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VIPラウンジやS席チケット【2010年代のUnityイベントマネージャー回顧録 vol.5】

今回は技術カンファレンスUnite Tokyoの混雑解消のために試行錯誤していた、特別チケットやラウンジについて書こうと思います。

大規模カンファレンスで毎回頭を悩ませていたのが、人気講演の席が埋まってしまう問題でした。例えば200席の講演部屋が3部屋あったとして、600人のお客さんがいたら均等に200席ずつ座って各部屋が満席になるでしょうか?そんなわけはなくて、必ず偏りが出ます。

200席*3部屋に対して参加者が350・150・100のように偏ると、350人が詰めかけた部屋は客席稼働率が150%以上となり、立ち見であふれかえることになります。場合によっては入場を締め切らざるを得ません。

また、1部屋の参加者数が多い(集中する)ほど待機列が長大になってしまう問題もありました。大きい会場であれば1部屋に500席以上のキャパシティを確保することもできるのですが、当然500人が一瞬で着席できるはずありません。人数が多いほど、開場から着席までの時間が長くかかります。1部屋500人以上となると最低でも講演開始の10分以上前に入れ始めないといけない、そうなると開演15分前には列を形成しはじめないといけない……という具合です。

参加者もそれはわかっていますから、人気が出そうな講演ほど早めに列に並ぶようになり、そうなるとますます人が殺到する……という悪循環です。

S席チケット

そんな背景がある中で、2016~2018年のUniteではS席チケットという仕組みをプランしてみました。これは新幹線の指定席券のようなもので、講演ごとに一定のS席エリアが確保されていて、S席チケットを持っている方は待機列に並ぶことなく、必ずそのエリアに座れるというものでした。

価格は1講演につき500円、当日会場でのみ購入可能でした

さらに「S席ラウンジ」というチケット所持者専用の待合所があって、そこで無料の軽食やコーヒーが提供され、待機列に並ぶことなく休憩しながら待つことができるという仕組みでした。S席チケットはイベント当日、会場でのみ販売するので、熱心な参加者の方に早く会場に来てもらう動機にも繋げていました。

これはそれなりに好評で3年続きました。ただ運営・参加者ともに販売の手間があり、また会場に早く行けない人は買えないといった問題や不満も付きまといました。イベント自体のチケットと違って種類が多いため、オンライン販売の体制も整備しきれずでしたね。

VIPチケット

Unite Tokyo 2019ではS席をやめ、VIPチケット所持者専用のVIP席、VIPラウンジという新しいプランを企画してみました。これは開催の半年以上前に頭を捻って考えた結果、好評な施策になったといえるので詳しく記録しておこうと思います。

VIPラウンジ

まず、イベントのチケット(厳密には首から下げるパス)をなるべくシンプルに4段階に分けました。同年に視察しに行ったGDCを参考に区分しました。

  1. VIP(VIPチケット):38,880円

  2. Regular(通常チケット):29,700円

  3. Student(学生チケット): 9,720円

  4. Expo(展示エリアのみ回れるチケット): 9,720円

VIPチケットは簡単に言うとRegularに加えて
1)講演ごとの専用のVIPレーン(待機列)+VIP席
2)専用のVIPラウンジ
が用意されるというものでした。

1)VIPレーン+VIP席

S席チケットと同様の取り組みですが、VIPチケットであれば全講演に対して有効です。少し考えるとわかりますがこれはちょっと難しい施策です。S席は個別販売だったので「この講演はS席チケットが10枚売れた」という売り上げ結果から確保する席数を特定できました。しかしVIPチケットを100枚確保するとして、各講演で何席のVIP席を用意すればいいかわからないですね。

実際にどうしたかというと……、まず今までの経験とカンでVIP席の事前確保数を目安として決めておきます。そして当日の待機列の状況からレシーバーで運営スタッフと連携してVIP席数を可変させていました。つまり講演開始直前にVIPレーンに20名並んでいたらVIP席を20~30確保しておく、といった具合です。

もしVIP席が余るようで、かつ一般席が埋まっているなら一般席として開放します。VIP席が不足してしまうケースは「VIPレーンは講演開始5分前には並んでね(講演途中から入室するとVIP席は用意されませんよ)」というルールを事前にアナウンスすることで回避しました。

VIP席数を現場の状況で可変させるというのはちょっとしたチャレンジだったのですが、運営チームと綿密な連携がとれたことと、後述のVIPラウンジのお陰で大きな混乱もなく運用できる設計にできました。

2)専用のVIPラウンジ

VIPラウンジはその名の通りVIPの方専用の個室です。VIPチケットを持つ方と、講演者の方(Speakerパスを持つ方)が入室することができ、無料の飲食と休憩・歓談ができるテーブルと座席が用意されています。空港の専用ラウンジに近い雰囲気ですね。

本会場と同じく、時間帯ごとにフードが補充される

講演者の方々からすると、自分の講演が終わった後、または翌日の講演前に落ち着いて休憩できる場所としてVIPラウンジに足を運ぶ方は多かったです。彼らは界隈で名前が知られる方が多く、お互いが知り合いであるケースも多かったので、自然と「知っている人」に出くわして挨拶する機会を増やすことができました。

ホテルならではのフルーツ

VIPチケットを買う熱心な方は当然講演者の顔や名前を知っていて、講演者にまじってちょっとした挨拶や雑談、質問ができる……という場所として、値段分の価値を感じられるような形にできました。

本会場と同じく焼印の入ったミニハンバーガーやミニホットドッグを提供しました
昼食も並ばずに食べられます

さらに付加要素として「その時間帯でもっとも人気の講演を上映するテレビモニタ」+「Yogiboのクッション」を設置しました。これが特に好評で、1のVIP席を多数確保しなくてもいい要因のひとつになりました。

VIPラウンジの講演上映

「その時間帯でもっとも人気の講演を上映するテレビモニタ」は、元々出展ブースエリアのサテライト上映として用意していたものです。

Yogiboでスマホを片手にツイートしながら人気の講演を視聴する方々

ちょっと話はそれますが、パンクしてしまうほどの人気の講演があったとき、一般のお客さん(Regularチケットのお客さん)にもなるべく快適に視聴させたいということで、Unite Tokyo 2019のブースエリアには合計5つのサテライト上映スペースを用意していました。

同じ時間帯で複数の部屋がパンクする可能性は相当低いですから、サテライト上映する講演は同じ時間帯でもっとも人気のある講演1つに絞れます。どの講演が対象となるかは現場の待機列形成の段階で運営チームの報告を受けて決めていました。

このサテライト上映するモニタをVIPラウンジにも用意しました。VIPチケットを持っていれば、人気の講演でもVIP席で聴講できるのですが、あえてVIPラウンジでライブ配信を視聴する方も多かったのです。

「参加者から注目されている講演を静かな環境で、時には仲間内で雑談しながら視聴できる。しかも無料の飲食もついている」というのが付加価値になりました。

テーブル席から視聴する方もちらほら。作業されている講演者の方もいました(控室より作業しやすい?)

このVIPラウンジは会場となったホテルの29Fの小宴会場を使っていて、ブースエリアと講演部屋はB1Fだったのですが、VIPの方からは「B1Fに降りてくると、(静かな天界から騒々しい)下界に降りてきた感じがするw」という意見が出ました。Twitterでも一部で話題になって「次の時間帯の人気講演ガチャがどれになるか楽しみ」「次回はRegularの倍の値段でも絶対VIPを買う」と好評でした。

ちなみにYogiboクッションは、イベントのスポンサーになってくれたYogiboさんが無料で貸与してくれました。開発オフィスの休憩スペース向けに訴求したかったそうで、これも好評だったのでYogiboさんとしても喜んでもらえました。

コロナ禍を経て

残念ながら翌2020年からコロナ禍になったため、ほとんど全てのオフラインイベントは中止になり、その後もオフラインとオンラインのハイブリッド形式、またはオンライン配信のみにシフトするイベントも多くなりました。その流れの中で、Unite Tokyoで実施していたS席チケットやVIPチケットもお流れになって久しいです。

オンラインでも視聴できるイベントなのに、わざわざ会場に足を運んでもらうだけの価値は何があるのか?を問われる世の中になりましたが、あのVIPラウンジで講演者やVIPチケット購入者が雑談していた光景を思い返すと、人と人との交流は1つの解のように感じられるのです。

(記事協力:谷川 敬章)

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