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「ソロ温泉」だからこそ交流が生まれる

温泉に入っていると、湯船でいっしょになった人から話しかけられ、会話に花が咲くことが少なくない。

つくづく温泉というのは不思議な空間である。たまたま居合わせた見ず知らずの他人同士が、初対面にもかかわらず心を通わせる。このような空間は、日常ではあまりないだろう。

何も身につけていない無防備な姿だからこそ生まれるコミュニケーションなのかもしれない。

「ソロ温泉は孤独」というイメージをもつ人もいるが、じつはソロだからこそ交流が生まれやすいのである。

交流が生まれやすい「共同浴場」

湯船での交流が生まれやすいのは、なんといっても地元の人が通っているような共同浴場である。

共同浴場は簡素なつくりである一方、新鮮な源泉がかけ流されていることが多い。ソロ温泉で共同浴場がある温泉地を訪ねたときは、宿の湯だけでなく、共同浴場の湯も堪能したい。

毎日通う地元の人から見れば、私のような旅人は一目でわかる。だいたいは「どこから来たの?」と話しかけられ、コミュニケーションが始まる。相手の話が止まらなくなり、湯船からあがるタイミングを逸し、のぼせそうになることもしばしば。

地元の人との交流は楽しいし、地元の貴重な情報を教えてもらえることもある。何より旅の思い出として心に残る。

このような交流が生まれるのは「ソロ」ゆえである。仲間や家族といっしょであれば、基本的には内輪で話すことになる。まわりの人からすれば、話しかけにくいだろう。ひとりであれば、気軽に話しかけやすい。

もちろん、頻繁に話しかけられるわけではなく、会話が生まれるほうが珍しい。しかも、今は「黙浴」がマナーであるから、なおさら交流の機会は少ない。それでも、もし会話のできる機会があれば、湯船での交流を楽しみたいものである。

温泉でもまずは「あいさつ」から

温泉初心者から「共同浴場はアウェー感があって入りにくい」という声を聞いたことがある。慣れてしまえばなんてことはないのだが、共同浴場に入るときのちょとしたコツをお教えしよう。

私は共同浴場に入るとき、次のようなことに気をつけている。

「こんにちは、とあいさつをする」
「湯船に浸かる前に、かけ湯をする」
「湯が熱くても無断で水で埋めず、どうしても我慢できないときは断りを入れる」
「最初は湯口から遠いところ(湯尻)から入る」
「脱衣所にあがる前に、体をよく拭き、湯で脱衣所を濡らさないようにする」
「帰り際には、いい湯でした、などとあいさつをしてから出る」などなど。

なかでも大切なのは、入浴前にあいさつをすること。これだけでも、全然違う。地元の常連さんにとっては、共同浴場は家の風呂同然。家の風呂に、見知らぬ顔の人間が入ってきたら警戒して当然だ。しかし、明るくあいさつを交わせば、自然と警戒もとける。

福島県の飯坂温泉の共同湯をめぐっていたときのこと。飯坂の共同浴場は湯が熱いことで有名だ。鮮度のよい高温の湯がかけ流しにされているのだから熱くて当然だが、なかには46℃くらいある湯船もあって、熱い湯に慣れている私も苦戦したほどだ。だから、はじめて来た観光客のなかには、勝手に水で埋めてしまい、地元の常連さんとトラブルになることもあるという。

ある共同浴場の湯が熱くて、私が浸かるのを躊躇していると、地元のおじさんが「お兄さん、水入れてもいいぞ」と言ってくれた。それをきっかけに温泉談義で大いに盛り上がり、おじさんから元気をもらった。

声をかけてくれたのは、事前にあいさつをして打ち解けていたからだ、と私は思っている。マナーひとつで、温泉は快適にも、不快にもなるのだ。

ソロ温泉は湯や自分と向き合うことが目的だが、地元の人との交流も日常では味わえない旅の醍醐味でもある。ソロならではコミュニケーションを愉しもう。


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