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「私の最後の『少年の日の思い出』は『車輪の上』で迎えることになりそうだ」

「スズキ、久しぶりの地球の景色はどうだ?」

パンプルキが尋ね、スズキは答える。

「うん、やっぱり地球からみる太陽は格別だね、やっぱり大気があるとオレンジの輝きが違うよ」

「そりゃあ良かった、それにこのホバーカプセルも久しぶりなんだろ?」

パンプルキがホバーカプセルの透明な楕円の中でぐぐっと伸びをしながら尋ねる。カプセルの中はゼリー状の液体で満たされておりどんな姿勢を取っても体に負荷はかからないのだ。

「ああ実に快適な乗り物だよ、宇宙一と言っても過言ではないね。ところでパンプルキ、歴史の研究の進み具合はどうだい?」

「ん?ああ、そうだな一つ興味深い話があるからしてやるよ。今から300年前の乗り物の話さ。21世紀ごろは自動車ってのが世界的にシェアされていた乗り物なんだがな」

「あぁ、ハイスクールで名前だけ習ったぞ。なんでも人が自分でガチャガチャ動かさないといけない不便な機械だったらしいね」

「細かいところは置いといて大体はあっているな。それでその自動車なんだが、お前がいう通り人が動かしてたわけなんでまあ、21世紀はその自動車が原因で年に120万近く死亡者が出ていた年もあったんだよ。」

「120万人だって!む、いやわかったぞ。おおかたその自動車を使って戦争でも始めたんだろう。昔の人類は野蛮な連中ばかりだったからな。」


「いーや、それが聞いて驚くなよ、こいつらはただの移動や運搬のために自動車を使っていたんだよ。」

「そんな馬鹿な。たかだか移動や運搬のために120万人も?そんな機械が規制されないのはおかしいだろう。」

スズキは思わず驚いて声を荒げた。

「それが嘘のような本当の話でな。21世紀は人の命よりも自動車の利便性が勝っていた時代なんだよ。」

パンプルキはため息をつきながら外の景色をに目を向けた。スズキたちの間には沈黙が流れ景色だけが過ぎていった。

しばらくしてホバーカプセルは目的地に到着し、静かに滑らかにその場に止まった。

「ほらスズキ、到着したぜ。『地球の海』だ。今晩中には火星に戻るんだろう?目に焼き付けておけよ」

「ありがとう、やはり故郷の海は格別だ。これを観ると心が穏やかになる。なぜ21世紀の連中はあんなに忙しく生きていたのか理解できないね」

「まったくだよ、まあだからこそ研究のしがいもあるってもんだがな」

『地球の海』を堪能した2人はホバーカプセルの中へ戻った。

「帰りは南極のステーションからだったな。次元ジャンプで一気に送るぞ。」

「ありがとう、それで頼むよ、オートパイロットで景色も楽しめれば次元ジャンプで一瞬に目的地にも行ける。21世紀の連中、こいつをみたら腰を抜かすだろうな。」

「タイムマシンの開発はまだ先になりそうだがなっと…ほらついたぜ。気をつけて帰れよ。」

「ありがとう、今度は火星にも遊びきてくれ。それじゃ。」

スズキはパンプルキと別れると南極ステーションからマイシャトルに乗り、大気を振り切り太陽系道19号線へ周回軌道を合わせた。

「せっかくだし月へも寄って行こう。こんな時でもないと月なんて行かないからな。」

スズキはオートパイロットを解除すると周回軌道を月に向かって合わせた。

「そうだ、この辺りならアースラジオも聴けるはずだ久しぶりに地球の音楽も聴いてやろうじゃないか」

スズキはラジオをつけるためイヤリング・フォンを耳に付け、電源を入れた。

その時だった。

オートパイロットを解除し軌道を変更していたスズキのシャトルに月の周回人口衛星が激突した。

一瞬の出来事にスズキと彼のシャトルはバラバラに吹き飛び月の周回軌道に飛び散った。

爆風で飛ばされたイヤリング・フォンからラジオが流れる。

「ガガ…太陽系交通情報です。今月の太陽系内でのシャトルの…ガガ…死亡事故人数は……万人…」

しかし、真空の中その振動を伝えるモノも受け取るモノももういない。

ただ、闇だけが続いていた。










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