見出し画像

映画監督『クリストファー・ノーラン』に、 なぜ注目があつまるのか?

『クリストファー・ノーラン』の新作「TENET」を見た。
またもや時間逆行の物語で混乱。大画面で見た迫真なアクションシーンが強烈で頭からまだ離れない。彼の作品にしては少し色彩的には地味だったが、やはり流石、彼のこだわりに合わせてIMAX大画面で見てよかった。後からじわじわ、色々なシーン、主人公のスーツの柄までが頭の中に蘇る。

この彼の作品の公開は、コロナ禍での大作映画のテストケースとして注視を集めていたけど、めちゃくちゃ予想を超え大成功しているので、わたしは真面目に一映画ファンとして嬉しい。映画業界全体がホッと胸を撫で下ろしただろう。

ところでオランダでは、新しい映画が始まる前にプロモの一環として、監督や、主役の映画作品がテレビでガンガン放映されるという、嬉しい習慣(!)があり、公開前にクリストファー・ノーラン監督の作品のほとんどを見れた。大復習ができたので、今回は彼、クリストファー・ノーランのこだわりや仕事のことを中心に彼の映画全般のおさらい。

長いので、最後までお付き合いできない方は、最後は飛ばしてください。


彼のプロフィールと人物像


1970年生まれの獅子座生まれ。出身、イギリス。二重国籍者。(父親がイギリス人、母親がアメリカ人)幼少の頃はロンドンと、シカゴで過ごす。現在は、映画プロデューサーである妻の、エマ・トーマスさんと4人の子供と共にロサンジェルスに在住。奥さんとは、大学の初日に出会ったとか。

小さいころから8mm映画制作を始める。大学はロンドンのUCLに通いながら、16mm短編映画の製作をする。なんとロンドン時代は不遇。新しい物に不信感があるイギリスでは彼の考え方は受けいられなかったようだ。「イギリスは閉鎖的な場所」とインタビューで答えている。

1作目の、「フォロイング」では脚本、製作、監督、撮影、編集、5役を一人でこなすことからもわかるように、常に現場主義。
超低予算、6000ドルで映画製作をした。

有名になったのは、トロント映画祭に出した、2作目「メメント」から。
弟の書いた短編をもとに脚本を書く。この時にはもう400万ドルの予算があった。斬新なストーリーテリングで世間があっという間に彼に注目。ここで色々な賞をとった後、バットマン・シリーズの監督に抜擢される。
弟とはこの後も共同脚本などで一緒に働く。
もう一人の天才と言われる弟、ジョナサン・ノーランの方はテレビドラマ界の方でも活躍中。(いつかこの人についても調べて書いてみたい。)

またノーランは小さい頃から、ジョージ・ルーカス監督や、スタンリー・キューブリック監督、スティーブン・スピルバーグ監督に大きな影響を受けている。
彼は成功してからも、スピルバーグに「ダンケルク」の製作の助言を求めたりしている。スピルバーグが降りた映画「インターステラー」で、ノーランがその後を継いで映画を完成させたりなど、この二人は縁があるようである。
いつも彼の映画の話の中に家族の絆を揺るがせる何かが出てくるのも、スピルバーグの手法を見習っている。主役らの内面の葛藤などを描いて、非現実的な世界へ観客を誘導するためにベースにしている。

またタランティーノなどの監督たちと共に、コダック社の工場閉鎖に伴い、絶滅寸前になったフィルムを救ったりもしている。とにかくフィルム主義。アナログ主義である。(富士フィルムは2013年映画製造フィルムから撤退)

無類の本好きである。
それも、彼の本の読み方は変わっていて、結末から本を読んでいくのだという。このような習慣から、ありきたりの結末になるような物語を作らないと決めたことが伺える。

時間に正確でスケジュールや予算管理が念入りで、この辺りはまるでビジネスマン? ウオールストリートで働く人と、アーティストの一人二役のようである。

最初「メメント」の監督とバットマンシリーズの監督が一緒だとわたしは全く気づかなかったというくらい、大衆主義の映画と芸術主義の映画の両方で成功している。(商業性と、作家性の両立ができている稀な存在。)

「ダークナイト・トリロジー」以降莫大な予算を使ったアクション映画を撮りつつも、哲学的・思想的な内容をストーリーに組み込み、単なる娯楽映画ではない作品を提供する点も忘れてはいけない。

SFであろうが歴史の話であっても、全ての作品にリアリティを追い求める。彼のいうリアリティとは、これから自分で作る未来のリアリティもあれば、夢の中の全てのレベルでのリアリティ、時空を超えてのリアリティという意味もである。

観客が観たことのない映画、自分が見たい映画を作るという、強い意志。

映画を貫くコンセプトは


彼は映画のバットマンシリーズ「ダークナイト・トリロジー」などの成功で有名になったと知る人も多いけど、わたしは「メメント」が一番最初の彼の映画の成功としての記憶している。
「メメント」は短時間の記憶のことしか覚えてない主人公の話。殺された妻への復讐劇なのだけど、時系列が逆向きに進行するという奇想天外な構成で、なんだかすごい映画が出てきたと思って驚いた。
そして以前「Note」でも紹介した、トランスセンデンス」(下線で私の記事へ飛びます)では現代社会への警告か、と思われるシンギュラリティの問題がテーマだった。(制作総指揮のみ)
「インソムニア」はアルパチーノ主演の不眠症の話で、やはり時間の遊びやトラウマ、記憶について描かれている。白夜の中での映像美も特別である。
またわたしが好きな話「インセプション」では、夢の中に夢が、そしてまた夢がという夢の三重構造の話で、他の人の夢に入る産業スパイのストーリー。この話をすぐにわかった人はいないと思う。完璧観客は大混乱! 家に帰って観客は復習したのでは。
「インターステラー」では、地球が滅亡しそうなので、宇宙へ移住する国を探しに元エンジニアが行く話であるけど、絡み合う時間と場所という話の複雑さが魅力。物理学がわからない私にはめちゃ難しいのに、相対性理論だの、量子力学だの、特異点を知っていたらもっと面白いと思った。
(これは、もう一人の天才と言われるクリストファーの弟、ジョナサンがこのために大学で勉強した脚本力も成功の陰にどーんとある。ちなみに弟の方はアメリカの大学へ進学したため、兄弟なのに英語の発音は違う。)

「ダンケルク」では歴史的に人類が体験したことを現在の観客が体験できるように作られたものとも言える。イギリスでは神話的な第二次世界大戦の時の兵士救出作戦の話は、決して神話ではないということをヴァーチャルに慣れすぎた現代人へ警句として作られたのだろうか? 

どの作品も一度見ただけではいろいろな事がわからない。時間の遊びが常にあり空間の移動もある。3次元の移動の話も交えると複雑すぎる。
そして現代の私たちが抱える世界的な危機の問題が常に映画の中にある。

根底には家族愛や、地球を救うというヒーローの話だけでなく、個人的にどう人生へ向かっていくのか、ということへの警句が散りばめられている。

とにかく私たちの頭を混乱させ、自分で考えさせることを目的にしてるのかもしれない。最後はわざと、曖昧にして考えさせられる結末になっているようだ。

​(お時間がある人は、この下のプリンストン大学での彼のスピーチも是非。若い人に向けて自分たちの夢、リアリティを少しずつ構築していってくれ、などと話してる)


彼自身の映画作家としてのこだわり


一番は、どの作品でもCGやデジタル化を嫌い、未だに映画制作にフィルムを使う事。コダック社と契約したフィルムを使ってる。

SFの映画「インターステラー」や「インセプション」などであってもネットを感じさせるもの、スマホ一つさえ出てこない。

撮影もCGを嫌いIMAXカメラを多くのシーンで使う。
とはいえCGに関しては、今回のテネットなどでも俳優たちにどういう映画になるのかをイメージさせるために使ったり、撮影場所に既になくなってしまったものがあると、それをあるように見せるため使ったりはしているようだ。でも必要以外には使わないようである。

そして全て本物にこだわるので、本物のジェット機を買ってそれを爆発させたりするのが彼の映画では普通である事。(テネット)
あるいは、大量のエキストラを雇う。それにより、身体を張った自然な演技を俳優にさせる。(ダンケルクの1300人)、(ダークナイトライジング、1000人)
また他の映画だったら、大勢を使ったアクションの場面での人々の動きがもっと早いのだけど、彼の場合、かなり遅い。戦う人間たちが装備していたら、そうそう早い動きができないというリアル感が観客にも映画を通じてよくわかる。

キャスティング。18歳の役に30歳の役者をつけるというハリウッド的な役者の選び方をせず、18歳のアマチュアなどを、昔ながらのキャスティングで選んだりしてフレッシュ感、自然な感じを大切にする。(ダンケルク)

映画によっては、演じる俳優自身に、キャストされた役の背景やストーリーを考えさせる事。(テネットなど)

シナリオ作り。何年もかけて考え尽くされたシナリオの強みは他の映画にあるようなありふれた物語にならず、彼らしい複雑さを持つ。

彼の現場での仕事の仕方って、どういう感じ?


今までの映画監督、例えばタランティーノとか、コッポラ、黒澤などのカリスマ的な雰囲気を持つ人たちに比べたら、彼は知性派で、一瞬彼のことを普通の人、あるいはビジネスマンと思う人もいると思う。実際、わたしは仕立てのいいスーツ姿の彼を見て初めは監督だと分からなかった。

プロフィールにも書いたように奥さんが、プロデューサーのエマ・トーマス。弟が、シジョナサン・ノーラン。彼の短編をもとに、「メメント」の脚本が書かれてる。今でも彼との共同脚本が多い。
見た目は従来の映画作家たちとは違うけれど実は、案外とコッポラのように家族で映画作り?

仕事のスタッフはほとんどが常に同じメンバー。それにより、大きな撮影ミスや、コミュニケーションミスを防いでいるようであるが、俳優も、マイケル・ケインなどお気に入りの役者さんがよく出てくるなど、本当に家族主義を感じる。実際はコストコントロールのためでもあるのだと思う。

また、第二班の監督を置かないで自分一人が常に全部を監督するという現場主義である。

ディレクターチェアは使わない。(俳優たちにも椅子を使わせないという噂が流れたが、それらは嘘である)


俳優たちが一様に話してるインタビューをまとめると、このCGで撮影するのが普通になってる風潮の中で、監督は大規模なセットを組んで大量の人々や、本物の戦闘機や、本物のジェット機を爆発するなど、やることが普通ではないので、俳優たちは演技を考えないで自然に反応してしまうらしい。

それはもちろん、彼の計算で、本物を使った映画へは役者だけではなく、観客も自然と入り込むことができる。映画を見てる間、他のことなど考えられなくなるほど、次のシーンを期待してワクワクしてしまう。

ディレクターチェアを自分に禁止してる彼であるが、彼の仕事に関わる人への禁止事項はというと。1 喫煙 2 携帯である


彼のコロナ禍への対応。


1 ワシントンポストの彼のコラム

このコロナ禍で、打撃をかなり受けた映画業界のためコラムを書いてる。アメリカ政府へ、援助を頼む内容である。この記事で映画は、映画を作る人たちだけが関係してるのではなく、映画館で働く人、切符を売る人、ロケバスサービスなどの人のことも含めて、映画産業がこのままだと危ないということを訴えている。

2 NETFLIXとは一緒にやらない。

今や、みなさん入りまくっているネットフリックスは、4月までで全世界で1500万人超が加入したと言うことで、6月までですでに25%の増収している。彼の映画は、今まで一度もネットフリックスには登場してない。

彼の考えはというと、「ネットフリックスの映画は無意味、心のないポリシーのもの全てをストリーミングすればいいというものではない。映画は、IMAX画面において最高にセッティングされ、サウンドトラックと、サウンドエフェクトの海にいるのが最高」と言うことである。
要するに劇場でやるべき映画を、ネットフリックスで配信する事に嫌悪を抱いているようである。ネットフリックスで配信されてる映画は、劇場では耐えられないレベルだともいう。

それに比べて、Amazonは劇場で公開された後に、アマゾンのプラットフォームへ移動してるので、、使用可能なモデルとして、彼はこれはありだと考えているよう。
また、「ネットフリックスが将来素晴らしい映画を作った場合、それを劇場で公開してから、プラットフォームに移動させたらいいのでは」とも言っている。その効果は素晴らしいものだからと。

3 これからの映画の試金石として。

最近作「テネット」である。
どう試金石なのかというと、この映画は上でも説明した通り、恐ろしく時間や人、お金がかかったものである。それが、成功しない場合、、、、映画を作ったあと、今回のディズニーがやったように、すぐさまネットフリックス、あるいはアマゾンプライムなどに、アップされるということになる。おそらく彼は、これを恐れてコラムを書くなどの活動をしていたようである。

今回IMAXで作るような大作主義が生き残れるかの大きな賭けには、彼は勝ったようなので、映画館ファンもホッとしたと思う。



彼の映画キャリア時間列まとめ


7歳からスーパー8で映画を撮り出す。

大学で短編映画を撮る。16ミリ。モノクロ。ロンドン時代はなかなか芽が出ずアメリカへいく。

1 Following(フォロイング)1998年 監督から編集まで5つの役目。モノクロ。時系列がシャッフル。
2 Memento(メメント)2000年、10分しか記憶のない男の話。ここで賞などを撮り有名に。弟の短編小説が脚本の元に。
3 Insomnia(インソムニア)2002年、アル・パチーノ主演の不眠男の話。4 Batman Begins(バットマンビジンズ)2005年、バットマンシリーズの監督に抜擢される。
5 The Prestige(プレステージ)2006年、二人のマジシャンの話。
6 The Dark Knight(ダークナイト)2008年、バットマン二作目
7 Inception(インセプション) 2010年、夢の中に入り込むスパイの話。8 The Dark Knight Rises(ダークナイト ライジング)2012年、バットマン3作目
9 Man of Steel(マン・オブ・スティール)2013年、スーパーマンの実写、制作&原案
10 Transcendence(トランセンデンス)2014年、AIと人間が繋がる?制作総指揮
11 Interstellar (インターステラー)2015年、滅亡間近な地球を時空を超えて、人々を救う話。
12 Batman v Superman: Dawn of Justice(バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生)、2016年 Man of Steelの続き。製作総指揮。
13 Dunkirk(ダンケルク) 2017年、第二次世界大戦の時の兵士救出大作戦を題材にしたもの。
14 Justice League(ジャスティス・リーグ、2017年 コミックの実写化。製作総指揮のみ。
15 TENET(テネット)2020年 *新作* タイムサスペンス。


新作、「TENET」

この新作についてはもっと詳しくまた先へ行って書こうと思う。テネットは、この時期に見ると、彼のこの映画に込めた意味がわかると思う。まだ見てない人は、コロナ禍ではありますが、映画館で楽しんで欲しい。

ところで、わたしは今回、クリストファー・ノーラン について考えすぎたせいなのか、昨夜は、空間や場所の違う夢の三重構造、過去と現在の二重という「インセプション」のような夢を見て、大変疲れて起きた。そのうち短編にでもしようと思う。








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?