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視聴覚教室の謎

 私は10年以上「情報メディアの活用」(司書教諭科目)という自分の大学の授業を担当しているが、広島大学でも非常勤講師として同じ授業を担当している。
 この司書教諭科目は20世紀の頃は「情報機器の活用」という科目名だったはずだが、そういえば1989年(平成元年)に本学で最初に担当したのは教職科目の「視聴覚機器の活用」であった。
 2024年、この授業を受講する学生はZ世代。そのZ世代の学生に授業を行う私は1958年生まれ。冒頭スライド用に年表を作ってみたが、私は1960年代以降生まれのX世代にも入れてもらえず、かろうじて日本固有の世代呼称「団塊の世代」の次の「新人類世代」に入れてもらうことができた。

授業用スライド1

 新人類とはいえ、私が生まれた1958年(昭和33年)は、東京タワーが完成した年で、高度経済成長真っ盛りの頃。当時、カラー写真はフィルムや現像代が高価だったのだろう、私が小さい頃の写真はほとんどがモノクロ写真である。

 授業ではメディア史の冒頭に、1962年頃の壱岐の貴重な動画を紹介することにしている。実はこの動画、父が8mmカメラで撮影した3歳か4歳ころの私である。
 45年前、いよいよ自宅の8ミリフィルムと上映機が限界に達したタイミングで大学からビデオカメラとビデオデッキを借りてきて、かろうじてビデオテープに最後の上映を録画し、20年前にDVD化、10年前にファイル化して、かろうじて今日まで生き残ったまそに貴重な動画である。なぜこの動画を使用したのかだが、この動画や何枚かの白黒写真と「となりのトトロ」を比較して、私はメイちゃんとほぼ同い年であるということを言いたかっただけである。
 その後、長崎市に引っ越し、1965年(昭和45年)に稲佐小学校に入学した私は、メディア史的には「視聴覚教育」の時代の授業を受けたことになる。

1968年(小学校3年生)のクラス写真

 この写真は小学校3年生の時のクラス写真である。教室の後ろにみんなで集まっているが、実は自分がどこにいるのかよくわからない。当時は二人掛けの机が一般的で確か小学校の3年生まで給食にはユニセフ(アメリカ)供与のスキムミルクがついてきた。それはともかく、教室の黒板と教卓がある前側には、右上の□の大きさ(18インチ?)のモノクロテレビが設置されていて、理科の授業等、視聴覚教育というか放送教育が行われていた。
 当時は「視聴覚教育」=「放送教育」の時代で、録画装置がないためNHK教育テレビの番組表にあわせて時間割が組んであり、放送時間にあわせて授業が行われていた。「理科教室 小学校3年生」や「みんななかよし(道徳)」の授業の番組をよく見た記憶がある。その頃、口笛をふくとなぜか怒られれるのだが、「口笛ふいて、空き地へ行った、知らない子がやってきて、遊ばないかと笑って言った」とテレビの子はらぜ怒られないのか不思議に思っていた。いずれにしても、教室にテレビがあって、放送時間に合わせて時間割が組まれ、テレビを見ながら授業を受けるのが当時の最先端の授業であったのだろう。1980年代に入り家庭用VTRが普及し始めて時間割はついに放送時間の縛りから開放されることになるが、放送局が制作した映像(動画)を授業で視聴する視聴覚教育の時代が長く続くこととなった。

 私が大学生だった1970年代後半、むき出しのボードコンピュータではなく、コンピュータ本体にキーボード、ディスプレイがついたマイコン(マイクロコンピュータ)が登場し、当時大学3年生だった私は AKAIのオープンリールデッキを売り、中古の PET 2001を購入した。PET 2001の左側にはカセットデッキがついているのだが、これは音楽を再生するためではなく、プログラムを保存・読み込むためのものである。4年生になって、教育実習で活躍したPET2001を売り、因子分析などの統計プログラムをいれるために NEC PC8001に買い替えたが、当時高価でとても手が出なかったフロッピーディスクドライブとカラーディスプレイを大学に買ってもらって卒論では多くの皆さんの統計処理に大活躍した。

K102教室(2023年 集中講義「情報メディアの活用」)

 話しを21世紀の現代に戻す。集中講義「情報メディアの活用」は対面授業として続けてきたが、実はコロナ禍前の2018年に1日だけ臨時でオンライン(同時配信)授業を行ったことがあったが、コロナ禍の2020年から2022年は完全オンラインで集中講義を実施した。2023年からは一日間のみ対面で実施し、夏休みど真ん中の残り2日間はオンラインで実施している。
 2023年は3年ぶりの対面授業。教室はいつものK102教室。この時、教室の内装は建物ができた1990年代のままだったが、天井にシーリングファンがついていて、プロジェクターが最新のレーザープロジェクターに付け替えられて個人的にはお気に入りの教室である。

K102教室(2024年 集中講義「情報メディアの活用」)

 2024年、一年ぶりの対面授業でおなじみのK102教室にきてみると、教室の内装がリニューアルされていた。隣のトイレもそれまでは和式トイレに絶望していたのだが、なんと洗浄便座付きに交換されていた。
 一日目の対面授業はほぼ一日メディア史の授業。「視聴覚機器の活用」の時代からコンピュータを使った「情報機器の活用」の時代、インターネットがからんでくる「情報通信(ICT)機器の活用」の時代へと話しが進む。
 視聴覚教育の話しをする中で、既に「視聴覚教育」という言葉そのものが死語の世界に入っているという話しをした。昼休み前に学生が声をかけてきた。「長い間、視聴覚教室って何だ? なぜパソコンやどう使うのかわからない機材(話しを聞く限りおそらくOHP)が置いてあるのか不思議だったのですが、今日の話しを聞いてその謎が解けました・・・」
 実はこのK102教室にも「視聴覚教室」の看板がついている。看板の片方がはずれて落ちかけていたので、こっそりもとにもどしておいた。

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