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L&UX2021を視聴して興味深かったポイントをメモ

書籍「アフターデジタル」の著者の藤井保文さん(ビービット)が主催するオンラインイベント L&UX 2021を試聴してみました。

以前、noteにも書いたが「アフターデジタル」が面白くて、このイベントにも期待していたが期待を裏切らない面白さ。

L&UX 2021とは「UX×テックの社会実装」を中心テーマに、世界各地のリーダーや有識者の方々が対談する形式で10数個の動画が公開されている。

noteの深津さん、takramの佐々木さん、博報堂の小野さんなど個人的に好きな方が多く参画されていて興味を持ったが、日本の有識者の方々だけでなく、Tencent、Instargamなど海外トップクラスの方々も多く参画されていて、とても豪華な顔ぶれ。

テーマに社会実装とあるように、UXを実装していく上でのプロセスや組織的な内容も豊富。

イベント全体の情報量が多かったので、消化するのに時間がかかりそうではあるが、個人的に気になったポイントをいくつかピックアップしてみる。(自身の解釈も入っているので、対談の意図とズレている部分もあると思う...)

日本企業は「物理的なUX」において画期的な存在だった。

海外の方が語られていたのが印象的だった言葉。他の対談の中でも何度か話に出ていたが、物理的な製品での成功体験を持つ日本企業でUX的な新しい取り組みが受け入れられにくいという課題がある。大企業と仕事をする時のノウハウとして語られていた、過去を否定せずに変化を促すという部分にもつながるが、「ユーザーのことを考えるという点は今までと同じだが、今は物理的なモノだけでは解決できない環境なので変化が必要だ」というニュアンスが程よく表現されている言葉だなと感じた。

ビジョンはやりきってこそ。

はじめにビジョンを定義することは重要ではあるが、実装してやりきる中で初めてビジョンの価値が出てくる。ビジョンを描くことに満足してしまって後はお任せみたいな思想や組織構造だと社会実装は難しい。

1つの企業内で全ての機能やサービスを実装すると、似たサービスが出てくると敵になってしまう。

複数の企業が「横並びで協調する部分」と「競争する部分」をちゃんと定義できれば、その領域全体としても企業としても有益なのではという視点。巨大プラットフォーマーの上でビジネスするだけではなく、複数企業でうまく連携する方法としてもわかりやすかった。

デジタルを使いこなせない人を助けるデジタルアンバサダー的な「人」の存在。

行政などあらゆる人が使用するサービスをデジタル化する際に課題となるこの問題を、人がUIとなって助けることで解決するという視点。全てをデジタルで解決しようとするのではなく、人同士のコミュニケーションという温かさもあって、オンラインとオフラインの融合としていい例だと感じた。

企業の「予算制度」と「外注制度」がもたらす弊害。

この内容は企業に所属する身としては共感度が高かった。予算化のために先に決めた範囲でそのまま作ることが多くなり、作って終わりになりやすい。ロングターンで試しながら作り込んでいくというやり方がこれらの制度によって行いにくくなっている。企業の経理制度から変えていく必要がある。

O2Oモデルの企業では、1つのUX部門だけで全てを扱うのは難しい。

「DiDiではUXを専門にした部門はなく、全社員がUXの意識を持っている」オンラインのみで完結するインターネット企業では、ユーザー体験はオンライン上に集約されるので1つのUX部門で扱いやすいが、オンラインとオフラインが融合する企業では、すべての体験フローを1つの部門で扱いにくいため、全社員にUXを提唱する必要がある。

企業の代表メッセージの主語が「当社」ではなく「私たち」になっているかどうか。

企業のシェアードバリューを見極める際のノウハウとしてあげられていて興味深った。会社を主語にするとありきたりな価値になりがちで、本質的な部分も伝わりにくい。人が主語になっていて具体的なストーリーを伝えることで、インター的にもアウター的にも共感されやすいメッセージになるのではという視点。

コンテンツの「クリエイター」と「オーディエンス」が行き来。

ライブ配信など大衆が大衆に発信する時代において、視聴者のチャットもコンテンツに含まれるなどクリエーターとオーディエンスが曖昧に行き来している。ゲーム配信も、ゲームをプレイすることがコンテンツになっているように、使い手が作り手にもなっている。Takramの佐々木さんも今ゲーム業界に注目していると話されていたが、ゲーム世界でのUXの動向は興味深い。

半沢直樹は時代劇。

対談の中で何度か話題に出てきた半沢直樹。同じ会社に所属し続けることが価値という古い日本企業の体質が背景にあるため、現代の物語として見るとUXを実装しやすい組織には見えない。若い世代は半沢直樹を時代劇として見ているという話もあったが(誇張した演出なので制作の意図としても正しいのかも)、ある意味半沢直樹をどう見るのかはUXの踏み絵なのかもしれない。

大企業の中堅・若手は「決める経験」が少ない。

意思決定する能力は、経営者に求められる重要なスキルだが、現状中堅・若手に決める機会がないため能力が育たない。ベンチャーでは意思決定する機会が頻繁にあるため、大企業とベンチャーの同世代では能力差が大きい。大企業が扱う大規模ビジネスだと若手に決定権を与えられないというジレンマもあるが、小さな決定権でも若手に与えられる組織風土にできれば変わってくるのではと感じる。

UXの統一性や横串は、地位や権力のある人からじゃないと相手にされないことも。

縦割り組織で横串的な取り組みをしても出世しにくいという話もあったが、旧体質の組織でボトムアップにUXを実装していく上での課題は大きい。もちろん様々な取り組みで浸透させていく方法もあるが、トップの変化や社外からのトップダウンによる横串がより効果的な場合も多いのではないか。

(イベント全体の感想)

企業で働く身として気になったポイントが組織的な内容に偏ってる気もするが、イベント自体はUXやデジタルにまつわる大きな概念から具体的な事例まで広く扱っているように感じた。

以前は、実際に生で見る講演も好きでちょくちょく足を運んでいたが、オンラインの対談動画を見る機会が増えてこういうイベントへの関わり方も変わったなと感じる。

リアルな場では集中する密度が高いが、オンラインだと集中の密度は下がるが時間を戻したり倍速にしたり自由なタイミングで視聴できる。

今回のイベントでは、アーカイブされないlive配信が数回あって、その時は集中度が高くリアルな講演に近い感覚で見れた気がする。

こういうイベントもオンラインとオフラインが融合したものにどんどん変化していくんだろうなと感じつつ、刺激と学びの多い良い機会だった。

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