白銀の花、静かに降り積もる二度目の恋(前篇)

 二度目の、というのは比喩表現で、必ずしも二人目という意味ではなく、それほど深く愛した人は二度目、という感じのニュアンスです。オリキャラの高村と武川さんの関係性は、シリーズを読んでいないと分からないのでぜひ。


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 12月も半ばを過ぎたある冬の夜、寒さに凍えながら春田は家路へと急いでいた。

 「ふぅぅーーーさみぃぃーーー」

 白い息を吐きながらポストの冷たいステンレスの扉を開けると、中から郵便物の束を取り出し歩き出した。年末の忙しい時期なのもあり、帰りはいつも夜遅くになっていた。本社勤務の牧とはすれ違いの生活が続いている。

 春田は誰もいない自宅のリビングのソファーにビジネスコートと鞄を放り出すと、持っていた郵便物を確認し始めた。

 「DMと、凌太宛と、ん?なんだこれ?」

 それは深い紺色の紙に、銀の箔押しの雪の結晶がクリスマスツリーに降り注いでいる美しいカードで、差出人は〝狸穴 迅〟となっていた。

 「狸穴さん?」

 春田 創一 様 いかがお過ごしですか?来る日、わんだほうにて親睦を兼ねたクリスマスパーティーを催しますので、ぜひ来て下さい。

 そう短く書かれたメッセージと、パーティーの日時が添えられていた。

 「俺にだけ?凌太は別に何も言ってなかったけど…」

 年末で互いに忙しく、牧の帰りが遅くなることがしばしばあった。春田自身も付き合いで遅くなることがあり、一緒に暮らしていてもなかなか顔を合わせることが難しくなっていた。

 「創一は先に寝てていいですから」

 と言われれば素直に従うしかない。忙しい朝に顔を合わせればいつもの牧で、特に変わった様子はなかった。

 「………」

 ひとりの食事も、ひとりのテレビも、ひとりの就寝も、ひとり暮らしで慣れていたが、テレビから流れるやたら賑やかな音と、キラリと鈍い光を放つ小洒落たカードが、どことなく春田を落ち着かなくさせた。


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 「なあ、凌太ぁ。わんだほうでパーティーがあるって、狸穴さんからカード届いたんだけど」

 やっと一緒に過ごせる時間が取れたので春田は気になっていたことを口にした。

 「ああ、届きました?一緒に行きましょう」

 「へ?凌太、知ってんの?」

 「ええ、まぁ。実は、鉄平さんやちずさん達と一緒に準備してたんですよ。舞香さんや武川さんも」

 「えぇぇーーーなんで俺には教えてくれなかったんだよぉぉーー」

 「アハハ、驚かそうと思って」

 「何それ。また、凌太のサプライズ好き?」

 「話すと少し長くなるんですけどね」

 牧がことの顛末を話し始めた。東京ラピュータリゾート計画は根本から見直され、立ち退きの話は白紙に戻された。狸穴と春田の説得もあり五郎は店を再開し、黒澤部長はゆで五郎の常連となった。それで親睦を深めるためわんだほうで忘年会を兼ねたクリスマスパーティーをしようという話になったのである。そこで幹事を買って出たのか狸穴だった。

 「なんだよぉー俺も一緒に手伝いたかったぁ」

 「創一はお客さんとして来て欲しかったんですよ」

 「お客?」

 「みんなで余興をすることになってるんです」

 「余興?」

 「そうです。その練習とか準備とかで遅くなることがあって」

 「なんだぁ〜それでかぁ〜。いっつもさあ〜わんだほうでメシ食ってたら、鉄平兄に『おい、春田、早く帰れ、シッシッ』って邪魔もの扱いされてたんだよー。なーんかおかしいなぁと思ってたわぁー」

 そう春田は大袈裟に言ってのけたが、その実、いつものことだろうとさほど気には留めていなかった。それはとりあえず黙っておく。

 「で、何やんの?」

 「寸劇です」

 「寸劇?!」

 「はは…それが五郎さんと部長が昔の映画の話で盛り上がったらしくて、そこに鉄平さんが乗っかったそうです。で、鉄平さんが台本を書いて、舞香さんが音楽担当、ちずさんは衣装とか小道具とか用意してくれて。寸劇のメンバーは、五郎さん、狸穴さん、黒澤部長、武川さん、高村さんと俺で、招待するのが、マロ、宮島さん、相原さん、長濱さん、蝶子さん、山田さん、それと創一」

 「ね?なんでそのメンバーなの?」

 「寸劇は仁侠モノなんですよ」

 「仁侠?!鉄平兄が好きそー!」

 「狸穴さんが声をかけたら意外に武川さんもノリノリで。それで高村さんにも声をかけたそうです」

 「凌太は?」

 「俺はちずさんから頼まれて。創一の送別会の時にお世話になってるし、俺で良ければいいですよって」

 「ふぅぅぅーん」

 春田が不満そうに口を尖らせると、牧がいたずらな上目遣いで言った。

 「ふ…なんですか?妬いてるんですか?」

 「ちげーよ」

 「寂しかったんだ?」

 「ちげーし」

 「ふーん」

 「凌太!このー!」

 いつものジャレ合いが始まると、ふたりの甘い時間が夜に溶けて行った。


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 後篇へ続く




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