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オススメ映画を紹介するよ! 「恋は光」と「殺さない彼と死なない彼女」編

基本的に青春キラキラ系の映画は好みではないし、避けて通りたい人です。しかしタイトルやキービジュアルだけで勝手にキラキラ系と判断してしまうと、大きな間違いをおかすことがままあります。イチオシの「ひらいて」や「彼女が好きなものは」などはその最たるものです。今回紹介する「恋は光」「殺さない彼と死なない彼女」は、タイトルからしたらどう考えても軽薄キラキラ系(ド偏見です)であるにもかかわらず、実際は文学系かつ意欲的な恋愛映画です。しかもどちらも小林啓一監督。2作品の魅力を語りつつ、昨今話題になっている、マンガ原作の実写映画化についても少し触れてみたいと思います。【ネタバレ全開】です。

恋は光

「恋をしている女性が光って見える」という特異体質の大学生・西条は、自身は恋愛とは無縁の学生生活を送っていた。ある日、彼は「恋というものを知りたい」という文学少女・東雲に一目ぼれし、恋の定義について語り合う交換日記を始める。西条にずっと片思いしてきた幼なじみの北代は、そんな2人の様子に心をざわつかせる。一方、恋人がいる男性ばかり好きになってしまう宿木は、西条を北代の彼氏だと思い込んで猛アプローチ。4人は奇妙な四角関係に陥っていく。

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ネットの評判を見ていると、「西野七瀬は演技が下手」なんてコメントを見かけるのですが、そう感じさせてしまうのならそれは監督や演出の責任です。この映画で西野七瀬が演じるのは、主人公西条の幼なじみ北代。最初の西条との会話場面での、「キリッ」「ムッ」のやり取りだけで、2人の関係性や心地よい会話のキャッチボールが印象づけられ、もうあとは北代の一挙手一投足から目が離せません。おそらく映画を見ているのほとんどが(男女関係なく)北代を好きになるはずです。

東雲役は平祐奈、宿木は馬場ふみかが演じます。それぞれが魅力的で、東雲は古風で面倒くさくてなんか超越しているキャラでありながら飲みすぎて倉敷で嘔吐してしまうし、宿木は映画冒頭スローモーションでドリンクを頭にぶちまけられるというインパクトある登場シーンな割に美味しいところをピンポイントでおさえていたり。また恋敵である3人が古民家のパジャマパーティーでわちゃわちゃするところなんか最高です。とにかく、女性陣が全員可愛く撮られているってことです。

そして映画の中核となるのが、「恋とはなんぞや」という西条の命題です。「恋する人が光って見える」という特異体質でありながら、恋の本質がわからない。偶然知り合った東雲と交換日記を始めるところから、北代宿木を巻き込んで恋の定義を饒舌に語り合う、言葉で埋め尽くされる映画となっていきます。好きになったり嫉妬したりしても、それを定義しなければ前に進めない不器用な若者たち。柔らかな雰囲気の中で、言葉による丁々発止の恋がぶつかり合います。果たして恋とは本能なのか学習なのか憧れなのか。そして西条は最終的に誰を選ぶのか。「若さ」とは縁遠くなった世代でも、キュンキュンした「恋」を思い出せる作品です。

殺さない彼と死なない彼女

何にも興味が持てず退屈な日々を送る男子高校生・小坂れいは、教室で殺されたハチの死骸を埋めているクラスメイト・鹿野ななに遭遇する。ネガティブでリストカット常習犯だが虫の命は大切に扱う彼女に興味を抱く小坂。それまで周囲から変人扱いされていた鹿野だったが、小坂と本音で話すうちに、2人で一緒に過ごすことが当たり前になっていく。

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「死ぬ死ぬ」言って死なない鹿野(桜井日奈子)と、「殺す」と言って殺さない小坂(間宮祥太朗)が、互いに悪態をつきながらも、2人にしか分かり合えない感情を共有して、少しずつ近づいていく。小坂の部屋でゲームやったり公園で湿気った花火をやろうとしたり、キュンキュンはしないけれど確かな信頼感が育っていく2人を応援したくなります。そんな2人と並行して、ひたすら八千代(ゆうたろう)に「好き」と言い続ける撫子(箭内夢菜)、恋に没頭し毎回振られてしまうきゃぴ子(堀田真由)と、その親友で八千代の姉である地味子(恒松祐里)のエピソードも語られます。そしてどうやら同じ高校の誰かが殺されたらしく、不穏な影もチラチラ姿を見せるようになります。

基本的には「恋は光」と同じように、それぞれの「好き」という説明できない感情が、登場人物の饒舌とも言える語りで解き明かされていきます。撫子の「好き」は八千代を変え、きゃぴ子と地味子もシスターフッドなのか百合なのかわからないけれど信頼を強めていきます。「未来の話をしよう」というキーワードが、最後には物語全体を貫き、「ある事件」がありながら、鹿野も前を向いて歩き出します(微妙なネタバレ回避)。タイトルを見た時点ではいい意味で想像できない、暖かな気持ちになること請け合いです。ほとんど文句のない作品ですが、敢えて難点を挙げるとすれば、間宮祥太朗が高校生には見えないことです。留年設定とは言え。

あ、因みに撫子を演じる箭内夢菜はイッテQ出川ガールの夢っぺです。演技を見たのは初めてだったのですが、中盤に登場する怒涛の「好き」宣言シーンにはやられてしまいました。

マンガの実写化と原作改変

某マンガのドラマ化に関わって、悲しい出来事が起こってしまいました。出版社やテレビ局による原因の究明が待たれるところです。当然ネット上では侃侃諤諤なのですが、その中で「マンガを実写化する時には原作通りにすべき!」なんて投稿がありました。流石にそれは違うんじゃないのかなあって思っています。

「恋は光」も「殺さない彼と死なない彼女」は、どちらも小林啓一監督の作品であるとともに、実は「マンガの原作から大きな改変がなされている」という共通点があります。

【以下ネタバレ】「恋は光」原作では、西条と結ばれるのは東雲です。ところが、映画では西条が選ぶのは北代です。原作至上主義の立場をとれば、最重要の結末が改変されるのは許されざることです。しかし、北代も東雲も魅力的に描かれている映画では、ラストが違っていても、ある意味原作ファンも夢見ていた「もうひとつのエンディング」として受け入れられているようです。

「殺さない彼と死なない彼女」原作では、そもそも鹿野&小坂、八千代&撫子、きゃぴ子&地味子の3組は交わりません。それを大胆に関連させ、しかも時間軸をずらすことで、「未来のことを話そう」というテーマが映画全体を貫く構成になりました。

どちらの映画も、改変することで映画としてより完成された作品になったと思います。もし原作通りに作ったとしたら、原作の魅力を全く伝えられない作品になったはずです。

監督がどのように原作と向き合ったかがわかる記事があります。

まずは「恋は光」について。原作者へのインタビューです。

全部読んでもらった方がいいのですが、少し引用します。

――原作でも結末をどうするか悩まれたそうですが、小林啓一監督(脚本も担当)から映画版オリジナルの着地点を提案されたときの感想は?

最初に脚本を読んだとき、すでにキャラクター造形や彼らに対する知識量等々、自分が作ったものを何段階か高めていただけていてすごくうれしかったことを記憶しています。その時点で、「もう小林監督にすべてお任せしよう」と決めました。

その後、何度か改訂されたものを読んだのですが、その度に、またさらに良いものになっていて。その流れの中で、結末に関して大きな変更がありました。
なぜその結末になるのか、過程を丁寧に描いてくださっていて。真摯に作ってもらえたことがうれしかったですし、監督の仕事量を考えると頭が下がる思いでした。

映画ならではの着地点について、見てくださる方の感想が楽しみです。

集英社オンライン

注目すべきは、原作者が脚本を何度も読んでいること、監督(脚本)が原作をリスペクトし読み込んでいること、でしょうか。

続いて「殺さない彼と死なない彼女」についてのコメントです。

この中から、原作者のコメントを引用します。

映画化が決定したと聞いた時、ベストセラーでもない私の作品が映画化だなんて騙されているんじゃないかと怖くなりました。おまけに主演が間宮祥太朗さんと桜井日奈子さんというステキなお二人だなんて、これを書いてる今もまだ信じられない自分がいます。ですが実際に現場にお邪魔させて頂くと小林監督をはじめとした本当にたくさんの方が「良いものを作る」という目で動かれていて圧倒されました。『殺さない彼と死なない彼女』を愛してもらっていました。紙から飛び出して大きなスクリーンの中で笑ったり泣いたりする彼らに会えるのがとても楽しみです。

公式HP

公式HPなので悪いことは言えないのが前提だとは思いますが、やはり監督が原作に対して愛を持って取り組んでいること、原作者が現場を訪れている=良好な関係が保たれていることがわかります。

そもそも、マンガと映画では情報量に差があるので、原作を1ミリも変えずに映像にするのは不可能です。またこれは難しい問題かもしれませんが、監督にも作家性はあるわけで、どんなテーマにしてそれをどう表現していくか、脚本作りから揉んでいく必要があります。そこで重要になってくるのは、原作への愛と、コミュニケーションのようです。

「恋は光」と「殺さない彼と死なない彼女」は、おそらくそういった周辺がうまく噛み合って、原作の良さを活かしつつ映画単体としても完成された作品になりました。

勿論、映画とテレビドラマでは違う部分もたくさんあります。納得いくまで時間を取りやすい映画と、予定が組まれちゃっているテレビドラマでは脚本を練る時間も違うでしょう。しかし、あんな不幸な出来事を2度と起こさず、誰もが納得して楽しめる作品を作るには、「時間がないからどんどん進めちゃえ」では許されません。

映画が好きなので、監督や脚本の力を信じています。小林啓一監督のこの2作品のように、原作ファンも納得できる映画がたくさん続いてくれることを期待しています。

※また長く書きすぎました。次は短く書きます。

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