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【読書記録】ケストナー「ふたりのロッテ」

岩波書店の「ケストナー少年文学全集」第6作。初版は1949年。実は大学時代にドイツ文学を勉強したことがあるのだけど、ケストナーは読んだことなかったので初読だった。

ドイツ文学の翻訳で言わずと知れた高橋健二の訳と解説で、この解説がシンプルながら、作品の書かれた背景を的確に説明していてわかりやすかった。それによると、もともと映画の脚本として書かれたものをケストナー本人が小説化した作品なのだそう。映画脚本を書いたのはまだナチス政府から執筆を禁止されていた時期で、戦後になってようやく公開されたとのこと。この時期のドイツ語圏の作品にはナチス政府の影が色濃いことが多い。このような児童向けの作品であっても例外ではないんだなと少し驚いた。

作品自体はとても楽しいもので、ネタバレは避けるけど、二人の女の子が自分たちの少し悲しい生い立ちに気づき、やがてその行動力を発揮してハッピーエンドにいたる物語。物語の肝になる設定をフルに活かして飽きさせない工夫が随所に凝らしてあって、やはり映画向きに作られたストーリーなんだなと思った。小説では離れて暮らす二人の様子が交互に語られるので、時々「どっちがどっちだっけ?」となってしまうこともあったけど、それでも普通にグイグイ引き込まれてしまうのはケストナーの描写力のなせる技か(そもそもこの作品の設定からして「どっちがどっち?」となってしまうのも作者の意図するところかもしれないけど)。

あと個人的に面白かったのは離婚した両親が再会して和解をするシーンで、部屋の中で和解に至るまでの会話を描写した後、突然その部屋を外からのぞく二人の娘の描写に切り替わって「お父さんが、お母さんにキスするわ!」と会話を交わすところ。両親がキスをして仲直りすることと、それを見て娘たちが大喜びすることが一度に描かれていてるのがなんというか「巧い」。これ別々に描いていたら間伸びしてしまうのではなかろうか。こうした細かいところまでニヤリとさせられることが多くて、ストーリー以外の部分でも満足いく部分が多かった。

私自身が高校時代から大江健三郎とか中上健二とかいわゆる「純文学」と呼ばれるジャンルばかり読み漁ってきたこともあって、こうした子供向けの作品はほとんどノーマークだったけど、これは十分に面白いし、なにより読んでいて楽しいぞ、と気付かされた作品となった。児童文学、ありです。

ちなみにこの「ふたりのロッテ」は1951年に「ひばりの子守唄」として日本でも映画化されていたとのこと!タイトルから分かる通り主演は美空ひばり。その後1991年から日本のテレビアニメとして放送、割と最近まで劇団四季がミュージカル化して全国公演やっていたらしい。全然知らんかったけど、ストーリーがしっかりしているのでメディアミックスもやりやすいんでしょうかね。

70年以上前の小説ですが、得るところの多い作品だと思いました。

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