追憶の箱庭

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 追憶の箱庭

 時はゆるやかに流れ、厳しい冬を越え雪解けの春を迎えました。春田と牧の恋の物語はそんな桜の木の下から始まり、うららかな春の陽射しのようなラストを迎えました。

 連ドラのプロポーズシーンの澄み渡る天空の青は、劇場版のラストの天空の青へと繋がっています。連ドラが花(ラブ)の部分を描いたのに対し、劇場版はその枝や幹を支える根の部分を描きました。澄み渡る天空の青の下に舞う桜。それが自分の考える春田と牧のイメージです。

 自分が良く好んで使う言葉に『追憶の箱庭』というものがあります。追憶の中の箱庭は幸福で満たされていて、私はずっとそこに縛られているのです。それは自身の中で積み上げられた幸せの心象風景で、その風景の中に春田と牧も存在します。

 劇場版のワンシーン。夏祭りの引きの画から牧がひとり佇み、愛しい人を待つ彼の儚ない美しさが、後のカラフルな風ぐるまや水ヨーヨーと相まってなんとも言えない気待ちになります。心躍る屋台、賑やかな祭り囃子の音、夜空を彩る打ち上げ花火。子どもの頃の楽しい記憶、大切な人とのデート、大人になってからの家族サービス。多くの人の憧憬や追憶の中の夏祭りは、幸せの象徴として在るように思います。

 ずっと楽しみにしていた春田とのデート。こそばゆいような恥じらいと素直に嬉しい気持ち。それでもどこか未だ信じられない過去の恋の影が落とす寂しさや切なさがないまぜになっていて、積極的な春田の想いにも戸惑いがあるように見えます。この瞬間もいつかまた遠い想い出になるのではないかと、牧の恋に対する臆病な気持ちが見え隠れするのです。
 
 好きになっちゃいけない人なんていないけれど、本当に好きになって良かったのだろうかと、牧の心は夏の夜風に揺れます。♪好きになっちゃいけない人なんていないんじゃないかしら は、連ドラから劇場版へと時空を繋げていて、夜空を彩る花火がことさら感傷的にさせます。この感傷はひたひたと低温火傷のような傷みを伴い、炎の告白のシーンで爆発します。

 押し迫る炎の中、牧が春田と向き合わなかった理由を素直に認めている間、春田は牧の顔をじっと見つめています。その言葉のひとつひとつを取り零さぬよう、全てを受け止めようとしています。

 そして牧の告白を聞き終えた瞬間、くしゃっと顔を歪めて泣きそうになります。そこでやっと自身の感情へと意識が向かうのです。そして春田は告白します。たとえ記憶を喪くしても、また必ず牧を見つけると。それは彼を生涯の伴侶とすると誓った、神との約束です。

 桜のトンネルを抜けた先には愛する人の笑顔が在って、二人の絆は固く結ばれたところで終わります。私にはそれは春の輝きに満ちた、二人の花道を飾るリスタートのように思えました。

 自分から動くことに消極的だった牧が、自ら勝ち取り自分で選んだ夢の道へと歩み出そうとしている時、春田はそっとその背中を押します。自分がキャッチした彼の想いを、何倍にもキラキラとひかり輝く夢に変えて
 
 春田は牧という生涯の伴侶を迎え、劇場版で二人は共に歩んで往く道を選びました。♪春 が流れる中、確かな足取りで歩む彼らは、互いの存在を背中で感じながらも決して振り返りません。暗闇の中ひとりうずくまって泣いていた小さな春田は、もう迷うことはないのだな、と思いました。もしこの先の未来があるのだとしたら、風光る満開の桜の季節で始まるのではないかと思うのです。

 追憶の中の小さな箱庭で春田と牧が家族になるおとぎばなし。残念ながらそれは叶わぬ夢に終わりました。それでも私たちは春が運(めぐ)るたび、何度も彼らに恋をするのです。


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 追憶の箱庭 説明書

 追憶の箱庭君と見たあの夏の風景との連作で、天空不動産おっさんずラブ、劇場版おっさんずラブの集大成として制作しました。SSあるいはテキストと合わせた作品形態はこれが最後となります。

 私は目に見えるもの、形あるものが重要なのではなく、心に抱くものが大切なのだと常々思っています。それは精神世界でもあります。手元にある、ないに関わらず、想いは時空を超えて同じだと考えております。ただし、不特定多数の人に受け入れられるなど微塵も思っていません。これは〝あなた〟に贈るものです。届く人にだけ、届けば良いというものです。

 「いいな」と少しでも思って頂ければそれで十分です。自身の手から離れた瞬間から、それはもう自分のものではなく、誰かの中で息づくものなので。

 各パーツ説明

 クリアケース…現物をお渡している方には、クリアケースを差し上げています。現在(現実)と追憶を隔離する箱庭をイメージしています。子どもの頃に胸を躍らせて読んだ絵本の世界、おもちゃ箱をひっくり返したような世界、まさにそれが〝おっさんずラブという箱庭〟であったと思うのです。

画像4クリアケース内ディスプレイイメージ

バックチャームタイプとクマタイプ

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 クマのぬいぐるみ…クマタイプのみ。クマのぬいぐるみはディスプレイ台としての役割を担うとともに、あたたかさ、安心感、憧憬、追憶の象徴でもあります。色は天空をイメージ。あなたの傷み、苦しみ、怒り、想いの全てを受け止めてくれると思います。

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 ウエディングベアには『生む』『結ぶ』『支える』『耐える』という意味も含まれており、人生を分かち合う二人が幸せになりますようにという意味があるそうです。ベアの足裏に記念の刺繍を入れてあるものがありますよね。それに倣ってクマの足裏にはシンデレラシューズと牧トートを貼り付けました。

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 バックチャームタイプにはキーホルダーをオマケとしてつけました。セリアで買った部品と好きなビーズを合わせて春らしく。レジンはぷっくりさせて、より幸せな感じを出しました。

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 ブルーのバックチャーム…バックチャームタイプのみ。青色は天空をイメージしたものです。

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 ミントグリーンとレモンイエローのビーズ…幸せのHanakoカラーと牧のネクタイの色です。自分が良く好んで使う色なのですが、最初で最後となった春田と牧だけのショット、伝説のHanakoの表紙のイメージ色です。この牧の顔が大好きなもので。

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 ストーン付きイニシャルチャーム…クマタイプのみ。ガラスのストーンは指輪をイメージしています。同デザインでシルバータイプもあります。

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 桜のチャーム…バックチャームタイプのみ。ガラスのストーンは指輪をイメージしています。

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 ガラスドーム…ガラスドームの中には小さな桜の花びらが散りばめられており、春田と牧のイニシャルが封じてあります。そこはもう一つの二人の世界。天空不動産時代の二人をイメージしています。

 ガラスドーム内の16枚の桜の花びら…部長、武川さん、マロ、マイマイ、鉄平兄、ちず、蝶子さん、アッキー、相原さん、長濱さん、カズ、檸檬ちゃん、春田ママ、牧パパ、牧ママ、空ちゃんを表しています。それと1枚だけハートが入っています。

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 零れ落ちるスワロフスキークリスタルのピンクのハート…天空不動産時代に生まれた小さなハートが、劇場版で大きく輝くハート(愛)へと育ったイメージ。

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 セルリアンブルーのリボン…セルリアンとは天国の意。すなわち天空の青です。天空不動産の象徴として、自分が良く好んで使う色です。

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 エスコートカード…結婚式の披露宴などでゲストを案内するペーパーアイテムのことです。カードには春田と牧へのメッセージと、ゲスト様のお名前を刻印してあります。

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 イラストは春田が牧にプロポーズしたあの場所です。そこにウエディングリースをあしらい、桜吹雪のシャワーで二人のひかり輝く花道を祝福しました。

 フォントは『おっさんずラブ』のロゴと同じ、フリーフォントのほのか明朝です。『君とあの夏に見た風景』と『追憶の箱庭』のロゴも同じ、ほのか明朝を使っています。

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 空モチーフ…春田がプロポーズした青い空も、夏祭りで二人が見上げた夜空も、劇場版のラストの青い空も、春田が日本で見上げる空も、牧がシンガポールで見上げる空も、全ては時空を超えて繋がっている、春田と牧は物理的に離れていても、心はずっと繋がっているという解釈で良く使います。

 ここで舞う桜の花びらは、部長、武川さん、マロ、マイマイ、ちず、鉄平兄、そして春田と牧の8人を表現しています。左の寄り添う二枚の花びらが春田と牧です。

 丸くくり抜かれた桜のシルエットから溢れ落ちる二枚の花びらは、春田と牧の旅立ちと、楽園を追われた民を表現しています。

 ※風水、パワーストーン、心理学、宗教的な意味合いは全くありません笑。見て愉しむもの、思い出に浸るもの、ちょっとしたお守りのようなものです。ですので当方はナカノヒトの男性的イメージを重視しておりません。


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 最後に

 私たちは生きている上で辛いこと、悲しいこと、自分の思い通りにならないことはたくさんあります。そんな中で春田と牧の存在は私たちにあたたかな癒しと、誰かを応援したいという小さな愛の種をくれました。

 それが公式によってある日突然、打ち捨てられました。私たちは深く傷つき、怒りに震え、たくさんの涙を流しました。たとえそれが空想の産物でも、子どものおもちゃのようなイミテーションでも、私たちにとってはかけがえのない大切な宝物でした。公式によって引き裂かれた者たちは、楽園を去るしかなかったのです。

 何も知らずにいたあの日を思い描いた時、やっぱり自分は田中さんの春田と、林さんの牧と出会えて良かったと心からそう思います。何度も何度もその輪郭をなぞっています。牧が笑った顔や、春田が泣いた顔や、あの青い空や…。

 ならば追憶の箱の中だけでも幸せで満たされていて欲しい、あの頃に感じたキラキラとした時間、やわらかな気持ちを思い出して欲しい、そう願うのです。

 あの時、自分が見た物が、自分の中で感じたものが、自分が信じた世界が、自分が愛したおっさんずラブが、自分が愛した春田と牧が、〝真実〟だと思っています。たとえ世界を変えることはできなくても、思い出に変えることはできます。たとえ未来は見えなくても、想いを托すことはできます。

 小さな愛の種がたくさんの芽を出して、それが大きく育ち、たくさんの花を咲かせました。その花は大きな実りとなり、また、たくさんの命を生みました。その種がまた、新たな芽を出して、そしてそれがまた、たくさんの花を咲かせてゆく。その命を繋いで往くことは人の営みにも似ています。

 たとえ天空不動産のおっさんずラブが終わりを遂げようとも、そうやって命を繋いで生きて往くことくらいは赦されていいと思うのです。それで誰かの明日が約束されて、誰かの命の輝きになるのなら、これほど喜ばしいことはありません。

 そしていつか、どこかの民がふわりと帰って来ることがあったら『おかえり』とやさしく迎えてあげて下さい。


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Wishing you a lifetime of happiness and love.

一生の幸せと愛が続きますように



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