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Fly Way  (フライウェイ)

上昇気流に乗って、独り、大空に悠々と飛翔する、猛禽類。

もともとヘタレで、女々しい私には、憧れの存在である。

空を飛べたら、とは、鳥を見れば誰でも考えることだろうけど、本当に空を飛べることになったら、一体、どこへ行くのだろう?

ハチクマという猛禽類を皆さんはご存知だろうか?

森の王者、クマタカの種でスズメバチを好んで食べるから、合わせて、ハチクマと呼ぶらしいが、この時点で、キイロスズメバチに刺されて高熱を出した経験のある私からすれば、尊敬に値する。

それだけではなく、ハチクマは渡りをする猛禽類として、有名なのである。

渡りをする鳥たちについては、まだ解明されていない部分も多いが、ハチクマについて報告のある、一例を上げてみる。

春夏を日本で過ごしたハチクマは、秋には松本市の白樺峠に集結し、越冬地へ向かうという。その時の光景は、鷹柱と呼ばれる程、上昇気流に乗ったハチクマで溢れ返って、圧巻なのだという。

白樺峠を出発したハチクマは近畿、中国地方をすぎ、九州を通り、最終的に長崎の五島列島辺りに渡り、それから一旦、揚子江付近に飛び、今度は南下して、東南アジア諸国、マレー半島、インドシナ半島に向い、越冬地に辿り着く。その距離およそ一万キロ。

試しにその渡りを、句点なしに文章にしてみたが、見た通り、なかなかのものである。

春になれば、逆に日本に向う。
そのルートは秋とは少し違っているらしい。

北緯38度線。言わずとしれた分断された朝鮮半島の非武装地帯。皮肉にも、今はそこが渡り鳥たちの中継点になっているらしい。

ハチクマも、大事な繁殖期間を前にして、そこで英気を養っているかもしれない。その証拠に、一旦は朝鮮半島に渡るが、その後、南下して、対馬、九州を通って、瀬戸内海を過ぎ、長野、白樺峠にまた律儀に戻ってきてくれるのだという。

Fly Way

フライウェィ、とは渡り鳥たちの、通り道らしいが、ハチクマの寿命がおよそ20年として、彼らは何の迷いも怯みもなく、その間、淡々と渡りを繰り返すのである。

中には渡りの途中で命を落とすものもあるだろう。コースを外れて迷鳥となるものもあるだろう。
しかし、そのケレン味のない行動は、少なくとも人生をのうのうと暮らしている私に強いインパクトを与えてくれる。

私は今、県から委託された鳥獣保護員をやっている。
その仕事の一環で、年に一度ガンカモ生態調査を依頼される。
昨年の顛末は、ここでの私の投稿、「鳥たちの河口」で、以前書いている。

その時期がまた今年もやってきたのだ。




私は、昨年の反省も含めて、そして、無事にまた帰ってきてくれた鳥たちに感謝して、今年は絶対に見紛うことのないように、鳥類図鑑を何度も見直して、その日を迎えた。
しかも当日は開始予定時間の一時間前には現地に到着して・・・。

は?

意気揚々と調査に出かけた私の前に拡がっているのは、全面凍結した、池。

が〜ん!!!

鳥たちがいない!
明るい冬の光の中で、セキレイらしき小鳥が、無邪気に氷上で跳ねている。

し〜ん!

きっと渡り鳥たちは、近くの川にでも移動しているのだろう。

ちゃんちゃん!

結局、そんなオチで終わるお話しだが、肩透かしをくらった、私の鳥たちへの思慕はさらに深まるばかりだ。


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