見出し画像

ゴミシンガーの生まれ(4)

まぶたのみが浮かぶ

バンドマンの隣にいた男性。後にこの人について知り合いに聞いたところ、
「弾き語り界隈のドンだよ」と言われることになるので、ドンさんとします。
僕が少し離れたところへ座ると、バンドマンが話します。
「こいつはそんばりけっちゃです。この前一緒にライブをしました。」紹介をしてくれる人がいるとありがたいです。
遅くなりましたが、このバンドマンはデカゴエズのタイラーといいます。
それからは、雑談を挟みながらライブをみていました。
まだなーんにもわからない僕には演者が上手いのか下手なのかさえわかりません。
終わりかけの頃、ドンさんが話しかけてくれました。
「ライブ、する?」
楽器やってる人って誘いたがりなんですかね。でも、その頃の僕はライブに対して意欲で溢れていました。もっとライブがしたい。もっと曲を作りたい。ドンさんは自身が企画するイベントに僕を呼んでくれました。
弾き語りのイベントです。初心者やベテラン関係なく、楽器と声の2つで表現をする。会場はドンさんと出会ったライブハウス。

来る本番へ向けて、僕は今一度自分の表現について考えました。弾き語り初心者だった僕の課題はたくさんありました。ギターに、ボーカルに、ステージでの見え方。ひとつずつクリアしていくしかありません。本来は練習して上達を目指すべきなのでしょうが、時間がないという焦りが僕を混乱させていました。
僕が行っていた練習は、ライブビデオを見てイメージトレーニングをすることでした。立派な練習ですね。
しかしとある日、ビートルズのライブ映像を観ていた時です。ジョン・レノンが持っているギターが気になりました。
「なんで穴が開いているんだ。」
僕はこのギターに惹かれました。そうだ、このギターで弾き語りをしよう。なにより・・・目立ちそうだし。
映像の中でジョン・レノンが使っていたのは、カジノというエレキギター。名前もイケていますね。僕は通販サイトで廉価版のカジノを購入しました。届く、大きい段ボール。中身はギターです。購入したカジノ。光るボディが美しい。
カジノはピックアップがついていて、アンプにつなげば音が出ます。エレキギターです。
「えぇ!弾き語りなのにエレキ使うの!?」購入したギターとその意図を話すと驚かれました。やっぱり、変でしょうか。そんな不安もありましたが、アコギ弦に慣れるまでにまだまだ時間がかかりそうでしたし、カジノを使うことにしました。なにより・・・目立ちそうだし。

本番の日、カジノを背負って自転車をこぎました。
端から見るとバンドマン、そう思うとドキがムネムネという感じでひたすらに浮かれました。が、ライブハウスの中に入れば緊張でどうしようもなくなりました。薄暗く、知らない人もいっぱいいる。なんだか緊張とは少し違うような気もしますが、如何に上手いように見せるかばかり考えていました。
ステージに上がるほとんどの人は経験者、ベテラン。今度は圧倒的に格が違うように思えました。ギターの弾き方が違う。声の出し方が違う。空気が違う。
そして僕はステージに上がります。ギターから出ているケーブル・・・どこにつなげばいいのかわかりません。スタッフさんに言われるがまま、オドオドしながら準備をします。照明が変わり、すっと静かになる。会場の圧迫感に押され1つ目の音を出します。
僕が歌うのは暗い曲でした。エピソードを曲に変換すると自然と暗い曲になりました。絞り出すような低い声も相まってステージ上だけ、かなり空気が重く見えたと思います。「どうして生きているんだろう、もう〇んでしまいたい」的な。
「えーっと・・・いいことあるよ!」ライブの司会者が言います。そんなに暗かった!?と思いました。まぁ暗いですよね。今思えば。
自分の演奏を終え、席に着きます。
ライブは進み、相変わらず僕とはレベチな人ばかりでした。手際良く準備を進める姿を見て、憧れを強くしていきました。
僕も、どんと構えてライブがしたい。印象に残るライブがしたい。
ほんとは、“暗い曲の人”なんて思われたくない。
別に僕は暗い曲ばかり書くわけじゃない。頭に浮かんだメロディは全部ボイスメモにとってある。明るい曲だっていっぱいある。
でも、表現力がない。とても悔しかった。もっと上手くなりたい。
もっと広い表現ができるようになりたい。もっと色を濃くしたい。

俯いてムンムンと考えていると次の人が始まります。
ヤマイモ抽出物さん。
“そんばりけっちゃ”である僕が人のことは言えませんが、変な名前です。
その人はステージ上で暴れ、転び、立ち上がってまたベシベシとギターを叩いていました。
その姿からなにか頭に入り込んでくるものがありました。
僕はここを目指したい。
アバウドではあるけれども、硬い思いが生まれました。

この場での様々な出会いは後に大きく影響を与えることになります。僕の大きなターニングポイントにもなります。多くの友人と出会い、大きな繋がりも作ることができました。

しかし当時の僕は、まだ何も学習できていませんでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?