三百二十八話 不問

「ごきげんよう」「神のご加護を…」

朝の清冽な空気の中、女子生徒の挨拶がこだまする…。

学校の校門をくぐると、そこは身も心も清らかな乙女の園…。

そう、ここは神田ミカエル女学院…。

中庭の大天使ミカエル像が、通う女子生徒たちを守護している…。

天界の大天使ミカエルは、ここに通う女子生徒たちを見て何を思うか…?

その御心は、まさに神のみぞ知るということなのだろう…。

ここに三年間通えば、お淑やかなお嬢様になって卒業できるという…。

制服は翻さないように、静かに歩き…。

清廉潔白で文部両道、それでいて純粋無垢な心を持った乙女たち…。

この学院には、そういった生徒しか存在しないのです…。

否、今日から新たに校門をくぐった、たった一人の生徒を除いて。


訳あって、二週間の謹慎処分になってしまった私…。

ようやく?二週間の謹慎も終わりになって…。

二週間ぶりに学校に登校することになった…。

本音を言うと、学校に行きたくないのだけれど…。

前日に理事長先生から電話があり…。

登校する日だから忘れないようにと…。

あと、早めに来て理事長室に寄るように言われた…。

早めに登校するのも、ちょっと嫌だけれど…。

理事長先生の言うことだから、無視する訳にはいかない。

私は早く起きて、登校する準備をしている…。

久しぶりに着る秋冬用の黒いセーラー服の制服を着て…。

リュックに筆記用具と教科書を詰め込んだ。

隣に寝ているズッ友の藍さんも優しく起こして…。

学校に行くことになったのである…。


私の通っている学校…。

神田ミカエル女学院は家から数分の距離なので…。

程なくして、学校に着いてしまった…。

久しぶりの上履きを履いて…。

理事長室に向かう私たち…。

程なくして、理事長室に着いた。

すごい重厚なドアがあり、それをノックする。

すぐにドアが開いて、どうぞという声がする。

私たちは失礼しますと言って中に入った…。

「おはようございます。真島さん鈴木さん」

理事長先生が立ち上がって挨拶をしてきた。

私たちも挨拶をして、立ちすくむしかなかった。

理事長先生の執務机はとても大きくて…。

その隣には大天使像が立っている…。

壁には有名な名画が飾ってあって…。

理事長室は、入るだけで緊張するのである。

理事長先生は座りなさいと言う…。

理事長先生がそう言うので、私たちは座った。

来客用であろう、革張りのソファーも豪勢だ。

理事長先生も自分の椅子に腰掛けた…。


二週間の謹慎が明けて…。

登校した気分はどう?というような …。

問いかけを私たちに理事長先生が言う。

理事長先生は色白で年齢不詳な美人な方なのだが。

髪の色が光の加減で、青にも深緑にも見えて…。

肌の白さも人間離れしたぐらいの真っ白さ。

化粧とかでの白さではないのだろうけれど…。

対峙していると、すごい緊張してしまう…。

「久しぶりの登校で、緊張しています」

私は正直に答えた…。

藍さんは微かに頷いただけであった。

多分、私と同意見なのだろう…。

「謹慎の間、少し外出していたらしいけれど」

理事長先生がいきなりそんなことを言った…。

謹慎初日に原宿に行ったことがバレていたのか?

やっぱり藍さんの言う通り、怒られるのかな?

私は胃がキリキリ痛みだしてしまうのであった…。


「2人は謹慎初日に原宿にいたそうですね…?」

理事長先生は綺麗な瞳をこちらに向けている…。

やっぱりバレていた…!?

「黛先生が見かけたそうですよ?どういうことです?」

黛先生が!?見かけたならその場で注意すればいいのに。

なんで、わざわざ理事長先生に言いつけるかな…?

黛先生というのは保健室の先生である…。

「着る服がなかったので、買いに行ってしまいました…」

そう言って申し訳ございませんと、私は深くお辞儀をした…。

「普通は謹慎中に出かけるなど言語道断なのだけれど」

理事長先生はそう言い、一呼吸置いて…。

「今回の謹慎は真島さんから提案したことだから不問にします」

理事長先生はそう仰ってくれた…。よかった…。

私はほっと胸を撫で下ろすのだった…。


「真島さんたちは今日から教室で授業を受けるのですね」

いきなり話題が変わったので、呆然としてしまう私 …。

私たちはずっと保健室で授業を受けていたのだ…。

藍さんは本当はうちの学校の生徒ではないのだけれど…。

理事長先生がうちの学校に入れてくれることになったのだ。

「うちの学校は天使側の人間を育成している学校です…」

理事長先生がそんなことを言い出す…。

私も風の噂で、そうだと聞いていたけれど…。

「もし教室のクラスメイトに何か言われたら…」

理事長先生は机の引き出しから何かを出した…。

「このカードを見せなさい…」

理事長先生は立ち上がり、私に一枚のカードを渡した。

私も立ち上がり、礼を言ってカードを受け取る…。

カードはプリズム色に輝く天使の絵が描かれたカードだった。

天使の姿は薄絹の服を着た女性に天使の羽が生えた姿…。

敬虔な表情で、お祈りをしている格好だった。

「このカードは私と絆を紡いだ証拠のカードです」

絆を紡いだ証拠…?そんなに絆を紡いだのだろうか?

「ある特定の者と絆を紡ぐとカードが出現することがあります」

そのカードは貴方の助けになることでしょう…。

理事長先生はそう説明してくれた。

説明されてもよくわからない…。

でも、綺麗なカードなので大事に持っておこうと思う…。

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