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『あなたはきえる』原泉バージョン 上演について振り返る

はじめに

ソノノチ×Robin Owings『あなたはきえる』原泉バージョン。
インスタレーション展示&パフォーマンス上演の企画が、3月23日(土)、24日(日)に無事終了しました。
当日はあいにくの雨でしたが、上演中から日差しが差し込むなど天候にも恵まれ、足元が悪い中にも関わらずたくさんの方にお越しいただくことができました。本番から少し時間が経った今、改めてクリエイションを終えてのレポートをまとめておきたいと思います。

2023年の初演から「運んできた」イメージ

撮影:脇田友(以降、すべての上演写真)

2023年に地元京都で初演されたこの作品は、日常の記憶や時間をモチーフに、「きえる」というシンプルながらに奥深い言葉の中でも、「あるからきえる、きえてはじめてそこにあったと分かる」というコンセプトを出発点にしています。Robin Owingsの古布を使ったインスタレーションにも、人々の営みや生活、そして時間というコンセプトが含まれています。きえることそのものというよりは、きえるをめぐる私たちの振る舞い(思い出すとか、たどり返すとか、忘れることを肯定する、反対に忘れないようにする、といった数々のイメージ)について扱っています。そこに至るまでには、身近な生活の感覚と身体性のアイデアをたくさん出し合い、地層が幾重にも積もるように作品を立ち上げてゆきました。

観る人が自分なりの「きえる」というイメージを結べるように、舞台上にある様々なもの(布や、俳優の身体、木の枝、石、ガラスの瓶、水、光、空間など)のあり方・バランスを決めていきました。また、布の作品と空間をつなぐものとして、この茶工場の周辺の風景の中に落ちていた自然のものを、配置しました。
セリフなどはほとんどなく静かで、一見停止しているかのようにも見えますが、最初から最後まで、すべてはごくゆっくりと動き続けています。その変化の様を、目で追うことは簡単ではありませんが、時間が経って初めて観客が変化に気づくようになっているのです。これは、四季の移り変わりのまさにその瞬間を見れないのと同じです。(この点は、屋外で上演するランドスケープシアターと共通しています。ランドスケープシアターについては、よろしければ以下の記事をご覧ください。)


空間とイメージのコントラスト

今回(茶工場跡)と、初演となる前回(織物工場跡)とでは、上演するにあたっての空間の状況がかなり違いました。そこで、前回作ったものをどのようにこの(茶工場の)空間に持ち込みインストールするかではなく、『あなたはきえる』という現象が、もしこの場所に起こったらどうなるか、という視点で制作を進めていきました。
私たちはこの空間もつイメージの違いを、コントラストとして打ち出すことにしました。光と影、陽と陰、白と黒、柔らかいと硬い、疎と密…などです。パフォーマンスの内容に限らず、チラシなどのビジュアルイメージにもこのコントラストを反映させました。

2023_前回のチラシ(表面のみ)
2024_今回のチラシ(表面のみ)

この作品もきえる

今回のクリエイションを通して、気づかない間に少しずつ変化していく風景を眺めながら、観客一人一人の見え方・捉え方にアプローチする作品とは、場所性と深くコラボレーションしてつくられるものであり、それこそ、私たちの作品なのだと改めて気付かされました。
これからも、この作品を大切に運び続けたいと思います。変わっていく、忘れていくことも、その営みのひとつだと肯定しながら。


HARAIZUMIガイドツアーの様子

羽鳥さんによる、原泉地域とアートプロジェクトの活動レクチャー

ソノノチでは、「風景を感じるワークショップ(鑑賞前に観客の皆さんと行うワークショップ)」など、上演の前後の場作りについても積極的に取り組んできましたが、今回、ガイドツアーは初めての試みとなりました。
原泉アートプロジェクト代表の羽鳥さんによるレクチャーと、AIR MEALS(滞在中私たちが実際に食べている食事)体験、ソノノチメンバーが過去のパフォーマンス上演会場やおすすめのスポットをご案内した後、本作品とアフタートークセッションを鑑賞していただきました。

AIR MEALSの様子

たった1時間ほどの上演ですが、この作品は突然生まれたわけではありません。原泉はどのような自然・文化を内包した地域で、私たちはなぜここにいるのか。レジデンスアーティストとして2019年から毎年この地に通い、地域での様々な交流とリサーチを通して、ご縁と関係性を深めてきたからこそ実現できた作品であることを、このツアーを通してお伝えできたのではないかと思います。

パフォーマンス冒頭、作品のインスピレーションを与えてくれた風景を観る時間


当日パンフレット掲載文

本日はお越しくださりありがとうございます。
初めて滞在制作で原泉を訪れたのがちょうど5年前、2019年春のことです。原泉は、Robinと出会った場所であり、ランドスケープシアターという、私たちにとって大切な作品が生まれた場所でもあります。昨年7月の京都公演を経て、ついに原泉バージョンの本番の日を迎えることができました。これまで共に考え、経験を共有してくれたRobin Owingsと、クリエイションメンバー、そして上演を受け入れてくださった原泉アートプロジェクトと地域の皆さんに心から感謝します。

季節が過ぎるように、私たちは日々ゆっくり、ゆっくりと変化していきます。その中で、どこかに忘れてきた“わたし”のことを考えています。彼女たちは薄いカーテンの重なりの向こう側にいて、そのほとんどがいつか見えなくなるのでしょう。
ふと、演劇を始めた頃を思い出していました。かつての私は、いつまでも変わらないために、忘れないために作品をつくっていました。けれど今は、そうではありません。変わっていい、忘れてもいいと思えることがあるのです。なぜなら、遠ざかっていくものを見つめる時にこそ、たしかにここにあったことを実感できるからです。

コロナ禍を経て、本当にいろいろなことがあったはずなのです。すべてを思い出すことはできないし、かといってすべてを忘れ去ることもできません。こうして原泉のあちこちに、きえてしまった私たちの影があります。
その影の背中を追うようにこの作品も、まもなくここにあらわれて、まもなくきえるでしょう。
今は少しさびしいのですが、そのさびしさが私には、なんとも美しいと感じられます。

パンフレット掲載文(演出 中谷和代)
Robin Owings インスタレーションの様子
集合写真


参考: 過去作品のレビュー

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