オススメ映画を紹介するよ! 今泉力哉監督作品再び編
個人的に邦画鑑賞欲を喚起してくれた今泉力哉監督。訳あってFODに短期課金したり
偶然過去作が配信解禁されたりしたので、またまとめてドドっと見てみました。どれも「好き」です。「凄い!」とか「傑作」という賛辞でもいいんだけど、「好き」が一番しっくりくる作品たちです。
his 〜 恋するつもりなんてなかった
例によってドラマシリーズから。映画版「his」の前日譚です。渚と迅のヒリヒリする関係性がエモいです。渚は自分の性的指向ははっきりとわかっている。けれど迅はまだ確信はしていない。お互い言葉にしないまま近づいていく距離感がもどかしいです。そこに関わってくるのは、今泉組ではお馴染みの志田彩良演じる千歌と、最近お気に入りの栗林藍希の亜子。普通だったら2組の青春ラブストーリーになりそうなフレッシュなメンバーなんだけど、当然そうはならない。でもそこがいい!
【以下ネタバレ】
LGBTQ(いろいろ言い方はありますが、ここでは短めに)を扱ったラブストーリーってだけにならず、深く刺さったシーンがあります。渚のもつ、迅への想いを感じ取った千歌は、「渚って、もしかして迅くんのこと・・・」と問いかけます。沈黙する渚に、千歌は「違うよね。ゴメン、わたし変なこと心配して」。それに対して渚の返事は、「変なことなんかじゃない。オレにとっては、それが当たり前だから」。
多かれ少なかれ、「普通の」私たちは、LGBTQに対して理解をしているとは言え、千歌のような反応をしてしまうかと思います。当事者の「当たり前」を当たり前と思えず。ドラマ中、頭悪そうなギャル風の女の子だったり、ぽわっとしていた亜子の方が、自然なこととして彼らのことを受け止めていたのに対し、いい子で物分かりの良い存在として描かれていた千歌が、「変なこと」と言ってしまったのが物語的には上手いと思ったし、自分たちにも跳ね返ってきて心を抉られました。
渚と迅のその後は、映画版「his」でも語られます。ドラマ版を見ていなくても楽しめますが、できれば続けて見てほしいです。
良かったと言えば、このドラマの挿入歌、ガラパゴスの「黒い酸素」がめっちゃいいんですよ! ガラパゴスは後に最果テルーティンと改名、しかし現在は無期限活動停止中のようです。しかも音源がない! 聴けるのはYouTubeだけっぽいので貼っておきます!
his
渚と迅のその後のストーリー。大人になれば同性であろうが異性であろうが、恋愛にもシリアスな実社会が大きな影響を持っています。この映画では後半は空の親権をめぐっての法廷シーンがメインになります。男同士のカップルが「普通でない」ことから母親が親権を持つ方が相応しいという主張に対し、渚や迅目線で見ている私たちは反感を覚えます。しかし、母親が仕事で忙しく、満足に子どもの面倒を見られないことを責めるシーンでは、逆にその過酷さに「果たしてコレでいいのか?」という疑問も浮かんできます。最終的に渚が見つけた答えとは。まあ空ちゃん可愛いですから。
もうひとつ、彼らを受け入れる岐阜県の山村のコミニュティの居心地の良さは格別です。普通なら異分子を排除しそうな「田舎」ですが、互いに支え合いながら生きている関係性が素敵です。迅に恋してあっさり振られる移住担当者を松本穂香が演じています。どうも不幸な役が続いている気がする彼女には、現実でも映画中でも、幸せになってほしいものです。
mellow
自分の中では演技がわざとらしい印象の田中圭が、リアルさが魅力の今泉力哉監督作品に合うのかな?という不安がありました。結果、違和感なくおさまっていました。
「ありがとう。でも、ごめんね」という、何度も繰り返される言葉を軸に、恋を実らせるとか以前に、自分の思いを誰かに知ってもらうこと、言葉にして伝えることの大切さを知る物語。
前半は突然ラーメン屋で別れ話を始めるカップルとか、夫も同席のもと夏目に思いを告げる人妻ともさかりえとか、笑える場面も挟まれます。しかしそれらも思いを伝えるひとつの形なのです。中盤からは志田彩良演じる中学3年生宏美に後輩の女の子が、夏目に宏美が、再び宏美に別の後輩の女の子が、それぞれ告白します。その度に繰り返される「ありがとう。でも、ごめんね」。実は「his」でも使われているんですよね。
終盤は木帆と夏目が、互いを思いながらどうやってそれを伝えるのかがポイントになってきます。「手紙」の扱いは少し作為的な気もしましたがエンディングはアッサリと、それでも爽やかな幕切れでした。ラストの岡崎紗絵、素敵です。
夏目の姪役の白鳥玉季さん。子役の演技としては完璧。上手すぎます。末恐ろしいですね。
知らない、ふたり
主要登場人物が韓国人なので、セリフが字幕だったりして、リアルな会話が魅力の今泉力哉監督作品にしてはとっつきにくい感じはしました。誰かが誰かを好きだったり、気になっていたりするのですが、ちょっとしたすれ違いだったり酔っ払ったりで、それぞれの関係性は揺れ動きます。恋模様の他に、心を閉ざしていたレオンが、どう救われるのかも話の軸となってきます。
日本人キャストの中では、芹澤興人演じる車椅子の男と、そのパートナー木南晴夏の会話が秀逸。楽しげに話していたのに、一瞬で重い雰囲気に移行する凄みを、淡々とした会話のみで表すシーンには、こちらまでゾクっとさせられました。
猫は逃げた
今泉力哉監督と城定秀夫監督が、それぞれ脚本を書いてもう一人が監督をする、R15のラブストーリーとするという条件で作られた作品。今泉力哉監督の「猫は逃げた」と、城定秀夫監督の「愛なのに」が制作されています。「愛なのに」はいずれ城定秀夫監督作品まとめて紹介しますね。
とにかく猫が可愛い映画。しかも演技がも素晴らしい。R15ということで絡みのシーンも多めなのですが、脱いだ服がカンタに被さって引きずって歩くとこなんか最高。近所のメス猫と相引きしたり、河原を散策したり、まあ猫だから好き勝手です。
途中オズワルド伊藤が怪しい映画監督役で登場、よくわからない「愛」について語りますが、いかがわしさ満点でした。そして後半、今泉監督お得意の、登場人物が集まってわちゃわちゃ会話をするシーンが。4人横並びのワンカット長回しです、名言「泥棒猫が猫泥棒」も飛び出します。
因みにカンタ役のオセロは「愛なのに」にもチョイ役で出演。コチラでもいい演技していました。
パンとバスと2度目のハツコイ
今回紹介する中では、最も普通っぽいラブストーリー。とは言えふみ(深川麻衣)は、「ずっと好きでいられる自信がないから」という理由でプロポーズを断ってしまうちょっと変わり者。洗車されるバスに乗ってみたり、孤独を愛する一面があったり。
全編を通して、「付き合ったり結婚していないから一緒にいられる」という、「こじらせ」と言えるけど実は真理をついた考え方が流れています。皆さんもそうじゃないですか? 例えば初恋の人で、好きと言えなかった人って、何年経っても「好き」のままじゃないですか?(経験あり) でもじゃあふみのように結婚しないほうがいいかというとそれも違う。ふみがどんな結論を出すのか、それとも出さないのか。
深川麻衣は初主演とは思えない安定感。今泉映画ではその後「愛がなんだ」で重要な役を演じます。山下健二郎は意外に地味で不器用な役がよく似合います。「mellow」でもラーメン屋さんで別れ話をしていました。ふみのことを好きだった友人役で登場するのは、伊藤沙莉。主人公の友人ポジション得意ですよね、「寝ても覚めても」とか「蒲田前奏曲」とか。ふみの妹役はまたしても志田彩良。この映画撮影時に、「いつか主演で映画撮ります」って今泉監督に言われていたみたいです。後に「かそけきサンカヨウ」につながります。今泉映画を知る意味でも、見るべき作品ですね。