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白黒割り切れない『あなたの愛人の名前は』by島本理生

単行本になったので、衝動買いしました。
結論として、とてもいい物語だった。
短編集なんだけど、各話いろんな人間模様が織りなされていて、個人的にとても読んでて理解できた。
ので各話の感想をしたためてみます。

1.足跡
セックスレスの夫婦関係に、ものすごい不満を感じているわけではないけど、なんとなくこのままでいいかなという千尋。学生時代の澤井に、とある治療院を紹介されるというあらすじ。
不倫をしたいとは思っていないけれど、その女性向けの治療院に通う千尋の心情が解りすぎた。
確かに夫婦って家族っていうけれど、そういうものがなくなると、普通の友人とかと自分にどんな違いがあるのか?と自問自答してしまう事がある。
強くそれを望んでいるわけでもないのに、という女性の心情をとてもよくあらわしてた。
結婚って、綺麗ごとや白か黒かで片付けられない。

2.蛇猫奇譚
猫ちゃんが主人公。その猫ちゃんの飼い主の夫婦の物語です。
ちなみに前の章と繋がっていて、この猫ちゃんの飼い主さんは、前の章に出てきています。
妊娠してナーバスになる飼い主、邪険にされる猫、そして彼女のトラウマとそれを見守る旦那。
とてもいい夫婦になっていくんだろうな、と予感するような、心温まる話でした。母親の呪縛って罪深い、わかるなぁって思った。
ひたすら、旦那さんいい人。こんな旦那欲しい。

3.あなたは知らない
婚約者と同棲し、結婚間近な瞳さん。でもこの結婚に迷って、彼女はバーでナンパされた男性と浮気をしてしまう。ここに出てくるのは、1章でヒロインの友人だった澤井さん。一応物語としては繋がってるんだな、って思った。
つかみどころのないセフレという関係と、若干モラハラな婚約者、恋をしているのかしていないのか自分でもわからないヒロイン。
結局体から始まった関係で、恋愛関係に深くなる事はないなぁっていうのがとてもわかる物語だった。
彼女は恋をしていたのだろうなぁ、とも思うけど、逃げ場が欲しかっただけなきもする。
やはり、人を傷つけて得るものは、決して幸せになれないし満たされないのかもしれない。

4.俺だけが知らない
前章の続き。今度は、浮気相手のセフレである浅野くんが主人公。
何卒なくやってきた浅野くん、ああこういう20代後半の男性っているなぁって印象。
特定の相手をつくらず、ほどほどに遊んで、知らないうちに相手と自然消滅を繰り返す…そんなどこにでもいる若い男性。
ある意味女の敵だけど、彼だっていろんなものを抱えている。
妹だったり、母親だったり、仕事だったりと…昔はこんな男女の敵くらいに思っていたけど、それに至る理由が人間にはあるんだろうなぁとふんわり思った。
ラストがやっぱり、そうなるんだなぁって思った。
人間完全に別れる時は、その手法を使うのってとってもわかる気がした。

5.氷の夜に
居酒屋を経営する30代後半の男性と、その店に客としてきた女性とのもどかしい恋。
一件うまくいくと思いきや、そうだなぁ…確かに店の客に安易に手を出す様な男性はろくなものじゃないから、この人は真面目すぎていろんなチャンスを逃してきたんだろうなぁとも思った。
その居酒屋にくる女性も訳ありがあって、店主が女性に詳しい理由を聞かない、というのもリアリティがあった。
女性が抱えてるトラウマが、ドラマではありがちといえばありがちなのだけど、世の中そういうトラウマを抱えてる女性って実は多い気がする。
でもちょっと、ほっこりと心があったかくなる物語だなって思った。

6.あなたの愛人の名前は
最後は、4章で出てきた浅野さんの妹のお話。引きこもりが、シンガポールのカジノにいく話。
彼女は恋愛ができない、そして引きこもり、そして友達もごく少数しかいない。
シンガポールで奮闘する話もとてもよかったけれど、いろんな事を思い返しながら、彼女も問題を抱えている。
そして日本に戻ってきて、前章の女の子と友人で、その子と居酒屋にいってちょっと未来の希望を感じられるラストだった。

全部を読み切って思ったのは、恋してぇなって感じになりました(既婚だけど)。
でもやっぱり島本理生先生の心理描写は、本当にいいなぁって思う。
ちょっと暗いには暗いけど。
なかなかおすすめだし、ゆっくり読めるので、ぜひおすすめです!


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