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【寄稿⽂】『あなたはきえる』をみて/文:⾼内洋⼦さん
2023年7月に初演をおこなった『あなたはきえる』の上演会場「アトリエみつしま Sawa-Tadori」の⾼内洋⼦さんに作品を鑑賞いただき、「上演を⾒たとき/⾒たあとに⾃分の中で起こったこと」を書いていただきました。
規則正しいセミの声が、この古びた場所へと私を引き戻した。私は少しほっとして、少しがっかりした。いま過ぎた時間がもう懐かしい。
その出来事は、まるでずっと前から続く営みの延長のようだったので、私は自分が「いまここにいる」ということを何度も思い出さなければならなかった。あの日私は少し繊細になっていたし、自失することをおそれて踏みとどまろうとしていたのかもしれない。ほんとうはもう、消えてしまっていたのに。
ここで見たものは確かに存在したはずなのに、いまも判然としないのはなぜだろう。でもその出来事の経験は、やわらかに揺れていたあの布々のように、透けてしまいそうな儚さをもって私の中に淡くとどまり続けている。
その後のソノノチは私の生活に穏やかな痕跡を残した。誰もいなくなったギャラリーに響くセミの声は、あの日のものとは確かに違う。それでもなお続く営みの中で、私は消えてしまった出来事を思い出している。
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