼さんが忠告してくれた。
モーニングセットのトースト冷めてしまいますよ…と。
お嬢様は絡めていた私の指から、手をやっと離してくれた…。

やっとモーニングセットのトーストを食べようとしているお嬢様…。
バターの乗ったトーストをフォークとナイフで、器用に切り分けている。
そして、切り分けたトーストを私の口元に持ってくるお嬢様…。
私は訳がわからず、ただポカンとしてしまった…。
お嬢様曰く、どの食事でも毒味してもらわないと食べられないと言う…。
毒味と言うと、このトーストを私が食べると言うことか…。
お嬢様は有無を言わさない視線を、私を送ってくる…。
「じゃぁ、失礼して、いただかせていただきます…」
私は、意を決してお嬢様の差し出すトーストを口の中に含んだ…。
サクサクとしたトーストに、熱さで溶けたバターが満遍なく口の中に広がり美味だ。
当然、毒など入っていない…。大変美味しい…。
私は、サクサク感を存分に感じながら、トーストをよく噛んで味わった。
そのまま嚥下しようとした瞬間…。
「待って…!飲み込まないで、そのまま戻しなさい…」
またお嬢様の言った意味がわからず、私はポカンとしてしまう…。
口の中にはまだ、私が噛んで唾液も混ざって、サクサク感ゼロのトーストだった物がある…。
これを戻せと…?どこに…?
「この人、ガチレズで変態だから、美少女の噛み砕いた物しか食べれないんだよ…」
やれやれという感じで、向かいのボブカットのお嬢様が言った。
美少女のクチュクチュ咀嚼した食べ物しか食べれないなんて、とんだ変態じゃないか!?
髪の長いお嬢様は、そんなこと言われても、どこ吹く風でこちらを凝視している…。
お嬢様は、フォークをこちらに差し出した。
ここに、私が咀嚼したトーストを出せというのか…。
多分、私の口の中ではドロドロになったトーストだった物がいることだろう…。
それを外界に戻していいのだろうか…?
それを長い髪のお嬢様は、食べると言うことなのか!?
それは、ものすごい間接的な、それでいて濃厚なディープキスをすると言うことじゃないのか!?
あまりに変態的な申し出に、私はクラクラと目眩してしまうのだった…。

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