見出し画像

本質的なKPIをモニタリングし、計画と予測の「ギャップを埋める」

※本記事は、2018年1月に書かれた↓の記事のリライトになります


こんにちは。ランサーズの曽根(@hsonetty)です。「事業・戦略編」の第4回になります。前回の「事業計画」に続いて、今日は「KPI」について書きます。

事業計画をつくるのはそれ自体とても大変なことですが、事業計画に対して、業績やパフォーマンスの数値をしっかりとモニタリングすることも等しく重要です(もちろん、その数値をつくっていく、そしてそれ以上に顧客に価値を届け続けていくことも重要ですが)。

数値をモニタリングしていくなかでKPIは欠かせない概念かと思います。個人的な経験がベースになっている部分が大きいとは思いますが、数値を日々追っている方にとって、本記事が少しでも参考になるようであれば幸いです。


1. 目標達成のために、計画と予測の「ギャップを埋める」


KPI(Key Performance Index:重要業績指標とか業績評価指標)って多くの人は聞いたことあるし、ほとんどの人は使ったことあるんじゃないかと思います。

KPIの歴史は意外に(?)新しいらしく、1992年のハーバード・ビジネス・レビューの論文「新しい経営指標―バランスト・スコア・カード」が初出とのことですが、KPIはビジネスの世界、とりわけインターネットサービス企業においては、もはや当たり前の概念になりつつあると思います。

個人的な話ですが、ぼくが楽天に在籍していた当時、グローバス展開を加速する中で、買収した会社のPMI(Post Merger Integration=買収後の統合)を進めていた中でのことを紹介したいと思います。

楽天の経営の強みの一つであるKPI管理のノウハウを伝えていく中で、現地のマネージャーから「KPI、KPIって何度も言うけど、なんでKPIって必要なの?毎週数値をアップデートする必要あるの?」と真剣に聞かれたことがあります。

皆さん、この問いに、自信をもって答えられますか? 「KPI?そりゃ、KPI設計してモニタリングするのが当たり前でしょ」と思ったりしませんか?

かく言う自分は、現地のマネージャーに聞かれて、正直、一瞬悩みました。それまでKPIは結構使いこなしているつもりだったし、KPIツリーもたくさん書いてきたし、KPIモニタリングによる成功体験もたくさんありました。

画像1


でも、あらためてふと、「なぜ?」と聞かれると、ストレートに答えられない。実際その場では、いろいろまわりくどい説明はしたものの、相手に腹落ちする答えは伝えられなかった。

楽天の三木谷さんの『成功の法則92ヶ条』を読み返してみたら、第41条には、「組織を動かすために係数化(KPI化)する」という法則が書かれていました。

いわく、「大きな目標を達成するために、中間的な数値目標をつくる。その具体的な数値目標のことを、KPIと呼ぶ」のであり、「KPIとは、組織のひとりひとりのメンバーが、自分たちがどこまで歩いてきたかを確認するための目印のようなもの」だと。

あらためて考えて、当時、僕なりに出した結論は、「KPIを活用する目的は、ギャップを埋めること」という答えでした。つまり、「計画と予測のギャップを埋める」ということ。

1か月終わって前月の数値が出てきて「なんでそうなったの?」と言われても遅い。目標から大きく数値が乖離しているけれど、その理由が何なのかわからない。

こういった状況が生まれないようにするのが、KPIが存在する理由であり、これを目標や計画を達成する=ギャップを埋めるためのモニタリングの仕組みづくりがKPI管理の目的なのだと思います。


2. アクション⇒予測数値変化の流れが基本


では、具体的にどう目標達成に向けてKPIを活用していけばよいのか。

ぼくの中で、KPIが「ギャップを埋める」仕組みとしてうまく活用されるためには、以下の3つの原則があると思っています。

▼受動的ではなく能動的なものである:常に個人の活動にひもづいていて、アクションや仮説検証のサイクルがすぐに見込みに反映される
▼やりっぱなしでなく振り返りがセットである:見込みがどのくらい変化しているのか、それが実際に正しかったのかどうかを振り返る機会が常にある
▼競争意識だけではなく連帯意識を醸成する:見込みの数値が、チームや部、全社レベルに足し上げられ、あらゆるレベルで比較される

まず大前提としてあるのは、KPI管理は、予測や着地見込みとセットであるということ。これがないと、KPIは単なる分析や管理のためのツールになってしまいます。


この前提のもと、KPIをどう具体的に管理していくか?

具体的なアプローチとしては、週次で当月や翌月の着地見込みをアップデートし、目標値との差分(BvF=Budget:予算 vs Forecast:見込)と、先週からの進捗(WoW=Week over Week)を追い続けるというシンプルなものです。

画像2

とても地味にきこえますが、この繰り返しや習慣が、着実に経営の地力につながっていきます。

企業によっては、週次ではなく月次でしかこれをやらない、あるいは、月次の振り返りしかやっていない(着地の見込みという概念を導入していない)、ということもあるかと思います。

一方でたとえば楽天のようにKPI管理を経営のケイパビリティの強みにまで昇華させている企業は、日次でこれを見ています。楽天では、経営のP/L単位は全事業をまたいで週次で、事業やサービスのKPI単位では日次で、というのがモニタリングの基本でした。

言うは易し、行うは難し、の典型かもしれません。

実際にやってみて、体験してみないとわからないことだらけだと思います。ぼくもいろいろと経験してきた中で、いくつかKPI管理で陥りがちな失敗のパターンを挙げておきます。

ありがちな失敗パターン、その1。KPI管理を行っていく中で、会議やモニタリングの仕組みが形骸化していく。

モニタリングしていく中で、数値に差分や変化がないと、あっという間に形骸化していきます。差分や変化をしっかり振り返り、そこに対してアクションを起こし、細かなフィードバックループがまわっていくことが重要です。

ありがちな失敗パターン、その2。複数の事業やサービスを運営する中で、それぞれステージ感や数値のつくり方が違うため、同じモニタリングの仕組みを共通化できない。

たとえば営業ドリブンな事業とプロダクトドリブンな事業、新規事業と既存事業との性質の違い。KPIでガチガチに追いすぎることによって、既存の枠組から外れた新しい取り組みが生まれづらくなるのも事実なので、これはうまく切り分けることが重要です。

ありがちな失敗パターン、その3。KPI管理が高度化・複雑化していく中で、KPI管理そのものが目的化していく。

Google AnalyticsのようなWeb解析ツールやBI(Business Intelligence)ツールがたくさん出てきている中で、ダッシュボードで数値を見るのが楽しくなってしまうことってあると思います。あまり複雑化させると全体が見えなくなっていき、KPIを見ること自体が目的化してしまう。実はここが一番ありがちなんじゃないか、と思っています。


3. 本質的なKPIをモニタリングする


じゃあ、KPIが目的化してしまいがちな中で、どうすればよいか?

結論からいうと、本質的なKPIを追うということです。

そもそも、KPIはKey Performance Indexですから、「重要な」「カギとなる」というのが前提なのですが、つい、モニタリングするKPIが増えてくると、何が重要なのかわからなくなってくる。

楽天でも、モニタリングするKPIが増えすぎて、あえてKPIと区別してSPI(Strategic Performance Index)なんて言葉を使っていた時期もありました。

本質的なKPIを追わないと、どれだけモニタリングを精緻化しても、モニタリングからどれだけアクションを明確化しても、間違った方向に経営を導いていくだけです。

ぼく個人としても、これで何度か失敗したことが何度かあります。失敗したパターンに共通していたのは、売上に直結するわかりやすい指標のみを追ってしまったこと。

たとえば、先行して販売するデバイスをユーザーとのタッチポイントとして、コンテンツで収益があとからついてくるようなビジネス。本質的にはコンテンツからの収益、つまりユーザーあたりのLTVが重要なのだけれども、初期的に、わかりやすくシェアの大きいデバイスの売上に目がいってしまう。

これを間違えると、組織内のリソース投下を間違ったり、戦略的な判断を誤ったりしてしまいます。


少し前の戦略の回でも触れたことですが、戦略の失敗は戦術ではリカバーできません。特にリスクの高い新規事業であればなおさら。追うべき指標の選定が重要になります。

感覚的には、ステージが浅ければ浅いサービスであるほど、P/Lや売上に近い結果指標ではなく、その手前にある先行指標の中で最も重要な指標を追うことが重要です。

たとえば、グロースハックの世界でよく使われるAARRRのモデル(Acquisition=ユーザー獲得、Activation=利用開始、Retention=継続利用、Referral=ユーザー紹介、Revenue=収益の発生)に即していっても、最後のRevenue(収益の発生)の手前には、たくさんモニタリング可能な指標が存在します。

少し飛躍すると、M&Aの世界において、過去にFacebookが売上20億円のWhatsAppを2兆円で買収したり、売上ゼロのInstagramを1,000億円で買収したりしていますが、これもステージやサービスの性質によって追うべき指標を定めるうえで示唆的かと思います。

最初から利益や売上という結果指標だけを追っていたらこのようなサービスは生まれなかっただろうと思いますし、財務諸表の資産には計上されないユーザーのデータやグラフの価値を、彼らは経営上の重要な指標として認識していたはずです。

このあたりはぜひ次週のM&A編で書いていきたいと思いますが、あらためて、KPIを考えるうえでは、ステージ感を見極めながら本質的な指標を追うことが欠かせないと思います。


今回のポイント


というわけで今回のまとめです。

画像3

たかがKPI、されどKPI。たぶん、今まで扱ってきたテーマの中でも、プロマネと同じかそれ以上に、地味で基礎的なものに思えますが、想像以上に奥深い、というのがぼくの印象です。

事業会社で経験してみるまでわからなかったのですが、きわめて客観的なものと考えていた数字には、強い「意思」が宿るし、深い「感情」が乗ってくる。楽天市場の営業部門にいたとき、楽天市場事業におけるKPI管理のツールにはすべて、「ECC君」「大山岬」といったユニークな愛着(と言うか執着)のわく名前がつけられていました。そのツール上で数値が毎日動いて個人やチームの順位が変わるだけで、ちょっと嬉しい、恐怖を覚える、など一喜一憂していたのを強烈に覚えています。

今回も最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。次回は、事業・戦略編の最後ということで、M&A・PMIについて書きます。特にM&Aは、最後のテーマにふさわしい、究極の意思決定を迫る人間ドラマのだと思っています。ぜひ引き続きご笑覧ください!

また、ここまで読んでくださった方で、まだフォローいただいていない方は、良ければぜひフォローしてください!


本連載シリーズのまとめスライドはこちら↓


本連載シリーズの記事一覧はこちら↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?