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【徹底考察】女性アーティスト達が変革する“レゲエのルール”とは?

レゲエやヒップホップはよく“ルールのある音楽”だと言われる。誰が決めた訳でもないが「あれはダメ」「これはダメ」と言った暗黙の了解があり、それにもとづいてリリックも構成され、アーティスト自身もその規範に沿ってシーンの中で立ち振る舞う。

それは一見窮屈にも思えるが、だからこそゲーム性があり世界中に広まった。ちょうど、サッカーが足と頭しか使ってはいけないから世界的スポーツになったように。
その「音楽ゲームとしての魅力」がもっとも具象化された例が、ヒップホップで言うMCバトルであり、レゲエのサウンドクラッシュだろう。

しかしルールは必ずしも“一定”な訳ではなく、時代時代ごとに“改定”も行われる。そして、「レゲエのシーン」の中では今まさに大きな変化が訪れている。しかもその担い手はみなこのカルチャーの中では「マイノリティ」と言われて続けてきた女性のアーティストばかり。これはいったい何を意味しているのだろう? そして今、いったいシーンの内部で何が起こっているのか??
一人ずつ順に紹介しながら探っていこう。

Lila Ike

まず最初に紹介するのは2023年、待望の初来日を果たすLila Ikeである。
2017年に先輩アーティストでもあるProtojeが発足させた『In.Digg.Nation』レーベルとサイン。19年、同レーベルよりリリースされたROCK&GROOVE Riddimのスマッシュヒットにより、世界のレゲエファンから認知されるようになる。下記に貼り付けたのは英BBCが制作した『ROCK&GROOVE Riddim』のスペシャル・セッションの動画で、リラ・アイケはSevana、Naomi Cowanら、同リディムに乗った同世代の女性アーティストたちと共に出演。動画は2020年の『国際女性デー』当日にYouTubeにUPされた。

また、2020年は前述の『In.Digg.Nation』レーベルが大手RCAレコードと提携。直後にリラはデビューEPとなる『The ExPerience』をリリースし、実質上のメジャーデビューを果たす。同アルバムは『I Spy』『Second Chance』『Where I’m Coming From』など、彼女の代表曲が収録されていることでも知られている。



この時点でヨーロッパツアーなども敢行し、欧州最大のレゲエフェス『Rototom Sunsplash』にも出演。また、レーベルメイトであるセヴァナと共にPUMAのキャンペーン・モデルを務めるなど……名実ともに「レゲエ新世代代表」の名を欲しいままにしていたリラ。だが、2021年、世界のレゲエシーンを震撼させる、ある“事件”が起こる。

何と
「私の名前はリラ・アイケ。女性が好きで、そしてレゲエミュージックを作り続けている」
「女性を愛する女性が歌っても、レゲエミュージックは決して死なない」

と、いきなりSNS上でカミングアウトしたのだ!(※この時本人が述べたところによると彼女は過去にレイプ体験があり、また、レズビアンであることをばらすと脅迫を受けていたそうである)

ある程度レゲエやヒップホップを聴いてきた方ならご存知かと思うが、伝統的にこれらのカルチャーにおいて「同性愛」は大きなタブーのひとつ。過去にもDiana Kingがカミングアウトした事例などはあるものの、彼女の場合はもうかなりのベテランで、性的マイノリティであることも長年ファンの間では半ば“公然の事実”として共有されており、リラ・アイケのようなバリバリに“現役感”の漂うアーティストがカミングアウトに踏み切ったのは全くもって異例のことであった。
尚ジャマイカにおけるゲイバッシングに関してはスペースの都合上本稿では詳しい説明は行わないが、踏み込んで知りたい方はwebメディア『KAI-YOU』にて筆者が執筆した記事をお読みいただきたい。

実際にシーンでは彼女をバッシングする著名人も現れ、アーティスト本人もカミングアウト直後はメンタルヘルスの不調を訴え、一時音楽活動からは遠ざかる。「レゲエ新世代代表」はこのまま消えてしまうのか……と、危惧する声も少なくなかった。
しかし彼女はそこで終わらなかった。その後もアーティストとして活動を続け、直近ではPopcaanと共にあのアフロビートの大スター・Burna Boyのジャマイカ公演のフロントアクトに抜擢。国立競技場に集まった数万人の観衆を前に堂々としたパフォーマンスを見せつけた!!

2023年、そんな波乱の人生を歩んできた最注目のレゲエ・アーティストがコロナ禍を経ていよいよ日本の地を踏む。
果たして彼女は因習を打ち破りシーンを新時代に導く「救世主」なのか!? それともこのカルチャーの伝統を破壊し、神の心に背く「モンスター」か!?(※ジャマイカにおけるゲイバッシングは聖書の記述などに基づいて行われることが多い)

残念ながらぼくはそれをジャッジできる立場にない。
それは是非これを読んでる皆さんが彼女の生の歌声を聴いて判断してもらいたいと思う!!

Jada Kingdom

2021年、前述のリラの直後、一日違いでカミングアウトを行ったのがJada Kingdomである。彼女もまた、現行シーンを代表する女性アーティストで、リパブリック・レコードと契約しメジャーデビュー済。
これも、だいぶ騒がれたニュースだったのだが、リラ・アイケが過去のレイプ体験なども告白しだいぶ「重い」内容だったのに対し、彼女がTwitterに投稿していた文章は絵文字なども使ってパッと見かなり明るく、正直あまり悲壮感は感じられなかった。同じ女性アーティストでもこうも違うものかと思ったものである……。

また、インスタグラムには年下のラッパー彼氏とのラブラブ模様が多数投稿され、彼氏からもらった指輪のお返しにブリンブリンなカルティの腕時計をプレゼントする動画なども残っている。正直「結局あのカミングアウトは何だったんだ??」と思ってしまったのも事実である(人の性的嗜好に口を出すのもアレだと思うが)。

しかし、幸せな日々は永くは続かなかった。22年の年末にはラッパー彼氏と破局し、彼の子供を流産したことをSNSで発表。また、双極性障害を患っていることも同時に話され、この時インスタの過去投稿は「全消し」されている。

“真面目な男が私と関係を持ってアホになっちゃった。
かんべんしてよね、アンタとは一回ヤっただけなんだから
アソコが良すぎるのも考えものだわ
やめてー、めっちゃ鬼電くるんだけどー!!”

自身の代表曲であり2022年の大ヒットTUNEである『GPP』の一節であるが、そんな勝気なリリックとは裏腹に本人はけっこう“メンヘラ”な人なのであろうか。自分も好きなアーティストであるだけに元気に歌い続けてもらいたいものである。

ちなみにこの文章を書いてる段階で前述のラッパー彼氏(まぁ今では“元”がつくが)が人を撃って逮捕。「殺人罪」で起訴されたというニュースが飛び込んできたばかりである。

Spice

そしてリラ・アイケ、ジェダ・キングダム、この二人のカミングアウトから間髪入れずに発表されたのがSpiceが翌年カナダで開催される世界最大級のLGBTQフェスに出演するという衝撃のニュースである。
SpiceはVybz Kartelにフックアップされ、2000年代『Ramping Shop』の大ヒットでシーンの第一線に躍り出たアーティスト。キャリアもゆうに20年を越す大ベテランで、シーンの中では“Queen of Dancehall”の通称で知られている。特に21年は『Go Down Deh』が自身のキャリアの中でも最大級のヒットとなり、同曲は毎年恒例の“バラク・オバマのプレイリスト”にも選出。YouTube再生回数は既に1億回を突破している。

そんなアーティストが性的マイノリティを擁護するスタンスを取ったことでシーンに与えた影響は大きく、SizzlaやベテランセレクターのFoota Hypeは彼女を非難。
特にシズラの拒否反応は相当なもので、「レゲエやダンスホールを邪悪なやり方と混ぜないでくれ。この音楽はホモセクシャルやレズビアンを非難するものだ」と、自身のインスタにて痛烈に書き綴っている。

投稿では“ジャマイカに銃はいらない。異常性愛もいらない”としめくくられており、彼の中で異常性愛(と、シズラが見なすもの)は銃による暴力と同列のものなのである……。
まさにレゲエミュージックは“闘争”の音楽なんだと言うことを改めて痛感させられるようなエピソードであるが、実はスパイスがこのカルチャーのタブーに“物申した”のはこれが初めてではない。

2018年、彼女はインスタを全消しし、たった一枚、別人かと見紛うほど肌が白くなった自身の写真を投稿する。もちろんすぐに大騒ぎとなり、当該のポストには7万件以上のコメントが殺到。いったい何が起こったのかと誰もが思ったが……10日後、彼女はインスタグラムに元通りの褐色の肌の写真とともに新曲『Black Hypocrisy』の一節を投稿。

Proud a mi color, love mi pretty black skin, respect due to mi strong melanin
私は自分の肌の色にプライドを持ってる、自分の美しい黒い肌を愛してる、私の強いメラニン(黒色素)はリスペクトされるべきなの)

すべては楽曲のプロモーションであり、体を張った問題提議であったことを明らかにした(※リリックや当時の状況などはBUZZLE MAGAZINEさんを参照させていただきました)。

日本人には分かりづらいところだが、黒人の伝統的な美意識で“肌の色が薄い方が美しい”というのがあり、ジャマイカでは多くの若者が人為的に自らの肌を“漂白”したりする! その起源は奴隷制のあった時代にまで遡ることができ、アメリカには『The Blacker the Berry』という、そういった肌色に対する黒人間の差別を描いた有名な小説も存在する。

アフリカ系アメリカ文学史上、このテーマを扱った代表的な作品がハーレム・ルネサンス期の黒人作家ウォレス・サーマンの小説『ザ・ブラッカー・ザ・ベリー 』(1929)である。主人公のエマ・ルー・モーガンは肌の色の黒い女性で、そのことで同じ黒人から差別を受け続ける。生まれ育ったアイダホ州は黒人が少なく、より多くの同胞を求めてカリフォルニア州の大学に進学するものの、彼女は黒人の仲間から拒絶されるのだ。仕事を求めて訪れるニューヨークでも、肌の色の薄い黒人女性を雇いたがる黒人男性に面接で落とされ、肌の色の薄い黒人男性に もてあそばれるなど状況が好転することはない。黒人男性は肌の色の薄い子供を欲しがるため、自分よりも肌の色の黒い女性との結婚を望まないなどの記述もあり、黒人コミュニティー内の差別の根深さが窺える。

大和田俊之著『アメリカ音楽の新しい地図』より

ちなみに『The Blacker the Berry』は、近年Kendrick Lamarの同曲名に引用されたことでも注目を集めたが、ここで彼がラップする
“The blacker the berry, the sweeter the juice(ベリーは実が黒いほどその果汁は甘い)”
とは、黒人以外の人種に向けて言ってるように聴こえて、実は同じ黒人に向けたメッセージでもあるのである……。

Shenseea

そしてSpiceとは犬猿の仲、ライバル関係にあるアーティストと言えばShenseeaである。
韓国人とのハーフでアジア系。見るからに肌の黒いSpiceとは対照的に肌色も薄く、その端正なルックスからジャマイカでは国民的アイドルとしての一面も持つ。デビュー当初からPEPSIなど大企業のCMに出演、広告モデルも務めるなど若くしてスター街道を歩み出す。

2019年にはユニバーサル(※正確には傘下のインタースコープ。ちなみにレーベルメイトはエミネム)から鳴り物入りでメジャーデビュー。その勢いのままKanye Westのアルバム『DONDA』に二曲客演で参加したり、世界最大級のHIP HOPフェス『ROLLING LOUD』にもゆいいつのレゲエアクトとして初出演。USでも日増しにその認知度を高めている。

前述の『ROLLING LOUD』はあの『レペゼンフォックス』がタイ公演に出演するということで、ここ日本でも(半ば炎上気味に)その名が知られるようになったフェスだが、シェンシーアは同フェスに初出演した際、こんな一文を自身のTwitterに投稿している。

「私が歌い始めた頃、“女はこの世界じゃ通用しない”って言われた。だけど私は、ジャマイカからROLLING LOUDに出た初めてのアーティスト。
女が歴史を作るんだよ!!」

こんなセリフはまさに彼女にしか言えないであろう。レペゼン女性!!

そんな彼女が打ち破った“タブー”と言えばオーラルセックスだ。実はジャマイカでは男性が女性に「お口でする」のは不潔な行為とされており(昔は男女ともにダメだった)、「女の股ぐらに顔を突っ込んでる奴は燃やしてやるぜ!!」なんて、よくサウンドクラッシュのねたにも使われる。

シェンシーアは22年、プライベートでも親交のあるUSの超有名ラッパー・Megan Thee Stallionをフィーチャーし、楽曲『Lick』をリリース。
「Lick、Lick、Lick(舐めて、舐めて、舐めて)」
と挑発的に煽った。もちろんセンセーショナルなトピックとしてシーン内でもかなり話題に!! そのあたりのことに関しては筆者が作品リリース当時に書いたnote記事を参照してほしい。

ちなみに上記記事を捕捉しておくと、『LICK』のMVでシェンシーアとミーガンが披露している濃密な絡みは、言葉が分からずともそれが女性同士の“百合プレイ”の暗示だということは誰しもが理解できるだろう。

実はこーいった描写は近年のジャマイカの流行であり、前述のスパイスは
「私がカナダのLGBTQフェスに出ることで色々言う人たちもいるけど、じゃあ最近の若い子が作ってるようなMVはいったい何? それに関しては何も言わないんだ?」
と、インタビューでは怒りを露わにしている。

ことの是非を考えれば賛否両論あって当然だと思うが、こーいったシーンの動向が女性アーティストのカミングアウトのハードルを下げているというのも、また事実である。

Ishawna

そしてシェンシーアより先に「ク●ニ」の歌をうたったアーティストといえばIshawnaだ。
背景には男性アーティストのリリックの中にフェ●チオの描写が増えたことがあり、“男がそんなに言うなら女だって……”という発想でリリースされたのが“PEPSIのボトルみたいに私を吸ってよ!”とのたまう『Equal Rights』(直訳すると“平等の権利”という意味になる)。ちなみに『Ed Sheeran / Shape of You』のRemix曲でもある。

しかし、既にメジャーデビュー済でミーガン・ジー・スタリオンという世界的スターも巻き込んでタブーに挑んだシェンシーアの場合とは違い、アイシャーナが前述の『Equal Rights』をリリースした時は彼女に対するバッシングも凄いものがあり、大御所アーティストBounty Killerに至っては
「おれと同じステージに立った時、あの歌をうたったらあいつを殺す!!」
と苛烈に言い放ったほどである(ちなみにシェンシーアが『Lick』をリリースした時はノーコメント)。

そんなゴタゴタもあり、アイシャーナもリリースからしばらくは活動が沈静化していたのだが……リリースから4年後、2021年に彼女の身に奇跡のような出来事が巻き起こる。

何と、元ネタ『Shape of you』を歌うエド・シーランが、この楽曲を「発見」し、インタビューで“あのRemix、最高だよ”と発言したのだ!!!
ここから事態は急変。もともと、レゲエ好きなエド本人ともアイシャーナはコンタクトを取り合うようになり、22年にはコラボ楽曲『BRACE IT』がリリースされるまでに至る!

その勢いのまま彼女が挑んだのが歴史と伝統を誇るジャマイカのBIGフェス『SUMFEST』で、アイシャーナはステージに等身大のボンティのパネルを持ち込み、何とその顔の上に“またがる”仕草を!!

これはジャマイカ国内でも大きな話題となり、SUMFEST直後ボンティは“マットレスのクソ女!(マットレス=誰とでも寝る女、という意味)”とSNSで彼女をDis!! 筆者はアーティスト本人がインタビューで
“行儀のいい女は歴史を作らない”
と、今回の件を語っていたのが印象的だった。これはピューリッツァー賞を受賞した歴史家であり、ハーバード大学の教授でもあったローレル・サッチャー・ウルリッヒの名言である。
ただウルリッヒ女史のこの言葉は、「今の社会では女性が慎ましく生きていても評価されることはあまりない。そうではなくもっと普通の女性たちが報われるべきだ」という意味で言っているのであり、本当は逆なのだが……。

しかし今回の件で彼女が「抹殺」されることはなく、それどころかこの後にNYを拠点とするHIP HOP系レーベルPayday Recordsと新たなアーティスト契約を締結。DJプレミアとレーベルメイトになっている。

“行儀のよくない女”はこの先どんな景色をぼくらに見せてくれるのだろうか? 海の向こうから慎ましく見守りたい。

Koffee

最後に紹介するのはKoffeeである。恐らく、この記事で紹介した中ではもっとも日本での認知度が高いアーティストではないだろうか?

10代という若さでデビューし、2019年にはMAJOR LAZERのWalshy Fireがプロデュースした『TOAST』が大ヒット! 同曲はその年の「バラク・オバマのプレイリスト」にも選出される。

翌20年には初EP『Rapture』がグラミー賞にて最優秀レゲエ・アルバムを受賞。史上最年少、女性アーティストとしての初の受賞という偉業を成し遂げ、シーンにおける最重要アーテイストの一人としてその地位を不動のものに。

その勢いはとどまることを知らず、世界的ファッション誌『ELLE』の「未来を変える先駆的な10人の女性」特集にも登場。またH&MのCMなどにも大々的にフィーチャーされ、カルバン・クラインのキャンペーン・モデルを務めたことも話題となった。

2022年にはデビューアルバム『GIFTED』からのシングル『PULL UP』で米NBCの長寿番組『TONIGHT SHOW』にも出演。『GIFTED』は全英アルバム・チャートTOP 10入りも果たし、ジャマイカ出身の女性アーティストとしては27年ぶりの快挙となった。『PULL UP』はこの年の“バラク・オバマのプレイリスト”にも選出。
また、同年あの超有名フェス『Coachella』にも初出演している。

現在「23歳」という若さながら、信じられないほど華やかな道をずっと歩み続けているように見える……が!

デビューしてから日増しに格好もボーイッシュになっていき(単なるファッションだと言えばそれまでだが)、筋肉はどんどんムキムキに。女性ファンとの「込み入った」内容のDMのスクショが流出して騒ぎになったりと、彼女のセクシャリティに関しては未だ謎に包まれた部分が多い。

2023年、そんな彼女の中の何かが爆発したような形でリリースされたのがあのSam Smithにフィーチャーされた『Gimme』であった。

ご存知の方も多いと思うが、サム・スミスと言えば2014年にゲイであることをカミング・アウトしたアーティスト。
MVのシチュエーションはどこかの秘密クラブのようなおもむきで、同性同士がキスをするカットも挿入され、主役のサムはお尻をほぼ丸出しにして悩まし気に腰をくねらせる、そしてfeat.されたコフィーはその隣で軽快にトゥースティングし……まぁ「百聞は一見にしかず」なので詳しくはMVを見た方が早いだろう。
今年に入ってすぐリリースされたこの楽曲(とMV)は、現在も賛否を呼んでおり「もう2023年なんだし別にいいじゃん」という意見もある一方、「コフィーは金に魂を売った」「このカルチャーを冒涜ぼうとくした」という否定的な考えを持つ人も一定数存在し、まっぷたつに割れている……。
ひとつだけ確かなのはもしこれが10年前だったら確実にコフィーはシーンから「消されて」いただろう。

思えば史上最年少、19歳という若さで初の女性アーティストとしてグラミー賞を受賞した時から、コフィーはその肩にあまりにも多くのものを背負い、また背負わされすぎてきた。

「私は誰のあやつり人形でもねぇ! 一人の人間として生きたいように生きるんだよ!!」

ぼくにはコフィーがそんな心の声を発してるように思えてならず、必死に何かにあらがってるように見えた。

あとがきにかえて


「男社会のレゲエやヒップホップの世界で女性は常に抑圧された存在で……」
なんて、どこかで聞いたようなミソジニー論をここで振りかざすつもりは全くない。

何故なら筆者は“男”だし、そんなこと言ってる暇があるならパーティー行った時もっと女の子にお酒奢ってやれよ!って話。そして、もうひとつはここに紹介したアーティストたちはみな、到底“フィメール”という枠では語れないからだ。

だってスパイスの『Go Down Deh』は現時点でYouTubeで1億7000万回以上聴かれてる曲だけど、今のシーンの中で再生回数が“億”を超えるようなアーティストが果たして何人いるだろうか?
シェンシーアはTIME誌の『世界でもっとも影響力のある100人』にも出たミーガン・ジー・スタリオンとも曲をやってるけど、ミーガンと絡める人間が他にいるだろうか?
コフィーはH&MのCMにも出たけど、今のジャマイカにそんな世界的企業と仕事が出来るアーティストがどこにいる??

ここに採り上げたアーティスト達はみな、今のジャマイカを、現行のレゲエ・ダンスホールシーンを代表する人たちばかり。
そしてそんなアーティスト達がいま、女性ならではの感覚で現在のシーンを変えようとしている。

冒頭に記したようにレゲエは“ルール”のある音楽。始まって既に三年が過ぎようとしている2020年代、女性アーティストたちがその“ルール”を書き換え、このカルチャーをアップデートしようとしている。その変化に戸惑う人たちも多いだろう……。

しかしぼくは思う。
「だからこそこの音楽からはずっと目が離せないんだ!!」と。

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