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絶景温泉200#3【式根島・松が下雅湯】

新しくスタートした連載「絶景温泉200」。著書『絶景温泉100』(幻冬舎)で取り上げた温泉に加えて、さらに100の絶景温泉を順次紹介していこうという企画である。

第3回は、式根島の松が下雅湯(東京都)

意外に思われるかもしれないが、東京にも絶景温泉がある。伊豆諸島を構成する島のひとつ式根島(東京都新島村)は、周囲12㌔と小さな島ながら、野趣あふれる露天風呂が点在する。

夜、東京の竹芝桟橋から大型客船さるびあ丸に乗船すると、約11時間後の早朝、式根島に到着する。デッキに出ると、太陽の光でキラキラ輝く海面の向こうに、断崖に囲まれた野伏港が見えてくる。紅色の灯台が旅情をそそる。ちなみに、季節により運航する高速ジェット船なら約3時間の距離だ。

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野趣あふれる露天風呂は島の南岸に集中している。「地鉈温泉」「足付温泉」「松が下雅湯」は式根島の三大露天風呂である。

「地鉈温泉」と「足付温泉」は気軽に入浴できる湯船ではない。波打ち際の岩場に湯船があるため、満潮時には海水が入り込んでしまう。潮の干満によって入浴に適した時間が異なるのだ。まさに天然の〝海中温泉〟といえる。

特に地鉈温泉のロケーションは格別。その名の通り、地面を巨大な鉈で割ったかのようなV字の谷に湧く温泉で、急な階段を下りていくと、岩場から80度の赤茶色の湯が湧いている。

式根島写真⑧A

「温泉に入るのが日課」と話す宿の主人に、満潮の1時間半前後が入浴に適していると聞き、時間を合わせて向かったが、実際には熱い湯とぬるい湯が混在。適温の場所を探して入浴した。地元の人いわく「式根の温泉は潮に聞け」。一筋縄ではいかないのも海中温泉の魅力である。

式根島写真⑤A

海水並みに塩辛い湯は成分が濃厚で、数分つかっているだけで額に汗がにむ。地元では地鉈温泉は「内科の湯」、足付温泉は「外科の湯」と呼ばれ、古くから住民の“命の泉”であった。島の温泉で出会った地元の皆さんが実年齢より若々しく見えたのも温泉効果の一種かも、と納得。

波打ち際にある「地鉈温泉」と「足付温泉」は、ロケーション的には十分、絶景温泉の条件を備えているが、いかんせん入浴できる時間がかぎられ、少なからず冒険の要素がある。万人におすすめできる温泉ではない。

そこで絶景温泉として紹介したいのは、「松が下雅湯」である。その名の通り、松の木の下に湯けむりをあげる。

先の2つと違って潮の干満に関係なく、24時間入浴できるため、地元の人や観光客でにぎわう。泉質は地鉈温泉と同じで、褐色に濁ったパンチのきいた湯がかけ流しにされている。

「式根松島」と称される海の景色を眺めながらの湯浴みは最高だ。体が熱くなったら海の風で涼む。そんなぜいたくな時間を過ごしていたら、あっという間に時間が過ぎていく。夜、満天の星を拝みながら入浴するのもおすすめだ。灯りの少ない島だから、その分、星が無数に見えるという。

なお、3つの露天風呂はいずれも混浴のため、水着着用がマナーである。

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