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台風のような女



台風14号が、ようやく去った。
これで耳鳴りも頭痛もいくらかマシになる、そう安堵したのも束の間、
今週末には15号が大暴れする予報が出ている。
大型台風だそうだ。

...私が何をしたのいうのだ?
この時期のお空は躁状態にあるのか、
すこしの安寧すら与えてくださらないのだ。

大暴れなどやめにしませんか?
せめて、おもしろ可愛く
小躍りくらいでお願いしたいものだ。

台風といえば、友人に台風のような女がいる。

ワーキングホリデーで海外に住む彼女は、
とてつもなくタフでエネルギッシュなのだ。
先日、1年ぶりの帰国の便りがあり再会を果たした。
なんせとてつもなくタフでエネルギッシュな彼女だから、
台風被害とでもいうのか?
私は彼女の影響を大いに受けることになる。
その時の話を聞いて欲しい。


彼女の到来はまるで台風さながらである。

まず、帰国の便りと共に風速25m/sで再会の誓いが交わされる。(風速25m/sとは、屋根瓦がぶっ飛び、樹木がへし折れ、煙突がぶっ倒れる勢いである。

いざ、約束の日。
彼女は私の方へ
烈風を纏う(全力疾走でこちらに向かってきて)と共に、
爆音(大きな声で喜びを表現している)を立て、
充ち満ちたエネルギーを大放出しながらやってくる。


久々の再会で私が彼女へ最初に放った言葉は
「声でかっ!これがオーストラリアスケールか。」
である。
なんと気の利かないチンケで寒いコメントだ。
私は久々に浴びる彼女の猛烈エネルギーにぎゅうぎゅう押され、しばらくそれしか言えなくなっていた。

激しくこちらに向かってきたと思えば気がつくと私は、
彼女の土産話によじれによじれた腹がついに千切れてしまったのではないか、
などと些か不安になるほど大笑いしているのだ。
しばらく会っていなかったのに、
まるで昨日も一昨日も笑い転げていたような気持ちになる。


そうこうしているうち、私の脳内で延々と回り続け、いよいよ熱を帯び始めていた悩みなど、
彼女のエネルギーに連れ去られて消滅していた。

苔むした岩のようにじめじめとした体が、
洗い流され天日干しされ、カラッとしたような、
そんなよい心地になる。

そう、それはまさに台風一過である。
やっぱり彼女はとてつもなくタフでエネルギッシュなのだ。


あぁ、海外で女ひとりで暮らしてゆく。
それはどれほどのものと戦うことになるのだろう。
日本から出たことのない私には、ただ何となしに怖いだけだ。
だが彼女はそんなことを微塵も感じさせない。
夢中になって理想を追いかける彼女は本当に輝いている。

彼女はこう言う。
「人生で、今!まさに今この瞬間が一番楽しい。でも今までの人生、常にそう思ってきた。だから、私ずっと楽しい。」

心打たれた。台風の大雨よりも激しく。
彼女の猛烈エネルギーの根源は、このマインドにこそあるのかもしれない。
毎日、毎分毎秒が人生初めての瞬間であり
同時に最後の瞬間でもある。
時間に限らず全てのものごとは獲得と同時に喪失するのだ。(あくまで私個人の考えだが。)

せかっくの人生なのだから初めては存分に味わって心置きなく最後を迎えたい。
そうやって日々を紡いでいきたい。
失うことばかりを恐れていた自分が馬鹿馬鹿しく
幼稚に思えた。

ありがとう、台風の友よ。
私はね、1年365日あるうちの、360日くらいは
何かに怯えたり憤ったりして日々のアップデートを足踏みしている。
でもね、再会を果たして、
得ることも失うことも同じくらい愛していきたい。
そう思えたよ。

彼女は数ヶ月後にはまた、ワーキングホリデーの生活へ戻るそうだ。
寂しくなるね。でも、また会おう。
こんどは私も台風さながら現れるから、
...勝負だ!


次の再会を楽しみにすると共に、
彼女の幸運を祈る。Have a nice day.



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