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『ねらわれた学園』大林ワールドの原点

『ねらわれた学園』1981年
監督:大林宣彦(『時をかける少女』『HOUSE ハウス』)
製作総指揮:角川春樹(『犬神家の一族』『この子の七つのお祝いに』)
製作:逸見稔、稲葉清治
脚本:葉村彰子
原作:眉村卓
撮影:阪本善尚(『時をかける少女』『HOUSE ハウス』)
音楽:松任谷正隆
編集:PSCエディティングルーム(多分特殊効果含む)
キャスト:薬師丸ひろ子(『セーラー服と機関銃』)、高柳良一(『時をかける少女』)
上映時間:90min

あらすじ
金星からやってきた宇宙人が英光塾とやらを作って生徒を洗脳している。洗脳された生徒たちが学校を乗っ取ろうとしているぞ。三田村由香よ、超能力で学校を救うのだ!

大林ワールド出力全開!
えー、あらすじを観てもらえば分かる通り、お話は訳が分からんものとなっている。
映像も当時にしちゃ珍しい特殊効果をバンバン多用して、目まぐるしいほどのカラフルさ、にぎやかさをそなえた映画となっている。
それもそのはず、大林宣彦監督(特に初期)はまさに表現主義に突出した監督であるのだ。
特殊効果で、人物を切り出し、サイケデリックな背景に合成してぐるぐるとかき混ぜるような編集を好んで使う。
デビュー作の『HOUSE ハウス』からかなりぶっ飛んだ監督ではあるが、この『ねらわれた学園』からいわゆる大林ワールドと呼ばれる特殊効果使い放題の編集が定着した。
最初はなんじゃこりゃとしか思えないかもしれないが、観続けると慣れてくるらしい。(小生が未だに馴染むことができないのは秘密である)

ちなみに個人的に本作はある三つの映画形式のパイオニアだと思っている。
1つ目はもちろん先述の大林ワールドだが、2つ目は未だに興行収入を稼ぎ続ける「アイドル映画」である。
今となっては可愛くて愛嬌のある人気アイドルが主演を張ることで客寄せになるからとどんどんアイドルが映画女優として消費されていくが、なんとびっくり実はそのスタートはこんなサイケデリックな映画に出ていた薬師丸ひろ子だったのである。
20そこらの小生には全く分からないが、当時の彼女の人気は相当のものだったのだろう。
今でいうと、そうだな、橋本環奈さんあたりが大林監督の映画で主演を張れば客は集まるのだろうか?
現代の大衆が果たして大林ワールドを受け入れるのか?
結構気になるところである。
パイオニアとなった3つ目は、「セカイ系」である。
「セカイ系」とは例えば新海監督がやるように、男女の物語がいつの間にか世界の存亡と関わっているという一昔前から流行っている物語形式だが、「世界の存亡」が「学校の存亡」に置き換わっただけで、これは薬師丸ひろ子と高柳良一の超能力と金星を介した「セカイ系」なのである。
映像センスだけでなく、当時から原作の物語(眉村卓もなかなかに変な物語を作ってくれたものだ)にセカイ系の『ねらわれた学園』を選ぶあたり、大林監督はやはり変わり種である。

新作公開
7/31から大林監督の遺作『海辺の映画館 キネマの玉手箱』が公開される。
本当はもっと早くに公開される予定だったのだが、コロナの影響で延期されてしまった。
しかも元々の公開予定日に大林監督が亡くなられるという、なんとも皮肉なめぐりあわせである。
去年の東京国際映画祭で観た人から聞くところによると、近年は平和映画にご尽力されていたが、その文脈を引き継いだまま大林ワールド全開の作品らしい。
大林ワールドの原点である『ねらわれた学園』を観てから劇場に向かっていただけると、より楽しんでいただけるかもしれない。

そんな金がありゃ映画館に映画を観に行って!